【1】暖冬なのに“冬物”が好調だったブランド店

 1》暖冬なのに売れている?
 
 記録的な暖冬の影響で、得意の“鍋料理”が売れなかった
 和食レストランを経営するAさんが、3月に入ったある日、
 奥様と一緒にブランドショップに行ったそうです。
 そこで、奥様が洋服選びをしている間、
 その店の女主人と談話になりました。
 
 それは
 『今年は暖冬で、売れるものが売れないね』
 という“天候”の話題ですが、
 その日はいつもの“無難な話”に留まることはありませんでした。
 なぜならAさんが
 『コートが売れずに大変だったでしょう?』
 と聞いたのに対し、女主人が、
 『いえ、うちの冬物はいつもと同じように買っていただいています』
 と答えたからです。
 
 
 2》暖冬は“軽微”という予報
 
 しかも今、“春物”が比較的好調で、
 それなりに“景気”がよいというのです。
 
 テレビのニュースで“暖房器具や冬物コートの
 売れ行きが悪い”と聞いていたAさんは、
 なんだか妙な気がして調べてみたくなったそうなのです。

 
 そこでまず、過去の新聞記事を検索すると
 2006年12月25日付けの
 NIKKEI NETの記事が見つかりました。
 気象庁が今年の1~3月の気温予想をしたものです。
 そしてその記事には、
 暖冬をもたらすエルニーニョ現象は小規模なため、
 極端な暖冬にはならない
とありました。

 
 3》同じ高級店で売れ行きが違う
 
 『だから私は油断してしまったし、
  ブランド店の冬物は昨年中に売れたのだろう…』
 とAさんは納得しながら、それでも気になって、
 今度は気象データを調べてみたくなったのです。
 
 まだ疑問が残っていたからです。
 
 それは、もしもあの店が高級であるために、
 暖冬でも冬物販売が好調だったとしたら、
 なぜ、うちの鍋料理は売れなかったかという、
 なんだかスッキリしない思いだったのです。
 
 Aさんの店も高級店の部類でした。
 

 【2】最高と最低をとらえて初めて見えた暖冬実態

 1》平均だけでは分からなかった…
 
 何の気なしに2月の気温の推移を見ているうち、
 Aさんは妙なことに気付きました。
 
 平均気温1本だけで見ると、
 確かに“地球温暖化”のような大きな傾向しか見えませんが、
 一日の最高気温と最低気温を月中平均したもの
には、
 ある傾向が見られたからです。
 
 Aさんは、その傾向をより見やすくするよう、
 次のようなグラフを作ってみました。

20070626グラフ

 2》一日の最低気温の平均が上昇!
 
 戦後の1945年から2007年まで、
 毎年の2月(東京都)の一日の最高気温と
 最低気温の月中平均を並べてみると、
 明らかに最低気温の上がり方の方が
 最高気温より激しい
のです。

 温暖化、つまり平均気温の上昇には、
 “暖かくなる”というより“寒くならない”
 影響の方が強かったわけです。
 
 Aさんは、こんなグラフを見ながら、
 たとえば、お気に入りのコートを
 着るのがガマンできないほど暖かい日は少なくとも、
 鍋が恋しくなるほどに寒い日が減った
 
というイメージに至ったのです。
 
 
 3》それ以外の地域や時期では…
 
 同じような傾向が、東京だけではなく京都のデータでも出ました。

 また2月だけではなく真夏の8月も、
 最低気温の平均が高くなることで“暑い夏”を形成していたのです。
 
 さらに『世界的に赤道ではなく
 寒い地方の高温化が進んでいるとしたら、
 地球の平均気温差以上に両極の氷が解けるのは当然だ』
 などと考えながら、
 Aさんは再び経営に考えをめぐらせました。