【3】理解するか覚えるか~その違いがキーになる

 1》キーワードは“理解”
 
  社長はシステムの専門家ではありませんが、
  新しいパソコンや基本ソフトが出るたびに、
  それを購入して“遊んできた”のだそうです。
  
  “遊ぶ”とは、たとえばマニュアルの禁止事項をあえて行って
  意図的にエラーを起こしてみたり、ソフトのメニューを一つ一つ動かして
  設定を変えてみたり、とにかく隅々まで
  “実際の動作を確認する”ことだというのです。
  
  そんな“遊び”を長年蓄積すると、パソコンやソフトの“構造”が
  分かってきます。
  そして構造が理解できると、ソフトが進化しても、
  あるいは見たこともないソフトに出会っても、
  マニュアルなしですぐに使えるようになるというのです。


 2》“覚える”ことと“理解する”こととは180度違う!
 
  ところが最近パソコンを使い始めた同社の新人は、パソコンの使い方を
  “理解している”のではなく“覚えている”ため、表示される形や
  メニューが変わると、すっかり分からなくなるのだそうです。
  
  『マニュアルを買いに書店に走った』と社長は笑っておられました。
  
  つまり、A社の社長が言いたかったことは、
  “理解”していればだいたいの変化に対応できるが
  “覚えている”だけでは小さな変化にもついて行けない

  ということのようなのです。


 3》事業利益に対する“理解”?
 
  『ちょっと偉そうだが』と断りながらも、
  社長は『それは経営全般に言えることだ』と指摘されます。
  
  たとえば、“利益”獲得のような経営の基本についても、
  こんな指摘をされるのです。
  
  それは『自分の事業について、だいたいこの程度の利益が出ると
  理解している経営者は、適切な努力をし、効果的に儲ける。
  しかし利益獲得手法を覚えた経営者は、努力のタイミングを見失って、
  成長期に努力をせず、衰退し始めてから慌ててムダな経費を
  投入してしまう
』ということです。
  
  そして、こんな事例も聞かせてくれました。


 【4】利益を出すための“見極め”ポイントも同じ?

 1》“見極め”が利益を決める!
 
  たとえば花屋を営むB社では、売れ行きが頭打ちになった時、
  無理に宣伝や広告を行うのではなく、一種の会員制度を始めて
  “会員に花の宅配”を行うようにしたのだそうです。
  
  『せっかく雇った従業員が暇そうだったから…』とB社の社長は言います。
  
  宅配会員制はすぐに評判になり、想像以上に顧客が増えました。
  すると社長は、会員制を有料にし、
  そのことで顧客に宅配よりも来店を促したのです。
  
  それは
  『宅配増加対応にもう一人雇うのでは、売上以上に経費が増える』
  からだそうです。
  
  ところが一般には
  『売れ行きが止まったら無理な広告宣伝を行い、
   会員制のような新サービスで客が増えたら、
   そのサービスを必要以上に追いかけてしまう』
  とA社の社長は指摘します。


 2》状況にまどわされない利益感覚
 
  そしてその花屋のB社では、この方法ならこの程度の利益が出る
  (経費がかかる)
と理解していたから、販売動向の変化に
  翻弄されなかったし、むしろ先手を打つことが可能だったのだ
  と言うのです。
  
  『この事業、あるいはこの方法で出る利益はこんなものと、
   だいたいのところを把握していなければ、経営判断は難しいでしょう。
   それはパソコンを理解していないのに、新しいソフトに入れ替えるか
   どうかを判断するようなもの』だと、A社の社長は言うわけです。


 3》事業利益を“理解”するには・・・
 
  ただ、理屈はそうかも知れませんが、経営判断自体を支える利益感覚は、
  どうやって身に付ければよいのでしょうか。
  
  同社長は、それもパソコンと同じだと言い切ります。
  
  パソコンも、一つ一つの機能を自分で確かめて行くと、
  マニュアルに書いていないことが分かったり、マニュアルの間違いを
  見つけたりするのだそうです。
  同様に、どんな行動をすればどんな利益や損が出るか、
  実際に一つ一つ確かめるスタイルを持っている
経営者が、
  どこからも学べない実際的な利益感覚を身に付けるのだ、と。
  
  もちろん、その確かめ方にも方法があります。


 【5】変化に強い“利益感覚”形成法はかなり地道!

 1》利益感覚の磨き方?
 
  その方法とは、利益や損が出た時に、なぜその利益や損が出たかを
  丁寧に観察することです。当然のことのようですが、
  どこまで“丁寧”に観察するかで、その成果は大きく変わります。
  
  利益が出た時とそうでない時の業績を“比べながら”観察する時にも、
  その丁寧さは不可欠です。
  
  たとえば、損益計算書や貸借対照表だけではなく、
  その時期の社内の陣容や商品構成、あるいは顧客リストなどを持ち出し、
  社内の生産性や売れた商品、あるいは顧客単価などを
  総合的にチェックすると、徐々に“違い”が明確になってくるからです。
  
  そんな一つ一つの行動が、利益感覚を磨いてくれるのです。


 2》それは非常に“ファジー”なものだから・・・
 
  ただA社の社長は、その利益感覚磨きの前に、
  まず《データを残す習慣》がなければならないと言います。
  
  少なくとも、『商品別販売量』や、どんな客が何を買ったかが分かる
  『顧客購買データ』がなければ記憶に頼るしかなくなるし、
  記憶は割合あてにならないものだからです。
  
  そしてもう1つ大切なのは《答を急がない》ことだそうです。
  
  “感覚”は身に付いたかどうかの確認が難しい“あいまい”なもの
  ですから、無理に確認しようとすると、かえって壊してしまうことが
  あるからだと言います。


 3》事例探しを続けよう!
 
  データをコツコツ残しながら答を急がないというのは、
  一見矛盾やムダに感じられるケースもあるかも知れません。
  
  しかし、A社の社長は『データを並べるだけでは答は出ないし、
  またデータなくしても答は得られない』
とも言っておられました。
  
  それはデータをとるほど丁寧に事業や経営を見て行く中で、
  時に応じて“気付き”に出会うということなのでしょう。
  
  マニュアルなしに新しいソフトを平気で使いこなせるように、
  様々な経営環境の変化に、自然に対応できるようになるなら、
  それは確かに素晴らしいことだと思います。
  
  ただ、A社の事例に限らず、様々なケースを
  今後も皆様と共に見て行くことにいたしましょう。