【1】求められる“能力”が従来とはかなり違う…?

 1》現場の“スキル”が世の中の変化に追いつかない
 
  販売代理業を営むA社では、
  社内向けに“優秀な営業マンの条件”という冊子を作ったそうです。
  
  それは優秀な営業マンに求められる能力や活動方法が、
  以前とは大きく違ってきているにもかかわらず、
  なかなかその違いが組織内で明確に意識されていなかったからだそうです。
  似たような話は異業種にも見られ、
  受注生産を基本業務とするB社や仕入れ販売を営むC社では、
  たとえば“納期管理”のような比較的内容が明確な仕事においても、
  現場のスキル(技能)がなかなか追いつかないと指摘されています。


 2》時代を先取りしているはずの事業でも…
 
  こうした傾向は、伝統型事業ばかりではなく、
  新しいビジネス分野に属しているシステム企画作成業のD社にもあり、
  以前はシステム担当者が顧客とコミュニケーションできないのは
  “オタク”的な人材が多いからだと思っていたが、実はもっと現実的な
  “スキル不足”にあることが分かった
と指摘されるに至っているのです。
  
  営業、製造、流通、企画…、様々なビジネス分野で指摘される
  “以前とは違う能力”とはいったい何なのでしょう。
  それぞれの事例を総合しながら、
  その実体について事例を通じて探ってみることにしました。


 3》不足している“スキル”とは?
 
  結論から申しますと、その不足スキル、つまり欠落能力は、結果や段取り、
  作業過程での障害等を“イメージ”する
力のことのようです。
  つまり“事前イメージ力”です。
  
  売れるイメージのないまま右往左往する営業マン、
  段取りイメージがつかないまま納期を安請け合いしてしまう現場担当者、
  システムの完成イメージを持てずに、顧客と意味のある対話ができない
  システムエンジニアなど、現代ビジネスの中には
  “イメージ不足”が引き起こす問題が非常に多い
からです。
  
  そこで、もう少し詳しく事例を見ておきましょう。


 【2】イメージ不足で成果が出せない“現場”事例

 1》“納期”が守れない理由は…
 
  受注生産のB社では、納期遅れが問題になっていました。
  そこで、受注担当者が現場に生産を依頼する際に、そのことを指摘すると、
  現場から反論がありました。
  
  それは、受注内容が複雑で
  今までやったことがないケースが多い
からだというのです。
  
  では、経験のない作業の“仮(見込み)”納期をどう決めるのかと聞くと
  『経験則をもとに、だいたいこんなものかと決めている』と答えるのです。
  経験したことがない作業について、
  過去のどんな例で決めるというのでしょうか。
  新しい“作業”をイメージできないまま、適当な思いつきで過去の
  “記憶”を引用するところに、納期が守れない最大の原因があるようです。


 2》売れない営業マンほど忙しい…?
 
  販売業のA社では
  『売れない営業マンほど忙しそうだ』と営業部長が嘆いておられました。
  
  どうやら『何をすれば売れるかというイメージを持てない営業マンは、
  考え始めると不安に押し潰されるらしい』と言うのです。
  
  そこで、不安な気持ちを心の底に沈めてしまうために無益な訪問や
  電話セールスを繰り返して自らを多忙にし、
  それで不安を忘れたがる傾向があるといいます。
  
  その期間が長期にわたると、突然やる気を失って
  “引きこもる”こともあるようですが、
  そもそも売れるイメージも持てないのに上司に相談しない点に、
  すでに“引きこもり”の兆候があるのかも知れません。


 3》イメージできないのは顧客が悪いから…?
 
  システムエンジニアの事例は、更に深刻で、担当者は客が
  システムに無知だから仕事がはかどらない
と言っているのだそうです。
  『もっと(システムを)勉強して分かりやすい依頼を出せ』
  ということです。
  
  そんな担当者に対し
  『自分がイメージできるところでしか勝負しない習慣がついてしまった
  ため、分からないことが起きると全て顧客のせいにしてしまう』
  という社長の指摘には、やや厳しすぎる部分があると思いますが、
  傾向としては確かに、言い当てている面もあるのかも知れません。


 【3】なぜ今“イメージ不足”問題が現れるのか…?

 1》流通業者C社の指摘
 
  しかし、なぜこうした状況が多発しているのでしょうか。
  流通業C社の社長は、次のような指摘をされていました。
  つまり
  『以前はどの仕事も比較的シンプルで、仕事の基本を覚えれば、
  たいていのことには対応できた。だから一つ一つの業務を
  改めてイメージする必要もなく、がんばって働けば結果が出た』
  と言われるのです。
  
  そのため仕事の前に、段取りや完成、あるいは途中の障害などを予め
  “イメージ”しておく習慣や能力が育たず、
  それが今になって“マイナス”要因として出てきている
というのです。
  
  特に管理者クラスにイメージ形成指導者が少ないのだそうです。


 2》相談が少ないのも同じ理由から…?
 
  販売業A社でも、社長は、
  『営業担当者から報告や相談がないのは、資質や育ち方の問題
  というよりは、自分が何をしているか、本当のところ分かっていないから
  ではないか』
と指摘されます。
  
  そもそも、どうすれば売れるかのイメージがないわけですから、
  何が問題かについても見当がつかず、
  相談すべきことも思いつかないのでしょう。
  
  人材の質が以前と違っているのではなく、
  仕事の多様性や複雑度合いが変わっているのに、
  以前と同じような働き方をしていることが問題
なのかも知れません。


 3》教育の前にまず“事前管理”
 
  そのため今、確実に成果を出すには
  “現場が成功(達成・完成)イメージを持つこと”から
  始めなければなりません。
  
  ただ、そのためにイメージ形成力アップの“教育”に乗り出す前に、
  経営として取り組むべき“課題”があるように思います。
  
  それは、できないことを事前に把握するという“事前管理”です。
  教育は成果が出るまで時間がかかります。
  
  イメージが湧かない担当者や現場に、そのまま仕事を任せてしまって
  取引先からの信用を失う前に、まずは経営として現場に
  “できる”ことと“できないこと”を明確に把握しておくことが
  大事なのです。
  
  しかし、どのようにすれば“事前管理”ができるのでしょう。