ギブソンVSフェンダー その1 | おんがく・えとせとら

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 ソリッドギターの開発当初,ギブソン,フェンダー両者は独自性を保っていたようですが,ライバルであるが故に,お互いの動向には敏感だったようです。
 両者の競合は,フェンダーが照れキャスター…おーっと,吉田戦車ばりの変換間違いだ!…もとい,テレキャスターでエレクトリックギター市場に参入した50年代初めから始まるワケですが,どちらかというと保守的で時流に乗り遅れつつあったギブソンの方が対抗心が強かったのではないでしょうか。

 63年に発表されたファイアバードに対してフェンダーからクレームがついた,という説があります。当初のリバース・タイプのデザインは、クライスラーで活躍し当時既に第一線を退いていたカーデザイナーのレイ・ディートリッヒ(Raymond H. Dietrich/1894-1969)。

chrysler ディートリッヒのデザインによる車
64fb front 64年Firebied V
64fb back 同上背面
 
 ヘッド形状やバックのコンタード加工,流線型のボディなどの類似性について,フェンダーからクレームがついたとのことですが,改めて文献を読み返してみると,意外とそういう記載は見当たりません。
 形は似てるといえば似てなくもないけど,違うといえば全く違うし。65年にデザイン変更した後のノンリバース・モデルにもコンター加工は継続され,しかも前より大きくなっている! (下写真参照) また,クレーム対応によるデザイン変更に2年もかけてるというのは対応が遅過ぎるし,どうも「フェンダーからクレーム云々」説は根拠がなさそうです。

65fb 65年ノンリバースFB III

 リバースタイプ4モデルの合計出荷数は63年は初年度で434台と少ないものの,64年の2,434台に対し65年には2,283台と減産となっています。同時期の主力商品SGシリーズの出荷台数は計約8,000台(65年)ありましたから,価格差を考慮しても,思うほどのヒットには届かなかったという評価だったのでは。ノンリバースへの変更は,販売不振でモデルチェンジを余儀なくされたため,と考えるのが妥当かと思います。


 さて,ギブソンは,ファイアバードのデザインを変更する65年に,サブ・ブランドのカラマズー(Kalamazoo)からKG-1,KG-2というフェンダーそっくりのギターを発売しています。クレームをつけるなら,こっちの方でしょう。

kg-1 65年Kalamazoo KG-1
kg-2 65年Kalamazoo KG-2A
60mm 60年頃Musicmaster

 ギブソンは,戦前から廉価版のフラットトップ・ギター,バンジョー,ラップ・スティールなどを,所在地の名称に由来する「カラマズー」ブランドで発売してましたが,エレクトリック・ギターについては上記2機種だけだったようです。いずれも68年にはSGタイプのボディに変更され,70年には生産中止になっています。
 メロディメーカー用PUとバーブリッジ,バイブローラについてはギブソン色を受け継いでいますが,ヘッドとボディの形状はフェンダーそのものですね。ボルトオン・ネック,バックにはコンター加工があります。非常にチープなつくり。デザインはミュージックマスター,デュオソニックあたりの影響が大かと思われます。

kg-1back KG-1背面