弓枝さんは犯人に脅され、連れ去られた。


弓枝さんは慎重な性格のため、犯人は父親の仕事関係者だと言っていたが、それが本当だとしても簡単についていくわけはない。


誘拐されたあとも、犯人を刺激しないよう大人しくならざるを得なかった。


それに気を良くしたのか、犯人はとても優しく接してきた。


でもそれもいつまで続くか分からない。突然豹変することも有り得る。目的はなんなのか、いつ家に帰れるのか…。


弓枝さんは疑いながら生活した。


家は知られているし、逆上してころされるかもしれない。そう思うと逃げ出す気力もなかった。


寝ている間も気を抜けず、心が休まる時間が全くない。


それでもいつか家に帰れる、そう信じていた。


犯人が自分を好いていることは分かったが、だったらなぜ誘拐するのか。閉じ込めるのか。自由を奪うのか。全く理解できない。


私の人生をめちゃくちゃにした犯人は憎いが、今となってはその感情も薄れ、ただ父の元に帰れなかったことが悲しくて仕方ない様子。