平成14年4月29日、仕事場を変わりたいような話をしていて、夕方求人広告を見ていた様子。家庭では看護師そのものをやめたいとは言っていない。4月30日19時頃、本人が母に「レンタルビデオ屋にビデオを返してくるから夕食は帰ってから食べる」と言った。いつもと変わらない様子だった。20時頃、隣の部屋で携帯電話の相手に「今すぐ行く」と言っていたのを父が聞く。明るい感じの声で話していた。その後行方がわからなくなる。数ヶ月後「康浩さんが病院に運び込まれた」との報があり、その病院と思われる番号に何度か電話するうち、繋がらなくなった。
康浩さんはお父さんを慕っていた。
自分を愛して、期待もしてくれる。何不自由なく育ててもらったし、父として、男として尊敬していた。
自分もそんな大人になりたい、と思っていた。
その願望と、今現在の自分の状況に深い溝を感じていた。
仕事を辞めることを打ち明けたら、父は失望するだろう。
その後のことはまだ決めていない。激しく問い詰められるだろう。
少し休みたい…なんて言ったら、今まで築いてきたものが崩れてしまうかもしれない。
1人で頭を冷やして考えたい。少し時間が欲しい。
その時は失踪とか家出とか、そんな大それたことをするつもりはなかった。
思い切って家を出てみると、とても心が安らいだ。
家族は大切だし、父を尊敬しているし、かけがえのないものだ。その考えは変わっていない。
そのぶん、失望されたり叱責されるのが怖かった。
離れてから時間が経てば経つほど、帰りにくくなり、帰りたくなくなった。
当然、このままじゃいけないと分かっている。
しかしもう、全ては今更になってしまった。
家を出て、家族を捨て、身軽になったものの生きることは苦しい。
それでも家族の元へ帰ることはない。