もう、そんな季節なんだと気がついた。
あなたに会えなくなって、どれくら経つだろう。
いつになく厳しい、あの暑さの夏が懐かしい。
その暑さの中で、あなたと交わした会話を思い出していた。
口に出して人には言えないけれど、あなたを忘れることなんてできない。
それは、忘れられない夏。

街の西側にいくつか山が連なっていた。
その中に見晴台のある山があった。
街を見下ろすようなその場所は夜景が綺麗と評判だった。
彼女はひとりその場所にたたずんでいた。
辺りには休日を過ごしている家族連れやカメラを構えた人たちがいる。
遠くまで見渡せる場所で、彼女は何を見ていたんだろう。
それは昼の暑さが和らぎ、風が吹いて涼しさを感じさせる頃、そんな時間だった。
待ち合わせにここを選んだのは彼女だ。
仕事終わりに急いでその場所へたどり着いた。
離れた場所からも、彼女はすぐに見分けがついた。
ひとり、凛として風景の中で際立っていた。
空に向かって、身体を預けるような姿勢で腕を抱えていた。
遠くの風景の中に、ひとり立ち尽くす姿が印象的だ。
声をかけそびれて、私はその風景に見とれていた。
振り返りもせず、彼女は何を思っていたんだろう。
風になびく髪、半袖に緩やかなスカートをまとい、身じろぎもしない。
今となっては、その時のことはわからない。
ただ、ここにその風景に立ち尽くす彼女の写真だけがある。
一枚の写真。
後姿だけの、一枚だ。
