浮島ではマニンが飛び上がり、地響きをたてて着地した。
「レギン王が、眠ってしまったって?」
「そんな大きな声を出さないで、マニン。聞こえなくなるわ」
どこかぼんやりした声でたしなめたイェシリーの目は、ヒューギンを通じてフェルス王城の客間に注がれたままである。眉間に神経質なしわを刻んでいる男はアラリク王子、そして白い服の少女はフェラリス姫だろう、とイェシリーは見当をつけた。
「お目覚めにならない、って…」
「もう何度もお起こししているのだ。侍医を呼んだところだが、どうなるものでもあるまい。何かが呪いをかけていったに違いない」
「お兄さま」
フェラリスが表情をあらためた。
「それでは、お父さまの枕元からまっすぐこちらにみえたということですのね。まさか、ハールさまをお疑いなの?」
「いや、別に…」
アラリクはたじろいだように口ごもり、
「しかし、急に “ 夢の護り手 ” どもの姿が消え、コルの世継ぎもいないとなると…」
「 “ 夢の護り手 ” を動かせるのはお父さまだけ。彼らと同じように消えたのなら、ハールさまもお父さまに協力なさっているのかもしれませんわ」
フェラリスはぴしゃりと言った。黙り込んだアラリクの渋面に重なって、
「人間じゃ心許ない。ヒューギンに小鳥から話を聞くように言っとくれ」
マニンの声がした。
《承知》
“ 中 ” にいるイェシリーを通じてヒューギンが直接応じ、ぐいとイェシリーの意識を引っぱって空へ舞い上がった。イェシリーはその一瞬、窓の向こうを覗き込み、フェラリスの整った顔とすみれ色の瞳に淡いあこがれを感じた。
ヒューギンは一気に塔をしのぐまで飛翔し、それからふわりと滑空して城の胸壁の上に舞い降りた。物陰に巣をかまえる小鳥たちは鷹の姿に恐慌をきたして騒いだが、並みの猛禽でないことをすぐに察し、ヒューギンを取り巻くように寄ってきた。
イェシリーは浮島に意識を向けた。小鳥の “ 言語 ” は弾けるような刺激で、ずっとひたっていると頭脳がこそばゆいような感覚に襲われる。ヒューギンが必要なことを聞き取るまでのあいだ、少し離れていたほうがよさそうだった。


つづく。


今週より、連載日を火・木・土に変更いたしますので、よろしくお願いいたします。次回は27日(火)になります。
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プロローグ(~26まで)に続き、第1部[上](27~68まで)も電子出版サイトの「パブー」で1冊にまとめました。まとめて読みたいと思ってくださった方はこちら(外部リンク=パブー:渓美居堂の公開ページ)にて、もちろん無料でお読みいただけます。

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