5日-2

相手が自分に悪感情を抱いていると知りながら、同じ時を過ごすのは愉快なことではない。正式な謁見も晩餐も、ハールには気詰まりなだけだった。
ふたりの護衛に先導され、暦を納めた箱を携えて謁見の間に入ったハールをレギン王は玉座を降りて迎えた。とまどったハールに、
「これがしきたりだ」
とレギンは告げた。ハールは反射的にアラリクの表情を窺った。父王の玉座の脇に立ったなりのフェルスの王子は、ごくくだらない行事につきあわされているといった表情で、ろくにこちらを見てもいなかった。
平静を装い、内心で修養が足りないと自分を叱りつつも、ハールにも波立つ感情はある。
晩餐に至っては、もともと愛想がよいわけではない王と不機嫌な王子、そしてそのふたりに気を遣う高官たちに囲まれ、皿に載ったコルの豆に同情したハールだった。こんな不味い食べかたをされるために、島の民が育てたわけではない。
「そうか、もっともですね」
ハールの言葉を聞いたケルドーは目を丸くして頷いた。都育ちの彼にとっても、コル人の視点は新鮮だったらしい。ハールが使っている客間に、飾りのように置いてある果物を彼は複雑な顔で眺めた。
「姫はおいでではなかったのですか」
アルドーがぼそりと言った。護衛ふたりは廊下の端で待機していて、晩餐会のようすは知らずじまいだった。
「ああ、体調がすぐれぬと聞いた」
ハールが答えるなり、ケルドーが吹きだした。
「それはありませんよ。きっとまた何かしでかして、部屋に閉じ込められてるんでしょう」
「ほう」
ケルドーは面白そうに
「こう言っちゃ何ですが、面白い姫君ですよ。フェラリスさまが晩餐の席におられたら、さぞ見物だったでしょう。少なくとも、ビールの味はぐっと上がったはずです」
と続けたが、会ったこともない姫の話はハールの興味をそそらなかった。
生返事をして立ち上がったハールは、中庭へ向かって開け放たれた窓に歩み寄った。乾いた空気が心地よい夜で、月が冴えて見えた。
ふと、同じこの夜のなかで、亡者たちが生前の恨みをむき出しに戦っていることをハールは思い浮かべた。すぐそばの木陰に何かがひそんでいても不思議ではないほど、近々とした感覚だった。
「明日は大学へ行く。王の許可は得た」
自分の声が少し遠くに聞こえた。月光を浴びて白く浮かび上がる、死んだ馬に乗り、紙の王冠をかぶった古(いにしえ)の王の姿を見たような気がした。


つづく。

ペタしてね
《 お知らせ 》
プロローグ(~26まで)を電子出版サイトの「パブー」で1冊にまとめました。まとめて読みたいと思ってくださった方はこちら(外部リンク=パブーの公開ページ)にて、もちろん無料でお読みいただけます。

人物名などの参照ページを作りましたのでご利用ください。こちらは当ブログ内リンクです。
これからもよろしくお願いいたします。