イェシリーは黄色い水晶をじっと見つめていた。
柱形に粗く削り出された表面にはいくつもの光の筋が走り、耳には聞こえない音が共鳴している。イェシリーの緑色の瞳が共鳴を追いかける。
早く、もっと早く。
やがてイェシリーは色のない空を翔(かけ)ていた。どこかに、速度を愛してやまない別の心が飛んでいるのを感じる。
早く、もっと早く。
放たれた矢のようにひたすら天翔るそれを追い抜き、姿を見てみたかった。そのとき、
「何か捉えたか」
素っ気ない声がイェシリーの集中を切った。
イェシリーははっと顔を上げた。見慣れた低い天井と淡い象牙色の石柱が目に入り、柱と同じ色の壁とそこに彫られた複雑な流水文様しか見えなくなった。銀の縫い取りに飾られた豪奢なものでありながら、どこかなげやりに掛けられている瑠璃色の帳の前に、銀糸よりもうつくしい銀の髪を垂らした青年が立っている。
何の表情もない白い顔をみとめた緑の瞳に稲妻のような怒りの色が走った。
「いま、捕まえるところだった。ソルーシュがじゃましなければ」
「ほう」
ソルーシュと呼ばれた青年はイェシリーを見おろした。すらりと丈高い彼の足もとから睨みあげるイェシリーは5歳の幼女だった。成長の心祝いに黄水晶を握らせたばかりである。それを使いこなすとは思えない。
ソルーシュの表情はうつくしいガラス細工のように微塵も動かなかった。しかし、イェシリーはどこからかソルーシュの疑いを読み取り、ふたたび瞳を閃かせた。
「からだが鋭くとがるほど早く飛んでたのよ。何かも一緒に飛んでた。わたしが勝てば見えたのに」
「そうか」
短くソルーシュは応じた。気乗り薄にも聞こえる声音だったが、イェシリーは表情をゆるめ、
「大丈夫、もう一度やってみる」
と彼を気遣うような言葉をかけた。


つづく。


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