本日、3月31日。
二十四節気・春分の末候に入ります。季節を表す言葉は「雷乃発声(かみなり こえをはっす)」です。
春の季語でもある「春雷(しゅんらい)」は、文字どおり春に鳴る雷のこと。
これは、主に前線の通過に伴う「界雷(かいらい)」の一種で、寒冷前線の通過によって起きるものなのだそうです。
寒冷前線とは、寒気が暖気をおしのけて移動していく時の接触面にみられるもの。
こうした前線は、暖かい気団(大気のかたまり)と冷たい気団の接触によって起きる現象で、このとき暖かいほうの勢力が強いと「温暖前線」、冷たいほうなら「寒冷前線」と呼ばれます。
お湯同様、温度の違うものが接触すると、暖かいものが上へいき、冷たいものが下に入ります。
気象庁サイトによれば【温暖前線では、暖かい空気が冷たい空気を押してはい上がって進んで行くため、主に層雲形の雲をつくり、雨を降らせ】【寒冷前線では、冷たい空気がどんどん暖かい空気の下へもぐりこんで進んでいくため暖かい空気は急激に上昇させられて、主に積雲形の雲を】作るため、にわか雨や雷雨が発生するのだそうです。
夏の、熱い空気が急激に上昇して起きる「熱雷(ねつらい)」に比べて、春雷は、上記のような理由で移動していくせいか、あまり続かなかったり、遠くで聞こえる感じがあります。伝承などでは何かの前兆と受け取られることも多く、また、冬のあいだ姿を消した虫を起こす「虫起こし」とか「虫出し」の雷などとも呼ばれます。
本家・中国では春分の次候が「雷乃発声」で、末候は「始雷」と、続けて雷についての表現になっています。雷の発生メカニズムは未だ明らかではありませんが、何かしら日本よりも雷が発生しやすい条件があるのでしょうね。
雷は気温の急激な変化や雹(ひょう)を伴うこともあるので、農民にとっては恐ろしいものだったと思われ、こうして何度も出てくるところに、苦しみがにじんでいるようにも感じられます。
雷とは「神鳴り」の意で、神が鳴らすものと考えられていました。他にイカヅチという言いかたもあり、これは「厳つ霊(ち)」の意といわれ「もっとも強力でおごそか(=イカ)な(=ツ)神霊(=チ)」を表す言葉とする説がもっとも有力です。
敵に雷を投げつけるギリシア神話の主神ゼウス・ローマ神話の主神ユピテルに代表されるように、雷はもっとも強大な神またはその武器と考えられることが多いです。インドでヴィシュヌ&シヴァ信仰が盛んになる前には最高神とされたインドラ、この神の武器「インドラの矢」も雷とされています。これは『天空の城ラピュタ』のセリフに出てくるので、思い当たる方もいらっしゃるかと思います。
他に北欧神話のトール、中東の神話におけるハダド=のちのバールなど。ハダドまたはハッドゥの名は雷鳴の音からきているといわれています。また、アボリジニの神話で雷神ナマゴンはやはり最高神とされ、ひじを打ち合わせて雷を起こすと言い伝えられていました。
そういえば、江戸の川柳集『柳多留(やなぎだる)』に「かみなりを真似て腹掛けやっとさせ」という句があります。こどもに言うことをきかせるのに、かみなり様におヘソを取られる、という伝承を使ったもの。雷は気温の急激な変化を伴いますから、ヘソを隠せ=お腹を冷やさない、という教えも実は合理的なものでした。
この時期、冬の重たい装束を軽々と脱ぎ捨てたいのはやまやまですが、くれぐれもおヘソは大事になさってくださいね(笑)。