本日、3月24日。
彼岸明け、下弦の月、二十四節気
は春分、そして七十二候
はまだ春分の初候です。
春分初候の季節感を表す言葉は、日本では「雀始巣(すずめ はじめてすくう)」。
スズメといえば、よく散歩する農地の端に「スズメのお宿」になっている草藪があったんですよ。学校に面している場所だけ手前にちょっとお花など植えて、灌木や藪を残したまま空き地にしてありまして、わたしは勝手に、学童と畑の距離を置く、一種の緩衝地帯なのかなぁと思っていました。
とことこ歩くと、たくさんのスズメのさえずりが聞こえて、うるさいんだけど愛らしくて、うれしい道だったのですが。ある日、通りかかると、すべて刈られてむき出しの地面になっていました。呆然…。
もともと農地なのだから、スズメと共存はないでしょうし、仕方ないんですけど、やっぱり淋しかったです。あのスズメたちはどうしただろうと、今でも時々思います。
中国では「玄鳥至(げんちょう いたる)」。
玄とは黒のことで、玄鳥は羽根が黒いツバメの異名です。ツバメが南から渡ってくる様子を表した言葉です。
ツバメは古名をツバクラメといいます。このツバは「鳴き声」という説と「光沢がある=ツヤ」という説があります。そしてクラはシジュウカラのカラと同様で「小鳥を指す言葉」だという説と「黒い」意などの説があります。メには「群れの略」「小鳥の名につける接尾語」の二説があります。ツバメはこのツバクラメの略形だと考えられています。
スズメも同じく、スズが鳴き声でメは「群れの略」か「小鳥につける接尾語」というのが通説です。ずっと昔から人のまわりに暮らす小鳥で『古事記』にも記載があるのに、不思議と『万葉集』には歌われていません。身近すぎてロマンがなかったのかもしれませんが…
うろ覚えの話ですが、稲の実りはじめ、中身が乳状の時があるそうです。スズメはこのコメの乳が大好きで、実に穴をあけて吸い取ってしまうのだとか。生産力が低い古代ではなおのこと、稲の被害をめぐって印象の悪い鳥だった可能性もあります。
その点、ツバメは虫を食べてくれる、農家にはありがたい「益鳥」です。
ところが、昔話の世界ではツバメのほうが悪者扱い。おこないの悪かった娘がツバメと化して、虫や土を食べることしか許されなくなった。おこないのよい娘はスズメに化して、コメを食べることを許された。という話がいろんなヴァリエーションで語られています。
単純に、おしゃれな外見なのに食性がいまいちなツバメと、地味だけど口はぜいたくなスズメの比較が面白かったためにできた話かもしれません。
でも、たとえば「穴施行
」のように実際には害獣になるものの身を案じたり、「猫の正月
」で書いたような、ネズミへの施しもあったことを思うと、この動物がこれを食べるには食べるだけのワケがある、人間ごときの知らぬ理由があるんだ、と謙虚に受け止めていたとも考えられます。
人間にはコントロールできない宇宙のありよう、その中での人間の卑小さを「神仏の意思」に仮託して、スズメはコメを食ってもいいとされているんだぞと話して聞かせることで、そっと教えていたのかもしれません。