今月の新橋演舞場・昼の部。
■「頼朝の死(よりとものし)」。
大正8年に初演された新歌舞伎。
評判が良いのか、ここ5年で4回も上演されている作品。
今風にタイトルをつけるとしたら、
「もし源頼朝が、不倫するため女装して城壁越えようとしたところ、護衛兵に斬られて死んだら」
略して「もしフリ」ってところでしょうか。
天下の征夷大将軍の死因としては余りにも恥ずかしいということで、
頼朝は遠征時に落馬して死んだということにし、真相は徹底的に隠蔽されました。
しかし、その頼朝の死に苦悩する男が二人。
一人は、頼朝を殺害した張本人、畠山重保。
城内に侵入しようとしてる女装した不審者を斬捨御免したという、
護衛として至極真っ当な行動をした彼ですが、
大尊敬する将軍を自らの手で殺めてしまった罪悪感に苛まれています。
もう一人は、頼朝の息子で現・将軍の源頼家。
将軍職でありながら、父親の死因の真相を知らされず、彼も薄々秘密があることに気付いています。
そして彼は真相究明に動きますが、
母であり頼朝の妻・北条政子の「源氏は末代、頼家は一世」、
つまり「この先代々続く源氏の誇りのためなら、頼家の好奇心など黙殺せよ」という思想の元に、
事実は徹底的に隠されます。
今回は重保を演じた愛之助が非常に上手かった。
将軍を殺めながら裁かれることも責められることも無く、生かされている、
その複雑な苦悩を悲痛に表現していました。
この先、コイツは本当にどうなってしまうのか・・・と心配してしまう程の鬼気迫る演技。
頼家役の染五郎も良かったですが、愛之助には敵わないかな、今回は。
■「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」
通称「石切梶原」。
名刀の切れ味を証明するために石の手水鉢を真っ二つにするという、
衝撃的な演出が有名な作品。
手水鉢とは、神社などでよく見かける手を洗う水が貯めてある石製の鉢のことです。
源頼朝が平家との合戦を繰り広げている時代が背景。
「もしフリ」を見た後なので何とも複雑な感じですが・・・
こちらも人気狂言で、昨年の歌舞伎座最後の正月公演で上演されました。
その時の主演は松本幸四郎。今回は中村吉右衛門です。
最近台詞覚えの怪しい彼も、
流石に先代が得意とし自らも何度も演じている人気狂言では抜群の安定感。
5年前に染五郎が名古屋御園座で梶原を演じていますが、それ以外はみんなベテランです。
こういう役を演じられる若手が育って欲しいものです。
■「連獅子(れんじし)」
歌舞伎を全く見たことがない方でも恐らくご存知の演目。
紅白の長髪をぐるんぐるんと回し続けるシーンが有名な舞踊劇。
染五郎の息子・金太郎が襲名公演で親子三代で演じたのも記憶に新しいですが、
今回は仁左衛門とその孫・千之助が親子獅子を演じます。
祖父と孫、二人の組み合わせは戦後初めてだとか。
千之助はまだ11歳ながら、可愛らしさも残しつつ非常にしっかりした演技をしていました。
孫の発表会を見るような、千之助は歌舞伎ファン全員の孫!というような、
そんな微笑ましい視線の中で一生懸命、髪振りをしていました。天晴れ!!
昼の部は「頼朝の死」でやり場の無い苦悩を見せ付けられましたが、
「石切梶原」と千之助の「連獅子」という明るい狂言で心地よい余韻。
血なまぐさい夜の部とは好対照な組み合わせでした。
というか夜の部の後味が・・・

