(*このテキストには、ストーリーなどのネタバレが含まれております。映画に関心のある方は、先にご覧になることをお勧めします。)

配給 ミラマックス

         日本ヘラルド映画

公開 1995年6月9日(アメリカ合衆国)

上映時間 113分

製作国 アメリカ合衆国

          日本

          ドイツ

【スタッフ】

監督 ウェイン・ワン

製作 ピーター・ニューマン グレッグ・ジョンソ 堀越謙三 黒岩久美

製作総指揮 ボブ・ワインスタイン ハーヴェイ・ワインスタイン 井関惺

原作/脚本 ポール・オースター

撮影 アダム・ホレンダー

音楽 レイチェル・ポートマン

【キャスト】

・オーギー・レン - ハーヴェイ・カイテル

   ブルックリンにあるタバコ店の店主

・ポール・ベンジャミン - ウィリアム・ハート

   文筆に行き詰まっている作家

・トーマス・コール

    - ハロルド・ペリノー・ジュニア

 母を事故で失った黒人の青年

・サイラス・コール - フォレスト・ウィテカー

   トーマスの父親で、ガソリンスタンドを経営

・ルビー・マクナット

  - ストッカード・チャニング

   オーギーの元恋人

・フェリシティ - アシュレイ・ジャッド

   ルビーの娘で、スラム街で男と暮らしている

・ジミー・ローズ - ジャレッド・ハリス

   オーギーの店で働く長髪の青年

・エム - ミシェル・ハースト

 トーマスの叔母で育ての親

・クリーパー - マリク・ヨバ

 銀行強盗で、トーマスを追っている


【ストーリー】

ブルックリンで煙草屋を営むオーギー・レンは、10年以上、同じ時刻同じ場所で写真を撮影していた。オーギーの友人、ポール・ベンジャミンは作家であり、数年前にで妻を亡くして以来、創作は滞っている。

トーマスは、ポールが自動車に轢かれそうになったのを助ける。ポールはトーマスを自宅に泊めてやるが、数日後に叔母が現れ、トーマスは偽名を使い転々としていることを聞かされる。

トーマスは、密かに頼みとしているサイラスのガレージを訪れ強引に雇わせる。さらに、トーマスはポールの元を再訪し、銀行強盗のクリーパーに追われていることを明かすことになる。 

ルビーは、出兵中のオーギーを捨て他の男と結婚した過去がある。オーギーとの間にできたという娘の為に金の工面にオーギーを訪れ、冷たくあしらわれる。結局、オーギーは、娘のフェリシティと会うことになる。

これら、登場人物の過去と未来を繋ぎ、嘘なのか本当なのか、どちらでもないのか、物語は進んでいく。


【コメント】

スモークというタイトルは、英王室にタバコを持ち込み、女王をニックネームで呼んだという男の逸話からきている。タバコの煙の重さを計るというもので、できる訳がないのに、理屈が成り立っているかの様な論理。そのタバコの煙がタイトルである。嘘なのか本当なのか、虚構なのか現実なのか、はたまたそのどちらでもないのか。まさしく、煙に巻くような話である。


作品は、ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞している。私はいわゆる三大映画祭は、米アカデミー賞の比較すれば、権威と実績あるものと判断している。そのうちの一つでるベルリンで、金熊賞に次ぐ銀熊賞を受賞しているのだが、それに担うに足りる傑作と思う。ルービーの眼帯とサイラスの義手など、海賊のファッションかよとツッコみを入れたくなるが、それはご愛嬌として、ほぼ完成された映画であり、ストーリーやキャスティン、撮影など申し分のない出来で、新たな群像劇とも言える作品は、観る度に発見がありそうである。


ストーリーに於いて、多くの登場人物が主要なキャスティングであり、一人一人のドラマが丁寧に描かれ、各人が主役と言える。それは、群像劇なのだけれど、かつてのそれにあった重さは微塵もない。登場人物が入れ代わり立ち代わり現れる、ライトなオムニバスや連作の短編小説の様な感触がある。

主人公たちは、例外なく大きな人生の苦悩を抱えている。そして、何らかの解決策を求めもがいている。そこにアクシデントが起こり、大変なことになる。しかし、映画を鑑賞していた私は、珍しくハッピーエンドを望んでいた。その望みは大方叶うことになる。しかし、娯楽映画やB級映画でもない限り、リアリティは必要である。例えばであるが、ストリートギャングの様な地元の輩に追われ命を危ぶまれるトーマスだが、その代償はポールが負うことになる。しかし、その代償もストーリーが進むとギャグのネタになってしまう。映画の一番の悲劇は、ルービーの娘のエピソードだろう。


キャスティングも絶妙だが、やはりハーヴェイ・カイテルとウィリアム・ハートという、二人の個性派である以上の演技派の大物俳優の競演が実物だろう。二人のかつての名演技を知る者ならば、より映画を楽しめるのではないか。ワン監督も、その辺りは承知したキャスティングだろう。

撮影に関して言うと、フルカラーでありながら、どこか淡くて渋みのある色合いや光の加減である。室内での撮影が多くを占め、野外ロケもハリウッド映画を感じさせるスケール感はまるでない。

また、監督の熱意が結晶した作品ということでも、近年(95年の作品)では少なくなってきている成功例だと思う。原作『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を書いたアメリカの作家、ポール・オースターは映画化に際し脚本も担当しているのには、正直驚かされた。筆者は、原作を読んでいないが、原作のシンプルなストーリーやテーマを膨らませ、いつくか肝心のシーンを比較的忠実に映像化しているという、原作を映画がするうで、理想的といえる作品となっているからだ。

ポール・オースターは、贋作をニューヨーク・タイムズ紙から依頼されており、それは、ポール・ベンジャミンのストーリーに引用されている。また、事実を載せるはずの新聞に虚構を書けというアイデアが気に入り引き受けており、それは、映画のテーマともリンクしている。また、ポール・ベンジャミン自体がポール・オースターの名前ミドルネームを組み合わせたもので、彼のペンネームでもありのだ。

そして、そのタイムズ紙の原作を読んで感激したウェイン・ワンが映画化を熱望。映画化権を取るためにオースターの住むブルックリンをじきじに訪ねている。言うまでもなく、ブルックリンは映画の舞台であり、オースターの描いた、ある種パーソナルな部分が映画の魅力の発芽に連なっている。


最後に映画の逸話を少々。現代アメリカ映画の巨匠で三大映画祭すべてで受賞を果たしている、ロバート・アルトマンのアドバイスで、ラシードが父親を訪ねるというシーンが生まれている。さらに、退屈なエンドクレジットに、とっておきのシーンが用意されているが、そのクリスマスの回想場面にエンドロールが上がって来る編集になっていたが、その場面がクライマックスであり、エンドロールを上げないという編集を指示したのもアルトマンである。おかげで、映画の上映時間が少し長くなっている。



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