(*ネタバレ注意)

インセプション』(原題: Inception)は、クリストファー・ノーラン監督・脚本・制作による2013年のアメリカのSFアクション映画。第83回アカデミー賞では作品賞、脚本賞、撮影賞、視覚効果賞、美術賞、作曲賞、音響編集賞、録音賞の8部門にノミネートされ、撮影賞、視覚効果賞、音響編集賞、録音賞を受賞した。全米脚本家組合賞ではオリジナル脚本賞を受賞している。

クリストファー・ノーランは、脚本はライターに委託して、凶悪犯を追う刑事の過失と悔恨、犯人の狂人性を描いた、2002年の『インソムニア』などシリアスな作品も手がけているが、その後のバットマンシリーズなどを始め、ファンタスティックな作風を得意としている映像作家である。
『インセプション』は、構想をおよそ20年間に渡りねり、脚本完成に8年間掛け、壮大なロケーションとCGを屈指した大作である。
また、キャスティングには、主演に真っ先にキャスティングされたレオナルドディカプリオ、日本人のメインキャストに渡辺謙、脇を名優のマイケルケインをあてるなど、ワーナーも資金調達に出し惜しみがなく、やる気満々な気配である。
映画は、ターゲットの無意識に侵入し、夢の中から重要情報を引き出す産業スパイ、コブの活劇である。
日本人実業家のサイトウは、競合企業のCEOの後継者の息子に父親の会社を解体させることを依頼する。
コブはそれと引き換えに、妻の殺人容疑をもみ消し、子供達のもとへと帰れることを要求する。サイトウになぜそんなことが出来るのかは、はっきり描かれていないが、相応の実力者ということなのだろう。

映画の最大の印象は、夢や深層心理に影響を与えることは可能としても、ターゲットの夢を舞台に出演者が揃って侵入し、影響を及ぼすことは、現時点での科学ではおそらく不可能であろうし、荒唐無稽さがただよう。
何しろ夢の中なのだから、どんなシチュエーションも想定できる。雪山に囲まれた要塞などである。それを、広大なロケーションや巧みなスタジオセット、そして最新のCGを用い、壮大な映像美を築いている。
しかし、夢の中であり、本来さ侵入不可能なのだから、まるでリアリティがない。壮大な紙芝居である。
アクションもスケールが大きく巧みなのだが、そうであるほど興ざめしてくる。
さらに、ストーリーにロマンと深みを加えるため、コブの亡き妻との過去や葛藤が描かれるが、その役を担っているとは思えない。
そして、映画の最大のテーマであるが、なぜサイトウが競合企業を潰さなくねはいけないかという動機付けの描き方があまりに弱い。もちろん、単純な勧善懲悪は望まないが、ストーリーの屋台骨がそれでは、映像美が冴えれば冴えるほど、虚しくなるのは致し方ない。
アカデミー賞のノミネートと受信の実績を見ればよく分かるが、評価されたのは、ビジュアルとサウンド面のみである。私見では、珍しくアカデミー賞が的確な判断をくだしているなという感じだ。

クリストファー・ノーランの作品に関しては、筆者はまだあまり数を観ていないので、はっきりとした結論は出せないが、イギリス人でありながら、完全な娯楽大作志向のハリウッド映画の監督になってしまっていると思う。
やはり私見だが、イギリスの映画監督は、ハリウッドとヨーロッパの中間的な位置にあり、それぞれのよいところを持ち合ってほしところだ。
ノーラン監督に関しては、他の作品をもう少し鑑賞し、今後に期待したいとおもう。