高校生のときは日本史を履修しており、もともと日本史に対する興味はあった。今回、その日本史を学び直そうと思い、どうせなら別の側面から日本史を見ようと思い、この本を購入した。
内容の要約
序章:最古の国家「日本」
まずはじめに著者は、現存する国家の中で日本は最も古いと力説する。政治のあり方、つまり「政体」は変わっていても、天皇が君臨している事実、つまり「国体」は変わっていないということだ。そして、その原因は「天皇不親政の原則」にあると著者は述べている。
第一章:日本の神代
ここでは、日本最古の正史書である『古事記』・『日本書紀』(まとめて『記紀』という)をもとに考察を進める。神武天皇即位までの流れを、『古事記』の要約をもとに見ていきながら、天皇が天皇たる根拠などを考察する。
第二章:大和朝廷の成立
ここから本格的に日本史と呼ばれる分野にはいっていく。この章では、主に記紀などのあまり具体的ではない資料が歴史と合致しているか、という部分を焦点にあてつつ大和朝廷が成立するまで、そしてその後の古墳時代終盤までの流れを考察している。
第三章:天皇の古代
日本が中国の冊封から脱却し、天皇を中心とした国家体制を作り上げる過程を説明している。時代区分としては、古墳時代終盤から飛鳥時代・奈良時代・平安時代に該当する。この時代は「皇室の力」が確立した時代であり、この時代までには現代まで続いている皇室のルールがしっかりと定まっていたという。天皇とそれらをとりまく皇室関係者や権力者の間のいざこざや戦略的行為が浮き彫りとされている。
第四章:天皇の中世 第五章:天皇の近世
この2章では、武家の力が強まり武家政権が確立してからの朝廷の立場・権威の変化について説明している。皇室の危機だった鎌倉時代の始まり~江戸時代の終焉までに、なぜ皇室は残り、一定の権威を保ち続けることができたのか、ということが考察されている。
第六章:天皇の近代 終章:天皇の現代
明治時代に入って政府の新体制が確立された後の天皇としての政治への関わり方が簡潔に述べられている。戦争時に天皇がどのようなお気持ちで決断をのんだか、などの具体的な心情に多くの部分を費やしており、日本史という点では少し物足りない印象である。
特別対談:寛仁親王×竹田恒泰
親王としての立場が実生活においてどれほど不利益を生んでいるか、などの現代の皇室に関わる具体的なお話が書かれており、皇室をリアルに感じることができる。
感想
この本は天皇の関係図や年表も豊富で、日本史に詳しくない僕でも日本史の流れをある程度マスターできたのではないかと思う。
僕が一番面白かったのは、やはり第四章・第五章である。武家政権が確立してからの朝廷の行動はあまり日本史に書かれておらず、書かれていても「なぜそういう行動をとるのか」ということがわからないことが多かった。しかし、今回前置きの3つの章&この2つの章を読んでみて、皇室とは何か実感でき、それに連なって武家政権と朝廷の関係性がはっきりと理解できるようになったことが、今回の一番の収穫である。
この本を読んで一番感じたのは、「天皇の歴史こそが日本史なのだ」ということである。日本は地理的に外部の国家からの接触が難しく、独自の文化を作り上げてきた。外部からの侵略戦争は、江戸時代終盤から現代までの歴史を除くと、実に「元寇」の1回のみである。(その他は全部日本内部でのいざこざが原因でおきた戦争である)この事実を世界史の他の国々と比較すると驚異的な数字となろう。日本は、地理的要因に大きく助けられはしたものの、天皇を中心とした1つの国家体制を作り上げ、それを持続してきた。それにより、たとえ武家という新勢力が台頭してきても、「天皇」という権威を無視することはできず、朝廷をいかにとりこむか、朝廷との友好関係をいかに保つかという部分がその政権の大きな鍵を握ってきた。ということで、朝廷(大和朝廷)ができてからの約2000年は、天皇の歴史と言い換えても差し支えはないと思う。
「日本人は天皇について知らなさ過ぎる」ということはよく日本内外から言われているが、正直どうでもいいだろうと(不敬ながら)思ってきた。その概念をくつがえしてくれたのが本書である。著者の一番言いたいことである、「日本ってこんなに素晴らしい国なんだ」という概念が、すっと自分のものに入ってきたような感覚を得られた。拙い文章でこの感覚は全く伝えきれないところがもどかしいが、興味のない人こそ少し手に取ってみてもらいたいものである。旧皇族である著者の竹田恒泰さんは、この本以外に『日本人はいつ日本が好きになったのか』などの書籍を書かれているが、多分このような内容が書かれているのではないかと思う。機会があれば読んでみたい。
『旧皇族が語る天皇の日本史』、おすすめの一冊である。