試合から一晩明けても、未だ興奮が冷めやらない。
それ程の劇的な勝利だった。
ヴィッセルにとって0-2からの逆転勝利は1998年の名古屋戦以来。
2度のリードを許す苦しい展開ではあったが、最後まで諦めない姿勢が呼び込んだ勝利であると同時に、指揮官の修正力、選手の適応力などあらゆる面でチームの成長を実感できるものでもあった。
昨日Viber公開トーク上で配信した速報版にも書いたが、今季のヴィッセルは全てのチームから『標的』とされている。
この日の試合では悪天候の中、パナソニックスタジアム吹田の入場者記録となる37,076人の観客が詰め掛けたように、今季のヴィッセルは全てのサッカーファンが観たいと思うチームだ。
アンドレス イニエスタ、ダビド ビジャ、ルーカス ポドルスキを筆頭に実力者を集めたチーム構成は、これまでのJリーグではお目にかかったことがないレベルにあるのだから、当然だ。
メディアの注目度も高い。
他チームにとって「ヴィッセルに勝つこと」は、チームに自信を与えると同時に、広く世間に自分たちをアピールすることになる。
そのため、対戦相手は綿密なヴィッセル対策を施して試合に臨んでくる。
この日のG大阪も例外ではなかった。
そして、それによって苦しい展開となったことも、また事実である。
前節で戦列に加わったセルジ サンペールを先発起用したこの試合で、ヴィッセルは新しい布陣を見せた。
アンカーの位置にサンペールを配し、山口蛍を2列目に上げた。
これによって三田啓貴はベンチスタートとなった。
対するG大阪の布陣は4-2-3-1。
ここで鍵を握ったのは、トップ下に位置していた遠藤保仁の存在だった。
まずはこれについて考えてみる。
G大阪の狙いはハッキリと二つに絞られていた。
一つ目はヴィッセルが得意とする楔のパスが入った瞬間にプレッシャーをかけて、そこからのカウンターで勝負するというもの。
試合序盤、ヴィッセルの司令塔であるイニエスタに対して倉田秋が見せたプレーがそれだった。
イニエスタにボールが入った後では、その動きを制御することは難しいと判断したのだろう。
イニエスタにボールが入る瞬間、後ろから強く身体を当てることでボールをアンコントローラブルな状態にする試みだった。
ボールの扱いにおいては、世界でも有数の技術を持つイニエスタ対策としては、原始的ではあるが理に叶っているとも言える。
そしてボールを奪ったG大阪は、司令塔である遠藤にボールを入れずに、サイドから持ち上がることを基本としていた。
この試合でヴィッセルを最も苦しめたのは、2列目の右に位置した小野瀬康介の存在だった。
G大阪は小野瀬にボールを集め、そこからサンペールの脇のスペースを使う攻撃を見せた。
ここで小野瀬をメインに使った理由は、ヴィッセルの左サイドバックである初瀬亮に狙いを定めていたためだ。
徹底して初瀬を狙うことで、ヴィッセルの左サイドの攻撃の厚みを減らすことが目的だった。
これが昨季までG大阪に在籍していた初瀬について、その特徴を十分把握した上での作戦だったことは言うまでもない。
攻撃面では縦の強さを持っている初瀬だが、課題を挙げるとすればそれは守備面ということになる。
ヴィッセルに加入以降、試合を重ねるごとに成長を続けているが、まだ逆サイドの西大伍のような安定感を得るには至っていない。
それを本人も自覚しているのだろう。
加えて前節で、終了間際に犯したミスキックが、同点ゴールを許すきっかけとなってしまったということも心理的に影響を及ぼしていたのだろう。
咄嗟の部分で気持ちが先に出てしまい、結果として選択を誤る場面も時折見られる。
この試合でいえば、最初の失点シーンがそれに当たる。
10分にダンクレーの縦パスに対して、受けにいったビジャが足を滑らせてボールを収め切れなかったところで、G大阪のカウンターにかかった。
自陣からのボールをアデミウソンがワンタッチで横の小野瀬に落とし、小野瀬がこれを前に持ち込み、逆サイドのアデミウソンにクロスを供給、これをアデミウソンが蹴りこんだ。
この場面で中央でボールを受けた小野瀬は、敢えて前にいた初瀬に勝負を挑んでいる。
これに対して初瀬はスライディングを試みたのだが、かわされてしまい、結果として小野瀬はノープレッシャーの状態でクロスを蹴ることができた。
結果的に、初瀬のスライディングという選択は誤りだったことになる。
初瀬の「絶対に抜かれない」にという気持ちが表れたプレーだったとは思うが、冷静さを欠いていたともいえるように思う。
味方が戻り切れていない状況を考えれば、まずやるべきは相手のプレー速度を遅らせることだったのだ。
ボールの扱いに長けた小野瀬と遠藤が、初瀬のサイドを狙い続けたことで相当に疲弊したとは思うが、この経験を更なる成長につなげてほしい。
とはいえ初瀬には同情すべき点も多い。
特に移籍後初めて迎える古巣との対戦というシチュエーションは、21歳の若者の判断力を鈍らせるには十分だった筈だ。
アカデミー時代から慣れ親しんだユニフォームを相手にして、冷静に戦えという方が無理な注文かもしれない。
初瀬個人にとっては厳しい試合だったかもしれないが、こうした試合で勝利したことを自信としてほしい。
試合中、初瀬に浴びせられ続けたブーイングは、その能力の高さを惜しむ声でもあるのだ。
ここから成長を加速させ、来年に迫った東京五輪での代表を掴み取ってほしい。

この試合ではもう一人鍵となった選手がいる。
この試合がヴィッセルでの初先発となったサンペールだ。
ボールを散らすことができるサンペールを中盤の底で攻撃の起点とすることによって、イニエスタを前線に近い位置でプレーさせることができる。
同時に山口も前に上げることで、スペースを見つける能力の高い山口がより攻撃的にプレーすることができ、ヴィッセルの攻撃に厚みが増す。
サンペールのプレーだが、ボールを握る力や急所を見つける視野の広さは抜群だった。
イニエスタ同様、常に首を振りながらプレーできるため、相手のプレッシャーにも動じることなく、ボールをキープし、時間を作り出していた。
まだ周囲との連携という点で改善の余地はあるが、これは時間が解決するだろう。
それよりも今後のポイントとなるのは、ボールを失った際の対応だろう。
この試合でサンペールはその役割上、ポジションは相手の2列目よりも前でプレーする時間が長かった。
それだけにヴィッセルがボールを奪われた際には、相手の2列目のよりも後ろに戻ることが求められるのだが、そのスピードは決して速いとはいえない。
そのためG大阪にボールを奪われた際は、G大阪の2列目まで簡単にボールを入れられてしまう場面が散見された。
三田と山口でボランチコンビを組んでいた場合には、山口が後ろのスペースを管理することで、こうした状況に対応していたのだが、サンペールをアンカーに置いた場合、そうはいかない。
これはサンペール個人が解決すべき問題ではない。
こうした事態を想定し、チームとしてどのようにリスクを管理するかを決めておかなければならない。
この試合ではサンペールの後ろにボールを入れられた際は、G大阪の左サイドバックの藤春廣輝が前に上がることで人数のギャップを作り出していた。
加えて先述の通り初瀬の後ろのスペースを狙うことで、左センターバックの大﨑玲央を釣り出していた。
結果的にダンクレーがファン ウィジョとアデミールを一人で見る時間帯が続いた。
G大阪のスカウティングが実ったともいえるが、ヴィッセルとしてはリズムがつかめない中でストレスが溜まる展開となった。
これに対してフアン マヌエル リージョ監督はルーカス ポドルスキと古橋亨梧の両ウイングを入れ替えることで対応した。
これによって藤春の上下動には古橋が対応することになり、G大阪の優位を食い止めることには成功した。
ここからヴィッセルがペースを掴むかと思われたが、そこで2失点目を喫してしまった。
2失点目は、大﨑の癖が狙われた。
GKの前川黛也から左に開いた位置でボールを受けた大﨑に対して、遠藤がプレスをかけタッチラインに張り出していた初瀬へのパスコースを切った。
そのため大﨑は前に大きく空いていたスペースを使ってフォローに下がってきたイニエスタにボールを出したのだが、これがイニエスタの背後からきたDFに奪われ、そこからカウンターを受け、最後はファン ウィジョに決められてしまった。
大﨑は右利きであるため、自然と右足で蹴る機会が増える。
この場面でも前川からのボールを左足でトラップしていたのだが、ここはボールを受ける身体の角度が逆だった。
ボールを見送るような格好で左足でダイレクトに初瀬に渡すことができていれば、防ぐことのできた失点だったのかもしれない。
ダンクレー加入後、左センターバックに入っている大崎は、試合を重ねるごとに左足の精度を増しているように思う。
勝ったからこそ言えるのかもしれないが、今はこうしたミスを重ねながら、左センターバックとしてのプレーを身につけてほしい。

0-2で折り返すと思われた中で、ポドルスキが値千金のゴールを決めた。
イニエスタの蹴ったフリーキックのこぼれ球を、右に位置していたポドルスキがダイレクトでゴール左に蹴りこんだ。
浮いた球を上半身で抑え込みながらダイレクトに蹴り込んだという点では、アデミウソンが決めた得点と似ているが、ポドルスキの蹴ったボールは強烈な回転がかかっており、難易度はこちらの方が遥かに高い。
ポドルスキにとっては、シュートを枠に飛ばすことを意識したコントロールショットだったと思われるが、威力も十分だった。
結果的に、この得点がヴィッセルの逆転を呼び込んだといえるだろう。
同じハーフタイムを迎えるにしても、2点差と1点差では精神的な負担は大きく異なる。
そこまでG大阪にペースを握られていただけに、この得点がヴィッセルの選手たちに大きな勇気を与えた。
この日のポドルスキは誰にも止められない勢いがあった。
その後二つのスーパープレーで、2点目と3点目をお膳立てして見せたのだ。
54分にはイニエスタが左前に出したボールをゴールライン近くで高宇洋と競り合い、フィジカルを活かしてボールを奪い、ゴール前に送った。
ここにビジャが飛び込み頭で真っ直ぐに押し込み、後半開始から10分経たない間に同点に追いついて見せた。
ここでポドルスキはクロスを入れる前に、一度顔を上げ相手選手の位置を把握した上で、ここしかないという場所にボールを出している。
強靭なフィジカルと卓越したボールコントロール能力を併せ持つ、ポドルスキならではのプレーだった。
そして80分には自陣左から対角線に位置していた古橋に対して、ドンピシャのボールを送っている。
ここから起死回生の3点目が生まれたことを思えば、この試合はポドルスキの試合だったと言っても過言ではないだろう。

この試合のヒーローは、何といっても途中出場で2得点を挙げた田中順也だ。
74分にサンペールとの交代でピッチに登場すると、80分には古橋の折り返しを落ち着いてゴールに流し込んだ。
そして89分には、再び古橋からのクロスをゴール前中央から、ダイレクトに右足でゴール左に蹴りこんだ。
相手GKの位置を確認した上で、しっかりと上半身を固定して身体の回転で蹴った素晴らしいシュートだった。
選手層に厚みを増した今季のヴィッセルにおいては、なかなか出場機会を掴むことができないが、準備を怠らなかったからこその活躍だった。
経験、実績ともに申し分のない田中のような選手がチームに対する献身性を発揮するとき、チームには一体感が生まれる。
これは競技の枠を超えた真理ともいえる。
試合前から降り続いた強い雨の影響でスリッピーなピッチだったが、そんな中でも前川は落ち着いて対応していた。
アデミウソンのグラウンダーの強いシュートに対しても、身体全体で押さえ込むという基本を忠実に守りキャッチした。
ハイボールに対しては掴み損ねたような場面もいくつか見られたが、咄嗟にパンチングに切り替えて強く叩くことで、危険を回避しようとしていた。
昨季から出場機会を増やしている前川だが、確実に経験が糧になっているようだ。

厄介な存在だったファン ウィジョに対しては、ダンクレーが見事な対応を見せた。
前にボールを置き相手との距離を測るファン ウィジョに対して、ダンクレーはボールとの距離を測ることでファン ウィジョの足元から離れた瞬間にボールを奪って見せた。
フィジカルに自信のあるファン ウィジョだったが、さらに強靭なダンクレーの前には、明らかにマッチアップを嫌がっていた。
人数的なギャップを作られることの多かった試合だったが、ダンクレーの強さがゴール前にあることで、最後の部分を守り抜いた場面も多かった。
総じて思い通りに運ばなかったとはいえ、ポゼッションでもG大阪を大きく上回った。
かつてはパスサッカーでヴィッセルを翻弄したG大阪に対し、クラブとしての成長を見せつけた勝利だったともいえるだろう。
そしてこの逆転劇は、単にG大阪に勝利したという意味には留まらない。
試合後の会見でリージョ監督が語ったように、オープンな展開になったとしても勝負できるだけの戦力があることを証明した試合でもあったのだ。
ヴィッセルのやりたいサッカーをやらせてもらえる機会は、今後もそう多くはないかもしれない。
圧倒的な力量を持つ選手が多いヴィッセルに対して、四つに組む様な戦い方は避けるチームがいても不思議はない。
だからこそ、どんな戦い方にも対処できることを、ヴィッセルは証明する必要があったのだ。
この見事な逆転勝利が、チームにさらなる勢いをもたらすことは間違いない。
次節の相手は松本。
策士と呼ばれる反町康治監督だけに、何らかの対策を持って試合に臨むことは間違いない。
しかし落ち着いて対処すれば、決して負ける相手ではない。
相手の戦い方を気にしすぎることなく、自分たちが目指すサッカーをレベルアップさせていくことに徹しさえすれば、そうそうやられるようなチームでない。
試合前にリージョ監督が明かしたように、増山朝陽や郷家友太など負傷者も戦列に復帰してきた。
さらに激しくなるポジション争いが、さらにヴィッセルを成長させてくれることは間違いない。

今日の一番星
[古橋亨梧選手]
2得点の田中順也、3得点に絡んだポドルスキも候補ではあったが、ここは田中の2得点をアシストし、最後まで攻守に奮闘した古橋を選出した。本文中にも書いたが、前半はポドルスキと左右を入れ替え、藤春をマークする形で守備に戻る時間も長かった。しかしビジャが三田と交替し、ワントップに入ってからは攻撃面でチームを牽引した。3点目の場面ではポドルスキからのボールをトップスピードのままトラップし、マークしていた藤春を簡単にかわしている。折り返す前には、しっかりと中の様子を確認し、田中の1点目をアシストして見せた。4点目の場面ではペナルティエリア内でイニエスタにつなごうとしたボールが相手に当たり、ペナルティエリア右にこぼれたところを自ら追い、またしても藤春をかわして中央の田中にマイナス気味にグランダーのボールを送った。日本代表経験もある藤春を完全に上回ったこのプレーは、古橋の成長を証明している。昨季、ヴィッセルに加入以降、イニエスタとの相性も良く、その運動量を正しく発揮できている。ボールの扱いも格段に上達しており、3点目の場面で見せたトラップなどは、真似できる選手はそういないだろうというレベルのものだった。昨年の今頃はJ2の岐阜でプレーしていた古橋を見ていると、成功するか否かは、プロになる前の前評判ではなく、プロ入り後の努力と準備に積み重ねであると、つくづく思い知らされる。プロを目指す全てのサッカー少年に観てほしい古橋に敬意と期待を込めて一番星。
