ルPO1)後述(過蜜… | 岩感の正体

岩感の正体

全成俯瞰全

J1リーグ戦はW杯開催による中断期間を迎えているが、この間、日本国内のサッカーの話題はヴィッセルが独占した。
理由はもちろんアンドレス イニエスタ選手の加入決定だ。
Jリーグ史上最大の大物選手獲得のニュースは、文字通り世界中のメディアによって配信された。
このニュースが報じられてからというもの、SNS上でも「イニエスタ」「ヴィッセル」という単語はトレンドワードとなった。
三木谷浩史会長はヴィッセルサポーターだけでなく、日本中のサッカーファンに大きなプレゼントをしてくれた。
同時にヴィッセルは、これまで以上に世間の耳目を集める存在となった。
リーグ戦はもちろんだが、このYBCルヴァンカップにおいてもヴィッセルが勝ち進むことで、イニエスタが日本でタイトル獲得に挑戦という、新しいトピックが誕生することとなる。
他クラブのサポーターの方には失礼な物言いになってしまうかもしれないが、今やヴィッセルは日本中から勝利を期待されている存在となったのだ。



 というところでこの試合だ。
今季から導入されたプレーオフ初戦、予選D組を一位で通過したヴィッセルはA組2位の横浜FMとの初戦を2-4で落とした。
昨日、Viber公開トークで配信した速報版にも記したが、この敗戦そのものは、それほど悲観する結果ではないと思っている。
1週間後、ノエビアスタジアム神戸で行われる2ndレグにおいて十分に逆転は可能な数字だと思われるからだ。
試合後の会見で吉田孝行監督が口にしたように、まだ試合の前半が終わったに過ぎない。
2つのアウェイゴールを活かすためにも、「後半戦」はしっかりと勝利を挙げる必要がある。
そのためにも、この試合で顕在化した問題を整理し、それに対する対策を施さなければならない。

 両チームとも、直近のリーグ戦からの変更は代表勢の不在とU-21枠による変更のみに留まった。
ヴィッセルの布陣は、15連戦の最後に結果を残した4-4-2。
韓国代表としてチームを離れているキム スンギュとチョン ウヨンに代わって、前川黛也と北本久仁衛、そして右サイドハーフにはU-21枠として郷家友太が起用された。
いくつかのフォーメーションを持つヴィッセルだが、この布陣の時にはウェリントンと渡邉千真の2トップの活かし方が鍵を握る。
これを横浜FMサイドから見れば、如何にしてこの2トップにボールが入るのを防ぐ、若しくは自由を与えないかがポイントとなる。
これについては、この2週間で相当に研究してきたのだろう。
試合を通じて見たとき、ヴィッセルは横浜FMの策に嵌まってしまった感は否めない。
今季の横浜FMの特徴であるハイプレスは影を潜めていた。
いつもはハーフウェーライン近くまで出てくるGKも、この試合では低い位置に留まり、ヴィッセルの2トップの動きに対する警戒感を隠そうとしなかった。
守備時は中澤祐二と金井貢史のセンターバックコンビを軸に、低い位置でブロックを組んで対応した。
その際にFWを攻め残すことはせずに、文字通り全員で守備に入っていたのが印象的だった。
攻撃については、カウンターを基本とはしていたが、その際の狙いは明確だったように思う。
横浜FMの狙いは、左サイドバックのティーラトンとセンターバック渡部博文の間だった。
4バックで守るチームに対して、サイドバックとセンターバックの間を狙うのは鉄則ともいえる。
サイドバックに対して仕掛けることで、センターバックを釣り出し、ゴール前の守備を緩くすることもその狙いの一つだ。
ましてやティーラトンのように、攻撃に力を発揮するサイドバックを押し込めておくことができれば、それはヴィッセルの攻撃力を削ぐことにもつながる。
そこで横浜FMが攻撃の軸に据えていたのが、仲川輝人だった。
仲川は右サイドの大外にポジションを取り、そこから縦を基本として仕掛けてきた。
その上で隙間が見つかると、そこをドリブルで仕掛け、或いはパスで味方を呼び込むなど、状況に応じた攻撃で、ヴィッセルの守備を崩してきた。
結果から言えば、ヴィッセルの守備陣は最後まで仲川を捕まえることはできなかった。
特にティーラトンは、守備の対応が不明瞭になってしまったように思う。



 今季ヴィッセルに加入以降、ものすごいスピードで守備を習得しているティーラトンではあるが、まだオートマティックに対応できるまでには至っていない。
ボールホルダーに対して、その進路を塞いだり、身体を寄せることで相手の企図を潰したりという対応が求められる場面でも、ボールに直接向かってしまう場面が散見された。
そのためボールキープに優れた選手と対面した際には、あっさりと侵入を許してしまうこととなる。
この試合では4失点のうち3失点までが、ティーラトンを狙ったところから生まれたものだった。
これについては試合後、渡部も「守備が軽い」という表現で指摘していたが、全く同感だ。
ティーラトンについて、タイで対戦経験のある人は一様に、その攻撃力を高く評価する。
タイサッカーの特徴なのかもしれないが、攻撃力のある選手は、守備に関して厳しく求められることが少ないようだ。
そのためティーラトンは、今まさに守備を覚えている状況だ。
しかし精度の高いキックやボールを握る技術など、攻撃面では特別な力を持っている選手であることも事実だ。
今はこうした試合の中で経験を積みながら、様々なことを習得していく時期だ。
そして渡部のように、問題点を正確に把握している選手が身近にいるため、その習得速度は早い。
こうしたミスも、試合を重ねる中で減少していくだろう。

 もう一箇所横浜FMが狙いを定めていたのが、北本の背後だ。
23分の失点シーンでは、大津祐樹がそこを衝いた。
左サイドで山中亮輔からの縦パスを受ける場面では、北本の背後に狙いを定めていた。
対人の強さでは他の追随を許さない北本だが、スピード面には不安を抱えている。
そこをクリアするために、相手の動きを読み、身体を巧みに使うことで背後のスペースを管理しているが、この場面のように早いボールで裏を狙われてしまうと、どうしても対応が遅れてしまう。
この場面について大津は、山中から縦にボールがでてくることに確信を持っていたことを明かした。
柏のアカデミー時代から一緒にプレーしているだけに、お互いの特徴や狙いが解っているということなのだろう。
これを防ぐには北本一人ではなく、周りの選手との連携が必要だ。
後ろを意識し過ぎるあまり、守備位置が低くなるのでは本末転倒だが、やはり北本の背後のスペースをどのように管理するかという点については、GKを含めて対策を考えておく必要があるだろう。

 この試合における横浜FMのポジショニングについて、三田啓貴は「いやらしい立ち位置」という表現を使った。
実に言い得て妙だと思う。
4-3-3の布陣を採用した横浜FMは、先述したように右サイドは仲川を外に出し、その内側のハーフスペースを右サイドバックの松原健が埋め、逆に左サイドは大外をサイドバックの山中、ハーフスペースをオリヴィエ ブマルがそれぞれ埋めてきた。
その上で中央で余る形の扇原貴宏がボールサイドをフォローすることで、攻撃の圧力を高めていた。
ヴィッセルの守備を分断するために、この形で個人に狙いを定めてきたため、ヴィッセルは対応が弱く、横浜FMに主導権を握られる時間が長かった。
これは本来、ヴィッセルがやりたかった形でもある。
ヴィッセルもサイドバックとサイドハーフを直線状に置かないことで、ピッチを広く使いたかったところだが、なかなか主導権を奪い返せなかった。
その理由の一つは、ピッチ状態にある。
ニッパツ三ツ沢球技場では、前日にJ3の公式戦が行われたこともあり、ピッチ状態は芳しくなかった。
パスをつなぎながら主導権を取りたいヴィッセルにとっては、厳しい条件だった。
特に、前を狙った斜めのパスが巧くつながらなかった印象だ。
これは次戦がノエビアスタジアム神戸であることを思えば、あまり気にしなくても良いだろう。
寧ろ考えるべきは「前からのプレス」と「ボールをパスでつなぐ」ことの共存だ。
磐田戦や札幌戦では、ここが巧いバランスを保っていた。
前からプレスをかけてボールを奪いにいきながらも、全体がパスをつなぎやすい距離を保つことを意識していたため、試合の主導権を握り続けた。
しかしこの試合では、横浜FMのカウンター攻撃を受ける中で、全体の距離が間延びしてしまい、結果的にサッカーがチグハグになってしまった。
これについては渡部が試合後に話した通り、「行くか、行かないか」という判断をチーム全体でそろえるしかない。
全ての局面で前から行くのではなく、時にはリトリートしながら相手を受けて、そこから速いカウンターを見せることで、自分たちのペースに相手を巻き込むべきだろう。
これは決して難しいことではない。
過去に自分たちがやってきたことなのだ。



 次に攻撃面を見てみよう。
この試合で奪った2得点とも、セットプレーからだった。
最初は右サイドからのフリーキックの場面で、藤田直之が蹴ったボールをウェリントンがドンピシャで合わせた。
そして2得点目は左コーナーキックからだった。
三田が蹴ったボールに対して、ファーサイドで渡邉が、こちらも頭で合わせゴールネットを揺らした。
このように2トップの強さは、十分に発揮できた。
さらにカウンターも良い形で発動できていた。
そこで大きな役割を果たしたのが、左サイドハーフに入った田中順也だった。
ハーフスペースにポジションを取りながら、そこからドリブルで仕掛け、逆サイドに流れることで相手の守備を引っ張り、チャンスを創出していた。
2トップが警戒される中、その近くまで以下にボールを運ぶかということを考えたとき、田中の存在は大きな意味を持つ。
パスミスも散見されたが、攻撃に力を発揮できる田中を巧く活かすことは得点力アップに繋がる。

 この田中の動きを引き出したのは、ハーフタイムでの修正だった。
後半は三田が最終ラインまで落ちて、そこでビルドアップ役を担った。
同時にサイドバックとサイドハーフの縦関係をずらすことで、サイドとハーフスペースを使えるようになった。
これによってティーラトンの注意すべき視野角は180度に限定され、持ち前のボールを縦に運ぶ動きが復活した。
結果として、田中がハーフスペースでボールを受ける機会が増えた。
自分でも動きながら、サイドにボールを散らすことのできる三田のプレーが活きていた。

 田中の切れのある動きに対して、これに巧く連動してほしい郷家は、やや消極的だったように思う。
郷家の持ち味は、周りを巧く使いながら攻撃を組み立てていくプレーにある。
しかしゴール近くでは、自分で仕掛ける姿勢も見せて欲しい。
この試合では2度ほど、チャンスを迎えたが、いずれも周りを使おうとして、結果的に得点を生み出すことはできなかった。
郷家はテクニックもあり、視野も広い。
それであるが故に、より確率の高い方法を選択してしまうのだろうが、それだけでは相手に怖さを与えることはできない。
やはり時には、自分で強引にシュートを狙っていく姿勢も見せて欲しい。
ポジショニングも間違っておらず、冷静にプレーできている。
良い形でペナルティエリア内に入っていくことができているのが、その証左だ。
周りにシュート技術の高い選手が多いため、そこを使おうとする気持ちは解るが、やはり時にはエゴイスティックに動くことも必要となる。



 76分に渡邉との交代で投入された小川慶治朗は、「らしいプレー」を見せた。
2点差を追いかける展開の中、裏を狙う小川のスピードは、それまでの神戸にはない異質なものだったため、横浜FM守備陣は対応に苦慮していた。
ボールがこなくとも、サイドでアップダウンを繰り返すことで、横浜FMの左サイドを翻弄した小川だが、この試合でもシュートチャンスを創出した。
シュートは相手を慌てさせるには至らなかったが、この動きこそが小川の真骨頂だ。
ボールとは無関係に、動きだけで相手守備陣と駆け引きができる選手は、そういるものではない。
この動きができる限り、小川には出場チャンスは巡ってくるだろう。
果敢に相手の裏を狙いにいく小川ならば、いずれ大きな仕事をしてくれるような気がしている。

 ここまで見てきたことでも解るように、横浜FMとの間にそれほど大きな差はない。
攻撃に特徴のあるチーム同士の対戦であるため、流れをつかむなどのちょっとした差で、結果は大きく異なってくる。
ヴィッセルについて言えば、やや試合勘が薄れているように感じられた。
15連戦という「特殊状況」の中で張り詰めていた部分が、少しだけ緩んだのかもしれない。
前記したパスの乱れや守備時の対応ミスなどは、ここに原因がある可能性はある。
もしそうであるならば、次の試合は期待が持てる。
競馬の世界には「叩き2戦目」という言葉がある。
休養明けの馬を使う場合、目標とするレースは2戦目にするのが良いという意味だ。
休養明けに一つ実戦を経験することで、その後は大幅な良化が見込める。
選手個々のプレーは決して悪いものではなかっただけに、この試合でスイッチが入ることを期待したい。

 プレーオフ2ndレグを良い形で迎えるためにも、中3日でやってくる天皇杯を大事に戦って欲しい。
相手は福岡大学。
藤田をはじめとして、数多くのJリーガーを輩出している名門大学ではあるが、格の違いは明らかだ。
それだけに福岡大は「負けてもともと」という開き直りができる。
これには注意が必要だ。
受けて戦うのではなく、最初から圧倒して叩き潰すという気持ちで臨むべきだろう。
ご存知の通り、天皇杯はAFCアジアチャンピオンズリーグに直結する大会だ。
ここで最高のスタートを切ると同時に、チームを再び戦闘体制に切り替えるハンドリングを、吉田監督には期待したい。