10)鹿島 片付け優先戦(ひととして @県立カシマサッカースタジアム | 岩感の正体

岩感の正体

全成俯瞰全







【得点者】
神三田啓貴(34分)
鹿鈴木優磨(55分)


試合後の会見会場に現れた吉田孝行監督の表情は冴えないものだった。
その端正な顔を歪め、「90分を通してアントラーズのペースだった」と、試合内容で下回ったことを認めた上で、「連動した動きもできず、(勝点1でも)仕方ない結果だったと思う」と試合の感想を述べた。
ひょっとすると、敗戦以上のショックがあったのかもしれない。
試合を通じてのポゼッション率は50%-50%と、数字の上では互角だったが、その内容においては圧倒された感は否めない。
ルーカス ポドルスキも、鹿島の強さを認め、ドローという結果に対してポジティブな評価を与えた上で、「今季、一番悪い前半だったんじゃないかと思う」と、試合内容には全く納得がいっていないことを窺わせた。
 これは、筆者にとってもショッキングな結果だった。
15連戦を戦う上で、積極的にターンオーバーさせながら、ここまで結果を積み重ねてきたヴィッセルは確実に力をつけている。
出場機会をつかんだ選手たちが、一定以上の評価を与えられるだけのパフォーマンスを見せ、レギュラーを脅かすまでに成長したことで、チーム内の競争は激化している。
そして、公式戦3連勝という上げ潮ムードの中で迎える試合であるだけに、ヴィッセルの良さが存分に発揮されるものと、期待をしていたからだ。
 とはいえ、アウェイで勝点1を挙げた事実に変わりはない。
自分たちのサッカーができなくとも、最低限の結果は残した。
吉田監督もいうように、この事実をポジティブに捉えるべきだろう。
そして負けなかったことを喜びつつも、この試合で顔を覗かせた問題と真摯に向き合い、解決を図っていくしかない。



 試合を難しくした外的要因は2つある。
1つはピッチ、そしてもう一つは判定だった。
カシマサッカースタジアムの芝は、とにかくボールがよく滑った。
味方を走らせたボールが、そのままタッチラインやゴールラインを割ってしまうシーンが、試合を通じて散見されたのはこのためだ。
パスをつないでいこうとするヴィッセルにとって、この極端に早いピッチはマイナスに作用した。
巧くつながなければという意識が、動きを小さくしてしまったため、パスサッカーで重要な「動きながらボールを蹴る」という部分が曖昧になった。
そうなってしまうと、鹿島の選手はヴィッセルのパスに対して落ち着いた対処ができてしまう。
 そしてもう一つの要素である判定だが、予めいっておくとこれはヴィッセルに有利とか不利という話ではない。
この試合を裁いた松尾一主審は、スムーズな試合運営に、特に重きをおいていたようだ。
そのため、ボディコンタクトに対しては流す傾向が見られた。
この基準に先に適応したのは鹿島だった。
キックオフ直後から激しくプレスをかける中で、その基準を探っていた。
これについてはプレスをかける=鹿島、かけられる=ヴィッセルという図式になってしまったため、自然とその基準を利用できるのは鹿島の方になる。
もしボディコンタクトに対しての判定が敏感であったならば、試合の様相は全く異なるものになっていただろう。
判定基準が判った鹿島は、そこからプレスの強度を上げてきた。
ここでヴィッセルは、パスサッカーの天敵ともいうべきスタイルとの対峙を余儀なくされた。

 とはいえハードプレスに対する対応は、ヴィッセルがパスをつなぐサッカーを目指す以上、ついて回る課題でもある。
これを解決しないことには、上を目指すことは難しい。
試合後の会見で、吉田監督は「自信を持ってやらなければ(ポゼッションサッカーは)できない」と語り、選手のメンタル面の改善を呼びかけた。
これをサッカーでよく使われる別の表現で言い換えるならば、「勇気を持ったプレー」ということになるだろう。
以下で、この意味を考えてみる。

 ポゼッションサッカーにおいて重要な要素は4つある。
それは「狭いスペースでも速いショートパスをつなぐことのできるテクニック」、「ビルドアップしたボールを受けるため、スペースに切り込んでいくオフザボールの動き」、「相手のカウンターに対するチームとしての対応」、「走りながらパスをつなぐ技術」の4つだ。
この試合でヴィッセルは鹿島の素早く、強度の高い寄せに対して一つ目のところで躓いてしまった。
相手の寄せが強く、密集が生まれた場合、その中でパスをつなごうとする行為そのものは、リスクが高い。
しかもその位置が低い位置であった場合には、ボールを奪われるリスクを回避するために、セーフティーファーストにプレーしてしまう。
結果として後ろに戻し、そこから組み立て直すことを選択する。
しかしそこで再び相手に詰められてしまうと、今度は後ろでボールを回すだけになってしまい、「攻撃を組み立てる」という目的が、「ボールを失わない」という目的に変質してしまう。
ここで最悪なのは、バックラインのパス回しの中で徐々に追い込まれていった場合だ。
こうなると多くの場合は、コーナー付近での奪い合いになる。
追い込んでいる相手はリスクがないため、思い切ってボールを奪いに出る。
あわよくばコーナーキックを獲得しようという狙いだ。
この場合、主導権はプレスをかけている側にある。
この立場を逆転させるには、相手を引き付けた上で、味方が有利な局面を作れる場所にピンポイントにボールを出す必要が生じる。
密集の中から下げられてしまう一連の動きの中で、鍵を握っているのは前に蹴る勇気だ。
これは闇雲に蹴るということではない。
プレスに来た相手の空けたスペースに、ボールを出すということだ。
この試合の鹿島のように、複数人でプレスをかけてくるということは、その人間が本来のポジションを離れているわけであり、そこには必ずスペースがある。
ということはそこにボールを出すことができれば、一気に形勢が逆転するのだ。
もし、そのスペースが小さいものであったならば、そこで初めて自陣に向けてボールを動かすことを考えれば良い。
自陣にベクトルを向けるということは、失点のリスクが高くなる。
大概の選手は、そこで自重せず、追撃の手を伸ばすだろう。
自分たちにはリスクがないと考えるからだ。
ここが狙い目だ。
そこで空けたスペースを広げ、そこにボールを出すことで、やはり味方のチャンスは広がる。
この試合の中では、試合終盤にピッチ中央で渡部博文やチョン ウヨンが高い位置に上がり、ハーフウェーライン付近で勝負を仕掛ける場面があった。
そしてそこで相手をかわしたとき、チャンスにつながっていた。

 同時に、味方のフォローに入る勇気も求められる。
相手に寄せられたとき、そこにフォローに行くということは、上記の事象の裏返しで、スペースを空けてしまうということでもある。
もしそこでボールを受けることができなければ、自分が空けたスペースを相手に使われることになってしまう。
それが解っているからこそ、多くの場合で選手はフォローに行くのではなく、自分のスペースを守ることに専念する。
しかし吉田監督が言うように、そこに行かなければ、相手の思惑の外には出られない。
ポゼッションサッカーを目指す以上、そこでの勇気が求められる。

 しかし勇気だけで突っ込んでいくのでは、それは匹夫の勇になってしまう。
必要なのは、勝負しようとする熱い気持ちの裏側に、冷徹な計算を働かせる頭脳をおくことだ。
それがオフザボールの動きにつながる。
この試合では鹿島に厳しく寄せられる中で、目の前の事象に対応することに追われてしまい、勝負に出る余裕はなかったように見えた。
しかし前節の名古屋戦のように、面白いようにボールが回るときというのは、相手が動くよりも先に、味方の選手がスペースを見つけている。
それも常にそこを意識しているため、オフザボールの時に巧みに動いている。
結果として相手選手をひきつけることも出来るため、ボールホルダーを楽にする効果も生まれる。
今後もヴィッセルに対しては、多くのチームが厳しいプレスをかけることでパスワークを止めようとしてくるだろう。
だからこそ、これに対する対策としても、オフザボールの動きとそこを使う勇気は磨いておかなければならない。
プレスをかけてくる相手に対して、試合序盤にでもそれを数回見せるだけで、相手の前に出ようとする動きに精神的圧力を加えることができるからだ。



 こうしたプレーをするための勇気を持つためには、吉田監督が言う通り「自信」を持たなければならない。
相手をリスペクトすることは大切だが、恐れてはいけない。
これは日本代表に対しても、よく言われることであり、乗り越えるのが難しい。
しかしここを乗り越えると、一つ上の光景が見えてくる。
まだユニフォームに星こそ附いてはいないが、今のヴィッセルはそれを掴み取ってもおかしくないだけの布陣が整いつつある。
選手を見渡してみれば、ルーカス ポドルスキを筆頭に、どの選手も前の所属チームでは「欠くことのできない」中心選手だった。
生え抜きの選手も同様だ。
アカデミー出身者は、今や国内屈指の強豪チームとなったアカデミーの中で頭角を現した選手ばかりだ。
そこで昇格できなかった選手の中には、他クラブで採用されている選手もいるほどレベルの高い争いを勝ち抜いてきたのだ。
そして学生出身は超高校級や大学ナンバーワンといわれた選手ばかりなのだ。
そうした経歴の選手たちが集い、日々ポジション争いを繰り広げているのだから、そこは自信を持ってほしい。
そもそもが、現在のJリーグにルーカス ポドルスキ程の実力を持った選手はいない。
W杯を制したドイツ代表の中心選手で、ドイツサッカーにおけるレジェンドでもある。
それ程の選手が、十分に動ける状態でヴィッセルにやってきたのだ。
ルーカス ポドルスキと同等のレベルでプレーすることができれば、それは海外の一流クラブでも十分に戦えるだけの実力ということになる。
これほどの基準をクラブ内に持ち、日々プレーしているのだ。
巧くならない理由がない。
この事実を縁として、自分たちに自信を持って試合に臨んでほしい。

 勇気ということでいえば、吉田監督にもモチベーターたる勇気を持ってほしい。
吉田監督の交代策は、チームに対するメッセージでもある。
監督がチームに何を望んでいるか、それが全ての選手に解るような交代を見せて欲しい。
選手は、指揮官の一挙手一投足に注目している。
だからこそ、効果的にパフォーマンスを行うと、それはチームを変えることにつながる。
 かつて阪神タイガースの監督を務めていた藤本定義氏は、元巨人の監督でもあった。
藤本氏は、阪神の選手の中に「巨人コンプレックス」があることを見て取った。
そこで巨人戦の時には、当時、巨人軍の監督を務めていた川上哲治氏を呼び止めては「おい、テツ!」と、阪神の選手の前で呼び捨てにしたという。
用事があったわけではなく、阪神の選手のコンプレックスを取り除くためのパフォーマンスだったと、生前の川上氏から聞いたことがある。
そして監督就任2年目の1962年。
阪神を2リーグ制下での初優勝に導いた。
川上氏はこの時の藤本氏を見て、監督とはパフォーマーである必要があると教えられたと語っていた。
 生真面目な吉田監督は、その外連味の無さが魅力でもある。
しかしそんな吉田監督だからこそ、パフォーマンスに価値があるのだ。

 その吉田監督は、好調の大槻周平やウェリントンではなく渡邉千真をワントップ先発起用した。
献身的に守備にも走りことのできる渡邉だが、この献身性が時に裏目に出ることもある。
この試合でも渡邉は休むことなく守備に走り続けたのだが、ヴィッセルが押し込まれる中で下がって味方のフォローに入るため、攻撃性が低くなってしまった。
そのお陰で守り切れたともいえるのだが、時には前で張り続ける強引さも見せて欲しい。
この試合では渡邉になかなかボールが収まらなかった。
植田直道を中心とした守備の強度も高かったが、それ以上にヴィッセルの攻撃陣が動きすぎてしまっていたように思う。
 試合後に鹿島の選手の多くは、自分たちが圧倒していたということには言及するのだが、ここで勝ち切れないのが今のチームの問題点であると振り返っていた。
かつての自信は、今の鹿島にはないようだった。
だからこそヴィッセルの選手が強気に出れば、試合の様相は一変していたかもしれない。



 その意味でも、リーグ戦初先発を果たした安井拓也にとっては、ほろ苦いリーグデビューとなったかもしれない。
比較的早い時間帯にイエローカードを受けてしまったことも、プレーを難しくしたのかもしれない。
しかし安井の実力がこの日見せたパフォーマンスよりも遥かに高いことを、我々は既に知っている。
後は相手を恐れず、積極的に挑んでいくことが課題だ。

 この試合で違いを見せたのは、やはりルーカス ポドルスキだった。
34分にペナルティエリア左前で藤田直之からのボールを受け、シュートを打つという雰囲気から、見事なチップキックで三田啓貴のゴールをアシストした。
試合後には「三田がよく決めてくれた」と語っていたが、三田からすれば「ここに入って来い」と教えられた気分だっただろう。
「パスはピッチ上のメッセージ」という言い方をされるが、ルーカス ポドルスキのパスにはメッセージが込められている。
パスを送る相手にどんなプレーを望んでいるのかということを意識すれば、これは誰でも身につく。
ここで勘違いしてはならないのが、つなぐという行為そのものにはメッセージがないということだ。
他クラブを例に取ると、前節で対戦した名古屋のプレーがそれだった。
ボールをつなぐという行為だけに汲々としてしまうと、それはやがて自分がミスをしないという責任回避につながってしまう。
味方にどんなプレーを望むかということは、常に意識してほしい。
それがゲームの中で作り出す「メリハリ」にもつながる。



 失点シーンは、キム スンギュの能力の高さが裏目に出たともいえる。
内田篤人が右から入れたストレートのクロスボールが、キム スンギュの手を掠めて鈴木優磨の前にこぼれてしまった。
鈴木はポジショニングは良かったが、シュートまでいく動きにキレがなかったため、このシーンだけが唯一のシュートチャンスだった。
内田のクロスボールはスピードもあり、平均的なGKであれば触ることもできなかったと思われる。
キム スンギュだからこそ触れたボールであり、もし僅かでもボールのコースが変わっていれば、鈴木のゴールにはつながらなかっただろう。

 後半はあたかもハーフコートゲームのように押し込まれ続けたヴィッセルだったが、最後まで勝利への執念は見せた。
後半アディショナルタイム4分台に入ってから、ルーカス ポドルスキが残る力を振り絞ってドリブル、左から素晴らしいクロスを入れたが、飛び込んだウェリントンは僅かにヒットしなかった。
こぼれたところに大槻周平がいたが、シュートは相手守備陣の必死のブロックの前に防がれてしまった。
結果論でいえば、大槻がダイレクトにシュートを放っていれば、という気もするが、そこまでの試合内容を見ると同点で止むなしだったように思う。

 仮定の話には何の意味もないが、それを承知で敢えていうならば、昨年までのチームであれば逆転を許していたように思う。
巧くいかないなりに、相手の攻撃を抑え、最後まで勝利を希求した姿には、着実な成長を感じた。
シュートをブロックされた時に大槻が見せた表情が、全てを物語っている。
そしてその気持ちこそが、次の勝利を呼び込む。

次戦は中2日での川崎F戦。
お世辞抜きに、現在のJリーグで最も完成度の高いチームだ。
このディフェンディングチャンピオンに対して「挑む」気持ちと同様に、決して選手の能力値の総和では負けていないという「自信」を持ってほしい。
そしてホームで難敵から勝利を奪い取るためにも、今は全力でリフレッシュして欲しい。