6)後述(次勝ってこその昨日の機能 | 岩感の正体

岩感の正体

全成俯瞰全

試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、ヴィッセルサポーターの歓声がスタジアムに木霊した。
ダービーマッチの名に相応しい激闘を制することができたたのは、ヴィッセルの方が勝利への執念という点において勝っていたからではないだろうか。
そしてその執念を引き出したのは、4日前のYBCルヴァンカップにおける勝利だったように思う。
若い選手が中心となり、巧みにボールを動かしながら試合を支配し、湘南を3-0で退けたこの試合がチーム全体に与えた影響は大きい。
この結果は若手選手たちには自信を植え付けると同時に、リーグ戦を戦う「レギュラーメンバー」にとっては、後ろから迫ってくる力を認識させる効果があった。
これこそが「チームの勢い」を生み出す。
YBCルヴァンカップを受けてのこの試合は、己の力を証明するべく、最後まで走り続けた選手たち各々の執念が結実した勝利だったといえるだろう。



 値千金の決勝ゴールを挙げた大槻周平は、試合終盤足を攣りかけていた。
両チームを通じて、出場選手中最も長い距離を走り抜いたのだから無理もない。
そんな中で大槻の足を動かしたのは、現在、チーム内で繰り広げられている厳しいレギュラー争いだ。
攻撃のタレントが揃っている中で出場機会をつかむためには、自分の持ち味を発揮し、それがチームに必要な力であることを実戦の中で証明しなければならない。
このプレッシャーが大槻の足を最後まで動かしたのだろう。
大槻は試合後、「チームのために頑張っていたら、最後はボールがこぼれてくるんだなと思いました」と、やや照れたように語ってくれたが、これは案外真実かもしれない。
前線でプレスをかけ続けたことについて、「ルーカス(ポドルスキ)は最後のところで、絶対に決定的な仕事をしてくれると思っていたので、プレッシングを自分が頑張ることで彼の負担を減らせると思っていた」と語ったように、大槻の動きは、文字通りチームのためを考えたものだった。
自分の持ち味である運動量をチームのために活かすという思いを強く持っていればこそ、最後まで献身的に動くことができた。
これがあるからこそ、タレント集団の中にあっても、大槻は出場機会をつかみ取っている。
前からプレスをかけるだけではなく、前線から一気に自陣まで戻り守備をするなど、その姿勢は最後まで変わらなかった。
後半、G大阪がヴィッセルゴールに迫った時間帯には、攻撃を組み立てようとした遠藤保仁
に背後から迫り、巧みにボールを奪い攻撃に転じるなど、効果的な動きを続けた。
 この「自分の持ち味を発揮する」という姿勢は、他の選手からも強く感じる。
これこそが、今季のヴィッセルの特徴なのかもしれない。

チームの作り方には二つの方向性がある。
1つは全体像を監督が描き、それぞれのポジションに応じた役割を決め、選手を当て嵌めていく方法だ。
そしてもう一つは、選手個々の特徴を組み合わせることで、全体像を決めていく方法だ。
どちらが優れているという話ではない。
例えばネルシーニョ前監督などは前者だった。
対戦相手に応じて、そのストロングポイントを消すための戦術を用意し、そこに選手を当て嵌めていく。
この場合、選手個々に対しては役割が明示される。
 これに対して今季、吉田孝行監督が目指しているチーム作りには自由度がある。
ある程度は対戦相手に応じて戦い方も変化させるだろうが、基本的にどこが相手であっても、自分たちでボールを握りながら主導権を取ろうとする点に変わりはない。そのため選手は、自分の特徴をチームにフィットさせる努力が求められる。
 こうした二つのやり方を違いは、ジクソーパズルと積み木の違いといえば解り易いだろうか。
ジクソーパズルにおいては、完成形は最初から決められている。
そのため何をすべきかという意思統一は容易だ。
これに対して積み木の場合、完成形は定まっておらず、何を作るかはパーツ次第でもあり、作り手の感性に委ねられている。
そのため意思統一は難しいが、発想次第でどこまでも広げていくことができる自由度が魅力だ。
言うまでもなく今季のヴィッセルは「積み木型」だ。
ルーカス ポドルスキを筆頭に、特徴のある選手が揃っている。
その組み合わせ次第では、どこまでも強くなることができる可能性を秘めている。
「ジクソーパズル型」に比べて、完成までに要する時間は長いだろうが、その先に広がる可能性を考えた場合、取り組む価値は十分にあるといえる。

 この一つの型に嵌らない強さが表れたのがゴールシーンだった。
GK東口順昭のゴールキックを、G大阪の選手が頭でフリック。
これを渡部博文がダイレクトに蹴り返し、大槻が相手選手に競り勝ち、横の藤田直之に落とした。
藤田は中央からやや右にコースを取ってドリブルを開始、相手選手をひきつけながら右に絶妙なスルーパスを通した。
ここに藤谷壮が走り込み、マイナス方向にグラウンダーで戻した。
これをニアサイドの渡邉千真がスルーし、最後は大槻がゴール左へ流し込んだ。
この場面では渡部のシンプルにつなごうという意識、ピッチ中央で競りながら、そこから前線に上がっていった大槻の走力、藤田の技術と視野、藤谷のスタミナとスピード、渡邉のゴール前での落ち着きといった具合に、各選手の持ち味を活かしたプレーが複数組み合わさっている。
さらには最後の場面では、ルーカス ポドルスキと三田啓貴もペナルティエリア内に侵入していた。
これは選手たちの咄嗟の判断であり、決して事前から狙っていた戦い方ではない。
こうした動きが常時できるようになるまでには、まだ幾ばくかの時を必要とするだろう。
事実、試合中にルーカス ポドルスキが追い越す動きをしないティーラトンに詰め寄るシーンがあったように、まだ選手個々の間には意識のズレがある。
しかしそんな中でもポゼッション、シュート数ともG大阪を上回り、勝利を挙げた。
攻撃的なチームを作るという試みは、着実に前に進んでいるといっても良いだろう。
監督経験の浅い吉田監督にとっても厳しい挑戦かもしれないが、取り組むだけの価値は十分にある。

 試合そのものは、決して良い内容だったとはいえない。
前半はポゼッションこそしていたが、攻撃はやや単調だったように思う。
今季、未だリーグ戦で勝利のないG大阪は、その結果ゆえか「失点しない」という方向に意識が向いていたように見えた。
試合開始直後こそ右のウイングに位置した食野亮太郎からのクロスをキッカケに、最後は遠藤がミドルシュートを放つなど攻撃的に出てきたが、その後はボールを支配するヴィッセルに対して、自陣で4-4のブロックを形成し、守りを固めていた。
この図式は10年ほど前の対戦時の裏返しだ。
時を経る中で、両チームの立ち位置が変わっていったことは興味深い。
ヴィッセルは相手陣内でゲームを進める時間帯は長かったが、ブロックを破るまでには至らなかった。
外からのクロスを中心にブロックを崩そうとしていたが、G大阪の集中した守備の前では効果的な攻めとはなっていなかった。
逆にカウンターを狙うG大阪への警戒感からか、膠着した感のある前半となった。

 G大阪のカウンターを牽引していたのは食野と右サイドバックの初瀬亮だった。
対面するティーラトンはこの二人への対応に苦慮していた。
一度は守備についてキム スンギュから注意を受けるなど、ティーラトンにとっては難しい試合となった。
タイ時代のティーラトンを知る人に聞くと、特徴は攻撃面にあると誰もが口を揃える。
事実、この試合でもティーラトンは縦に効果的なボールを供給しており、その狙いも良いため、チャンスに直結していた。
一方、守備についてはあまり印象には残っていないようだ。
タイのサッカーそのものが守備に重きをおいていないことも影響しているのだろうが、ティーラトンにとっては守備のタスクが大きいサッカーは初体験であるようだ。
この試合では1対1から裏を取られる場面も散見されたが、それでも最後まで粘り強く食いつこうとする姿勢は評価したい。
攻撃面では質の高いクロスボールを蹴る能力のある選手であるだけに、守備能力を高めることができれば、Jリーグでも屈指の存在になれる。

 後半も、ヴィッセルがペースを握る展開は変わらなかった。
52分にはペナルティエリアすぐ外からルーカス ポドルスキが絶妙のフリーキックでゴールを脅かすなど、G大阪ゴールに迫った。
ヴィッセルがペースは握ったが、G大阪もカウンターで応戦、ヴィッセルゴールを脅かした。
55分には遠藤の縦パスを長沢駿がフリック。
最後はファン ウィジョがミドルレンジから右足でシュートを放った。
これはポストを直撃したが、そのこぼれ球に反応してフリーで抜け出した食野にシュートを打たれた。
ここでは食野のシュートがヒットしなかったため、失点とはならなかったが、完全に守備は崩された。

 この試合でヴィッセルの守備は、やや単調だったように思う。
全体が連動して追い込むのではなく、個々人が高い位置からプレスをかけ、そこから攻撃に転じるという狙いを持っているだけに、どうしても守備の方向が縦方向になりがちになってしまう。
それ自体に問題はない。
しかしそこで横位置を気にしていないため、選手の間を取られる場面が散見された。
今の守備の仕方を変えるのではなく、横位置を調整し、前後にギャップをつけることで、選手と選手の間を狙う攻撃に対処して欲しい。

 細かな箇所では、C大阪戦のような質の高さは見せられなかったかもしれないが、攻撃陣は公式戦9試合連続得点を続けるなど、以前として好調を維持していることは間違いない。
この試合では1得点だったが、前記したルーカス ポドルスキのフリーキック以外にも、何度も得点チャンスはあった。
 この試合で最もチャンスに絡んでいたのは三田だった。
2度ほど決定的なチャンスを迎えたが、中でも最大のチャンスは後半アディショナルタイムの場面だった。
ルーカス ポドルスキが左から相手守備をかわしてペナルティエリアに侵入。
絶妙のクロスを上げ、そこに三田がドンピシャのタイミングで合わせた。
東口の動きを完全にかわしていたため、誰もが得点と思ったが、ここではゴールライン上に残っていたファビオの奇跡的な守備に防がれてしまい、三田のヴィッセルでの初ゴールはお預けとなってしまった。
この日は普段よりも足を滑らせる場面も目立つなど、調子が良かったとはいえないかもしれないが、それでも運動量・テクニックとも安定していた。
試合途中で右のサイドハーフにポジションを移してからは、ボールに触る回数も減っていたが、それでも藤谷の上がりを引き出す動きを見せるなど、頭にスランプはないことを証明してくれた。

 この試合でも攻撃の軸として、何度もチャンスを作り出していたルーカス ポドルスキだったが、いつもよりも前目にポジションを取っていたように見えた。



本人は試合の流れの中でポジションを決めているため、特に前という意識は無かったのかもしれないが、このポジションがG大阪の守備ラインを押し下げていたことは事実だ。
日本代表の三浦弦太すらも子ども扱いしてしまう突破力を持っているため、ルーカス ポドルスキには複数のマークがつく。
そこで生じたスペースをどのように活かすかというのが、ヴィッセルが追求し続けるべきテーマとなる。

 そこで大きな意味を持っているのが、この試合でも先発出場した郷家友太の存在だ。



この試合でも右サイドハーフに入った郷家だったが、シンプルにボールを捌きながらポジショニングを巧みに変え、全体をコーディネートしながら前に進める能力は一流だ。
さらにゴール前でのアイデアもある。
後半開始直後、藤田のミドルシュートに対して、ゴール前でヒールを使ってコースを変えるなど、なかなかに面白いプレーを見せてくれた。
この場面では東口にキャッチされてしまったが、確実にゴールに近付きつつある。
同期入団の佐々木大樹が4日前のYBCルヴァンカップで得点を挙げたことは、郷家にとって良い刺激になっているのだろう。
これまで以上にゴールへの意識が高いように見えた。
試合後には、もっとゴール前に入っていくプレーを増やしたいと語るなど、プロらしい貪欲さも見られるようになってきた。
これは歓迎すべき変化ではあるが、あまり意識し過ぎないようにも注意して欲しい。
全体をコーディネートするバランスの良さこそが、郷家の素晴らしい点であるので、そこは保って欲しい。

 決勝ゴールをアシストした藤谷だが、そのフィジカル面の成長には目を見張るものがある。



昨季までに比べると、試合終盤のスピードは確実に増している。
さらに相手に寄せられたときや、身体を反転させてキックする場面での強さも際立っている。
これは、今季から加入した咲花正弥フィジカルコーチの指導に拠るところも大きいのだろう。
強さとスタミナを身につけたため、藤谷のプレーは確実にワンランク上がっている。
次の課題は動きのバリエーションを増やすことだ。
そのための鍵となるのは、ボールを晒す動きにある。
相手にマークされた時点で相手の届かない位置に置くのはセオリーではあるが、そこで敢えて相手が届きそうな位置にボールを晒すことができれば、相手の動きをコントロールすることができる。
それをするためには、相手の動きに応じて左右どちらにでも向きを変えられる体幹の強さが求められるが、今の藤谷にはそれが備わっているように感じる。
傑出したスピードを持つ藤谷がその動きを見につけると、フル代表も視野に入ってくる。

 精神論で試合を語るのはあまり好きではないのだが、この試合ではチーム状態がもたらす精神的プレッシャーが選手の動きに与える影響が顕著だった。
昨季からリーグ戦未勝利が続いているためだろう。
G大阪の選手は、全体に意識が後ろに向いていた。
そのため攻撃には大胆さがあまり見られず、どこかセーフティーな方向に逃げ込むようなプレーが多かったように思う。
これに対しヴィッセルは、リーグ戦は未だ1勝ではあったが、自分たちが目指しているサッカーが日々成長しているという実感があるのだろう。
最後まで前を向く気持ちが、観ている側にも伝わってきた。
後半アディショナルタイムに入って尚、勝点3を希求する気持ちがチーム全体にあったことが、大槻が言うところの「ご褒美」のようなゴールにつながったのかもしれない。

 この勝利で勝率、得失点ともイーブンに戻った。
順位こそまだ10位ではあるが、2位との勝点差は僅かに3。
近年稀に見る混戦模様のJリーグであるだけに、上位進出のチャンスは十分すぎるほど残されている。
現在続く15連戦が終わったとき、リーグ戦は半分近くの日程を消化している。
この時点で、ある程度の趨勢は決まっているのかもしれない。
15連戦という過酷過ぎる日程の中で身体を動かすのは、勝利がもたらす高揚感と自信だ。
その意味でも、大きな勝利だったといえるだろう。

 次戦は中2日での浦和戦。
早くも監督交代を行うなど、波に乗れていない浦和ではあるが、Jリーグ屈指のタレント集団であることは間違いない。
しかし、その浦和を相手にしても引けを取らないほど、今のヴィッセルにはタレントが揃っている。
今、変革の時を迎えつつあるヴィッセルの戦いを、一人でも多くの人に見てほしい。
できればかつてのヴィッセルを見たことのある人にこそ、今のヴィッセルを見て欲しい。
そこにはかつての姿からは想像もつかない、攻撃的なチームがある。
平日のナイターではあるが、ぜひサポーターの皆さんには、一人でも多くの人を誘ってスタジアムへ駆けつけて欲しい。
そのサポーターの熱量が、チームの変革を加速させる。



今日の一番星 
[藤田直之選手]

決勝点を挙げた大槻とも思ったが、ゲームを通じてチームをコントロールし続けた藤田をC大阪戦に続き選出した。三田とのダブルボランチは試合を重ねるごとに形が整ってきた。三田を前に出しながら、藤田は最終ラインにまで落ち、そこから正確にビルドアップしていった。後半、三田がサイドハーフにポジションを変え、三原とのコンビになってからは、三原に守備を任せ、自身が前に出る形で攻撃を後押しした。また積極的に前にも顔を出し、チャンスにはミドルシュートを放つなど、相手にとって危険な存在となっている。決勝点を演出した場面では、近くの相手二人をコントロールするだけではなく、離れた位置にいた初瀬に対してもルックアップすることで意識を引き付けた。これによって初瀬は後ろに下がれなくなり、藤谷の走路が空いた。この結果、藤田がボールを受けた時点では、ハーフウェイーライン近くにいた藤谷が上がるための時間も作り出している。時間帯を考えると、藤谷には厳しい動きを要求するパスだったかもしれないが、ゴールライン手前で止まるようにきっちりとバックスピンをかけた見事なパスだった。最後までゲームをコントロールした「かえって来たマエストロ」に、文句なしの一番星。