ムスイは、マーレの話を聴きながら、自分の中にもマーレと同じような悪があることを思っていた。しかし、ムスイには、その部分、つまり心の頑なさと傲慢に悪という言葉を使うのは強すぎるように思えた。それは、自分自身でその度合いを自覚できていないためなのか、それとも頑なという言葉を都合のいいように捉えているためなのか、もしくは傲慢になってしまうという自分を客観視しているために罪悪感が乏しいのか、分からなかった。でも、マーレが話してくれたことは、ムスイには受け入れやすく、言いようのない生き苦しさを少なからずムスイも感じているからだった。マーレは、そんなムスイの様子を見て訊いた。

「ムスイは、あの島に行ってみたいと思うかい」

ムスイは、マーレにとってあの島がどんな大切な意味を持つのか、思い巡らした。そして、おそらく、遠くから島を見た時にかすかに見えた町のようなところ、そこがマーレの行きたいところなのだ、ということもうっすら分かっていた。けれど、ムスイは、マーレが最後に教えてくれた誠実に向き合う、という問いを自分にも向けて受け取っていた。少し考えるようにしてから、ムスイはこう答えた。

「僕は、まだあの島に行くという気持ちはそこまで強くないんだ。僕は、まだこの世界に来たばかりだし、あの町で見られる不思議な売り物や、出来事に心が向いていて、今も、あの島、と言ったら、湖の虹の橋やブロターの家、が僕にとっての島なんだ。そういう意味では、またブロターに会いに行きたいし、湖の中をブロターの背中に乗せてもらって回ってみたい。でも、マーレにとっての島、という意味では、まだそこまで気持ちが追いついていないのが今の僕。まだ、色々なことが刺激が強すぎるんだ。」そこで、ムスイは口を噤んだ。そして、少し間をおいてから、

「マーレはやっぱりあの島に行ってみたい」と訊ねた。この質問は、マーレの心に触れるところだったから、ムスイにとっては、少しの勇気を必要とした。

マーレは、少し間をおいてから、こう答えた。

「私は、あの島に行けなかったのは、きっと神様から見て、まだ私は準備不足だったから、だって思ってるんだ。この世界に来た人間は、みな少なからず神様の導きをえてここに来てると思ってる。だから、いいことも悪いことも、すべて神様の御心によっていると私は思う。私は、あの出港で島に辿り着けなかったことを実は、そこまで悲しんではいないんだ。まだ、自分でも自分の内側が整えられていないことを少しは自覚しているし、逆にあそこで辿り着けなかったから、こうしてムスイとも会えたんだ。まだ、先のことだから何も分からない。でも、私はまだ成長する必要があって、その先に神様の導きがあるかもしれない。だから、今は、ただ毎日を『とてもたいせつな書』と自分を向かい合わせながら、少しずつ息を吐くようにしっかり生きること、これが大事だと思ってるよ」

そして、ムスイに「これからどうするんだい」と訊いた。

ムスイは、

「1度自分の故郷に戻ってみようと思う。僕は、そこに『とてもたいせつな書』を置き忘れてきたから。それと、この世界で見て感じたことを持ち帰って、少し自分の町で自分を見つめてみたいんだ。」

マーレは「そうかい。いい考えだと思うよ。」とこたえた。

「マーレは、どうするの」

マーレは少し考えてから

「私はまたあの町に戻ってみるよ。」

「そっか。じゃあまたあそこで会えるね。」

「そうだね。」

マーレは、ムスイを抱きしめてから「気をつけて行ってらっしゃい。」と言った。

ムスイは、「マーレに会えて良かった。戻ってきたら、また一緒にブロターに会いに行こうね。」

こうして、2人は別れた。

マーレは、あの町へ、ムスイは、自分の町へ。

それぞれ星の車に乗って出発した。