多頭飼育の崩壊に対して現在の動物愛護法は、ほとんど無力である。
個々の自治体の職員やボランティアの献身的な尽力に負う部分が大きい。
山梨県都留市で実際に起きた事例を見てみよう。
ピーク時で約400頭の犬を飼養していた。飼育者は、動物取扱業者ではなく、一般人である。
不妊去勢を施さないためにどんどん増えていったという。
時系列で記すと次のようになる。
平成4年頃から周辺住民から悪臭や放し飼いによる危険について都留市に苦情が寄せられるようになった。
都留市は、飼養者に対して適正飼養するよう行政指導をしたが、飼養者は従わなかった。
平成13年12月、都留市は飼養者に対して改善勧告を出したが(動物愛護法25条1項)、期限を過ぎても改善はなされず、平成14年2月に改善命令を出す(同条2項)。
しかし、飼養者は改善命令に従わなかった。
そこで、都留市、愛護団体、周辺住民らが対策会議を結成し、頭数削減や環境浄化に乗り出した。
平成14年10月には、愛護団体が費用を全額負担して約160頭の不妊去勢手術をした。
平成17年ころになると、頭数は徐々に減少していった。
平成18年10月、飼育者が死亡。
その後、飼養者の使用人であった者が管理者となって、愛護団体や都留市の支援のもとで犬の飼養を行うことになった。
平成23年7月には55頭にまで減少。
このように、周辺住民からの苦情が出てから55頭に減少するまで実に20年近くかかっている。
なぜ、多頭飼育崩壊の問題解決にこれほど長期間がかかるのか。
現在の動物愛護法には、多頭飼育下に置かれている犬や猫を強制的に保護する手段が設けられていないからだ。
動物愛護法には、多頭飼育する飼養者に対して勧告、措置命令という手段が定められているが、強制力はない。
自治体が改善勧告や措置命令を出しても、これに従わない者はいる。
措置命令に従わなければ刑事罰として20万円の罰金が課せられるが、罰金を課しても飼養環境の改善が図られる保障はない。
都留市の事例でも刑事告発はしていない。告発しても改善につながらないと判断したからだ。
多頭飼育による周辺環境の悪化や犬や猫の健康被害を一刻も早く解決するためには、動物愛護法に強制力をもった救済措置を設けることが必要だ。
具体的には、自治体が飼養者に対して、犬や猫の不妊去勢手術をすることや、怪我や病気に対して必要な治療を受けさせることを具体的に命じることができる旨を、動物愛護法に明記することだ。
そうすれば飼養者が命令に従わない場合、自治体が飼養者に代わって強制的に犬や猫を保護することができる(行政代執行)。