元旦の山陽新聞。
3月の世界選手権の舞台は、高橋にとって思い出の地だ。2006年のトリノ冬季五輪で8位に終わるなど、勝負どころで力を発揮できずに「ガラスのハート」と呼ばれた男が、殻を打ち破って銀メダルに輝いたのが、07年に東京で開催された世界選手権だった。
日本のエースにたくましく成長した24歳は、昨季はバンクーバー五輪で銅メダルを獲得し、世界選手権で初優勝した。いずれも日本男子で初の快挙。だがその胸には「五輪シーズンを終えたら、本当は現役を引退するつもりだった」と、8歳で出会った競技に別れを告げる決意が秘められていた。
再びやってきたスケートシーズン。男の色気を漂わせて踊る高橋の姿も、銀盤に戻ってきた。「選手をしていたい、やめたくないという自分の素直な気持ちに従った」という世界王者に、今期も観客席からは熱い声援が降り注ぐ。
翻意の理由を「やっと自分の感覚が戻ってきたから」と説明する。08年の秋に右ひざ靭帯を断裂し、手術とリハビリを経て何とか2度目の五輪出場にこぎつけた。だが、大けがをする以前の自分には遠かった。
「今はまた違った体になっている。考えたことに体が素早く反応してくれる。1、2年前より感覚の幅が広がっている」
昨年10月のNHK杯、11月のスケートアメリカで連勝し、手応えをつかんだ。指導する長光歌子コーチも「シーズンの終わりには、レベルがもう一つ上がるんじゃないか」と期待を寄せる。
引退の決意を撤回して続行した競技生活も「どこまで続けるか分からない」という。髪を振り乱し、世界一と評されるステップを踏む勇姿はいつまで見られるのか。自らを「ベテラン」と呼ぶ第一人者は、日本選手初の2連覇が懸かる世界選手権に「王者を目指す1人」と挑戦者の気持ちで臨む。