岩波少年文庫の「思い出のマーニー」という本を読んでいます。
スタジオジブリの映画にもなったので、映画を観たことのある人も多いでしょう。
ロンドンに暮らす心を閉ざした少女が養母のもとを離れて、ノーフォークの田舎で夏を過ごし、そこで不思議な体験をするという話(映画では舞台は北海道だった)なのですが、本を読み進めるのがもったいないと思うくらい好きな本にあったのは久しぶりで、毎日数ページづつ読んでは、1日に何度もこの本に出てくるシーンを思い浮かべています。
というのも、この舞台になっているバーナム・オーヴァリーというノーフォーク州の村を私はよく訪れたからです。
ケンブリッジに暮らし始めたばかりの冬、私たちは海が見たくなって車で2時間くらいのノーフォークの海岸を訪れました。
ノーフォーク州は、地平線までなだらかな畑が続くような田舎で、畑の緑色やチョコレート色の土の色がパッチワークのように広がっていて、畑の脇にはポプラがずっと立って並んでいるような風景です。私はこの広々とした土地と空を見るといつも心が安らぐような気がしてノーフォークをドライブするのがとても好きでした。
最初に訪れた時には、霧雨が降り始めたと思ったら途中濃い霧につつまれて、田舎道を走っていたらコブシ大の石を重ねて作られた家々が霧の中から現れました。とても古い家のようです。村中がそんな家で、ついでに塀も同じように石が積まれており、とても不思議なお伽話に出てくるような風景でした。
そして、海岸に出ると冷たくて灰色の湿地帯で、なんとも陰気なのでした。
潮が引いて、ボートがあちこちに倒れるように残されていました。
↑思い出のマーニーに出てくる風車小屋。
そんな陰気で寂しいようなところなのに、なぜか私は心惹かれるものがあって、その後も何度もその辺りを訪れました。
夏の晴れた日には、船遊びをする人たちや観光客も訪れて、その辺りの湿地帯は賑わっていたけれど、それでも
なんだか違う世界にいるような、不思議な寂しさが残っているような土地でした。
本の中にも出てくるのだけれど、シーラベンダーの咲く季節は幻想的でした。
湿地帯が地平線まで薄紫色の靄に包まれたようになるのです。
シーラベンダーは、日本ではスターチスという名前で知られています。サンディエゴでも海辺で咲いているけれど
このノーフォークの海岸のような潮の満ち引きのある湿地帯に群生しているのは見たことがありません。
本の中にこんな文章があります。
ーその日も、静かな、灰色の、真珠のような感じの日でした。風はなく、こんな天気の日には、空と水は一つに溶け合ったように見え、何もかもが、やわらかく、寂しく、夢の中のようにぼんやりしていました。 (途中省く) しめっ地には、むらさき色のもやがかかっていました。シー・ラベンダーが咲き始めているのでした。ー
このシーンでは、アンナという主人公の女の子が世話になっている家のおじさんのために、しめっ地にあっけし草を摘みにきているところです。
あっけし草というのは、私は日本では見たことがなかったのですが、湿地に生える草で、イギリスやフランスではよく食べられているようでした。お店ではシー・アスパラガスという名前で売られていて、茹でてからバターなどで炒めて食べます。
この本の中では、あっけし草の酢漬けがおじさんの大好物なのでした。
アンナが友達になった、しめっ地屋敷のマーニーは、シー・ラベンダーが大好きなのでマーニーが花を摘んで花束を持ってゆく場面もあります。
湿地帯は、広々としていて潮の満ち引きで海になったり、チョロチョロした水の流れる陸になったり姿を変えます。
そんな中に立つ屋敷の少女マーニーと友達になったアンナは、潮が満ちている時にボートに乗ってマーニーを訪れるようになります。
この本を読みながら、自分が子供だった時の気持ちを思い出したり、ノーフォークの海岸の景色を思い出したりして懐かしい気持ちに浸っているところです。







