佐藤初女さんという方がおられた。
初女さんの「森のイスキア」は、心に悩みのある人が訪れるところだった。
彼女の活動というのは、そんな人たちを受け入れて一緒に食事をすることだったという。
特に初女さんのおにぎり。というのは有名で、そのおにぎりを食べて自殺を思いとどまった人もいるくらい感動的に美味しいのだという。
最初は萎れて、お茶も飲めないくらい元気もなかった人が、共に食事をするうちにだんだん元気を取り戻してゆくという、森のイスキアは、そんな場所だったそうだ。
そんな初女さんのお料理には前から興味があったので、今回日本に帰った時に古本屋さんで「初女さんのお料理」という本を見つけた時には嬉しかった。
この本に載っているお料理は、どれもとても普通のものばかり。
茹でとうもろこし。とか、おにぎり。とか、なめこおろし、ポテトサラダなど。
梅干しや味噌の作り方も載っている。使っている調味料はどれもスーパーで手軽に買えるもの(赤穂のあらじおだとか)
お米を炊く時には、その時のお米の状態をよくみてから水の量を決める。とか、おにぎりは米粒を潰さないようにそっと優しく握って、タオルで包んでおくとか、細やかで、まるでその食材の息遣いに耳を澄ませているような、料理の仕方だ。
新鮮な緑の野菜を湯がくと、緑が輝くように美しくなる時がある。そんな時に火を止めて、茎を裂いてみると透き通っている。そんな状態のものをサッと水で冷やして食べると歯応えがあってとても美味しい。
いのちが生かされるように、慈しむように、はぐくむように作る。そうすると必ず美味しくなります。
と、初女さんは書いている。
そして、そういったものを食べるのを「いのちの移しかえ」と呼んでいるそうだ。
それを読んでから、自分が料理する時にも、外で何かを食べる時にも「いのちの移しかえ」という言葉が頭に浮かぶようになった。
庭で出来た真っ赤なトマトを洗って食べるとき、卵を割って玉子焼きを作る時などのシンプルな食事でも
食べきれない椎茸を天日で干して、干し椎茸にするときも、食べ物にちゃんと、向き合って、ありがたい気持ちを持って食べようという気持ちが増したような気がする。