おはよう!マッターホルン!!!
前夜、雨が降ったせいか一段とクリアさを増したような青空。そして、緑の山々。
この日は昼過ぎの電車でツェルマットを発つことになっていたので、午前中はハイキングをする予定を立てた。
2時間ほど山登りをして、ケーブルカーで下山するという、おおらかな計画。
地図なし。山道の標識のみを頼りに歩いた。
9時に出発したものの、ほとんど他に人の姿はない。
時々不安になるものの、まあ天気もいいし、標識もあるしと気にせず歩いた。
前日の街は人でいっぱいだったので、きっと他の人々は登山鉄道やケーブルカーで山の上を目指したのだろう。
街を出るときに、穀物小屋のようなものが目を引いた。スペインで見た高床式の貯蔵庫に似ている。
きっとこの土地の伝統的な作りの貯蔵庫なのだろうなあ。
家々は赤みのある焦茶色の木造で、窓辺には溢れるように花が飾られている。
そして、屋根はこの辺で取れる石なのだろうか。薄い大きな石が屋根材として使われてるのが
とても面白い。屋根の原型という感じがする。
鱗のような模様になって、そこに苔が生えていたりするのも、素敵。
さあ、マッターホルンに向けて歩き出そう。
まるで、ハイジがかけてきそうな風景。きっと高畑勲や宮崎駿はこのあたりのスイスアルプスの村々を歩き回ってスケッチをして、あの「アルプスの少女ハイジ」を作ったのだろうけれど、本当にそのままの景色であることに驚く。
↑歩いていると、時々、こんな木彫りの像があって楽しい。
山を見上げると、ハングライダーをしている人たちが空の上の方に見えた。
彼らが見ている景色は、きっと素晴らしいのだろうなあ。
1時間ほど山道を登り続けると、村が現れた。
こんなに街から離れて不便なところに住んでいる人たちがいるんだと驚いた。
雪が降っても、ここに暮らしているのだろうか。
それとも、冬には山を降りるのだろうか。
家の脇には家庭菜園があって、野菜が育てられていた。
汗びっしょりになって、持ってきた水筒の水もほとんど飲んでしまった。
日陰で少し休憩して、また歩く。
かなり深い谷にかかる橋を渡り、振り返ると先ほどの村がもう遠くに小さく見えた。
村を通り過ぎてから、さらに1時間ほど雄大なアルプスの風景を楽しみながらハイキングを楽しんだ。そして、ケーブルカーの駅にたどり着いた。
結構時間をかけて登ってきたのに、下りるのはあっという間!
このケーブルカー。かなりの傾斜面を下ってゆくので迫力満点だった。
ケーブルカーでツェルマットに着くと、電車の駅の方から歩いてくる観光客が沢山いた。
家族づれや団体の軽装な人たちの中に、かなり本格的な登山の人たちが混じっていた。
気になったのは、寝袋を載せた結構大きなバックパックで歩いてゆく人たちとヘルメットを持った人たちだ。
寝袋の人たちは、山小屋を転々としながらアルプスハイキングをして過ごすのだろうか?
それとも、マッターホルン登頂?
ヘルメットの人たちは、きっと、ロッククライミングをする人たちだろう。
街の教会の隣に、日当たりの良い墓地があった。
墓石に登山道具のピッケルがデザインされているので、近づいて読んでみると山登りで命を落とした人のお墓だった。ニューヨーク出身の17歳。他にも、ウェールズ出身の若者など、この山で事故で亡くなった人々のお墓が並んでいた。
危険を覚悟で、命を賭けて、この山に挑んでいった人たちのことを思った。
この後は、ミラノまで戻り、なんと夜中にはイギリスの自宅に戻っていた。
この週も、毎日本当によく遊んだ。
初めて訪れたミラノでは、ミラノ中央駅の迫力に度肝を抜かれ、翌日は地中海で泳いでジェノヴァの街を堪能し、その次の日には登山電車で登ったスイスアルプスで氷河を見下ろしていた。
そして、この日の朝、マッターホルンを眺めながらハイキングをしていたのに、夜にはイギリスの自宅に帰っているって、なんだかとても精力的に遊んだ感じがする。盛りだくさんのツアーの旅みたい。
翌日、ぐっすり眠って迎えた朝は、小鳥たちの囀りに満ちていて、半分開いた天窓から爽やかな朝の空気が入ってきていた。
窓から外を見ると、目の前の川に白鳥が静かに浮かんでいた。
川向こうのメドウは緑が豊かに広がっていて、2頭の馬がいた。優しい風景だった。
朝起きてマッターホルンが見える景色も素晴らしかったけれど、イギリスのこんな風景も悪くないなあと、まるでまだ旅を続けているかのように、日常の景色が新鮮に見えた。