先週、アンティークショップでチェストを購入した。
アール・デコのデザインで、今まで見たことがないような模様が扉についている。
この模様を見た時に、私は、なんとなく指揮者を思い浮かべた。
タクトを振る指揮者。
なんだか、軽やかな音楽が聞こえてくるような気がしたのだった。
扉を開けると、20センチほどの仕切りで中が分けられている。
靴箱にしたら、良さそうな間隔。
私は、これを書類入れにすることにしたのだけれど、一体この棚は
なんの用途のために作られたものなのだろうと、不思議に思っていた。
夫は、レコード入れだろうか。と言う。
そう、何か、音楽を思わせるものを彼も感じたのだろうか。
2月に訪れたウィーンが妙に思い出されて、ウィーンの街や駅で見かけたアールヌーボーのデザインのディテイルなどが蘇ってくる。
ウィーン。指揮者。
急に、私の中で、閃いた何かがあった。
楽譜?
ミュージックシート。これは、楽譜を入れる棚ではないか?
と、思いつき、急いで検索をしてみたら、ビンゴ!
アンティークのミュージックシートを入れる棚と検索すると、とてもよく似た棚が幾つか見つかった。
そういう用途の棚が作られていた年数は少なく、アンティーク商も、用途を知らずに扱っていることが殆どのようだった。
驚きと嬉しさで、棚を眺める。
重ねられた楽譜。
もしかしたら、楽器も入れられていたのかもしれない。
どんな曲の楽譜が入っていたのだろうか。
アンティークの面白さは、こんなところにもある。
一つの家具が、何かのきっかけで雄弁にその時代のことや作られた背景を教えてくれるところだ。
どんな場所に置かれて、どんな音に囲まれて、どんな人が、この扉を開けたり、閉めたりしていたのだろうか。
私が扉に触れる時、その過去のある瞬間と時間が一瞬重なるような錯覚を覚えるのだった。