今日はお母ちゃんが家にいる。

速く家に戻りたい。
学校は地区外。
バス通学。
今日のバスはいつもより
スピードがおそいぞ。
もどかしい。

やっと停留所。
誰よりも一番に下車。
道路を渡り、
うどん屋脇の
路地を入る。

住まいは
6畳の賃貸アパート。
部屋への入り口ドア
を開けず、
私は、
共同台所へ。
部屋から台所へ
行き来する
吐き出し窓
を開けた。
勢い良く。

お母ちゃん!
....
『あ、...』
声が出なかった。
お母ちゃんは、
悲しそうな、顔を見せた。
そして、その男は、
びっくりした顔で
私に気づき、
次に、目を伏せた。

男は、布団の角を
持ち上げていた。
その布団の中には、
お母ちゃんが横に
なっていた。
下着姿で。

私は走った。
その場から
逃げ出した。
そうしなくては
いけないと
感じたから。

見覚えがある男。
そうだ、市役所の
福祉課。数日前
生活保護を申請に行った時
お母ちゃんと話をした係の男だ。

生活保護は受給
不可だったのに...

私があの時、
あの窓を開けなければ
その後、
生活保護が受給できたのか?

男は部屋から逃げ出した。
お母ちゃんは、
私を探しに、
外へ出てきた。
「マコ、マコ!!」
私の名前を呼んでいる。

アパートの裏、
空き地の塀の
後ろに隠れた
私は、直ぐには
出て行けなかった。

何をお母ちゃんが
言うのか。
私はどんな反応を
すれば良いのか。
困惑していた。

10歳の秋だった
と記憶している。