現在駐車場。15、6歳の頃お母ちゃん、誕生まもない弟と3人で間借りをしていた家の跡地。


「結婚する?」
「どんな人?」
「うんーと年上だよ。」
「年上って、どの位?」
「16歳でも結婚できるんだ。」
「その人、私のこと知ってるの?」
「ん、見た事あるみたいだよ。」
「え、どこで?」
「その人が私と結婚したいって、
誰が言ってきたの?」

今は、思い出せない。
誰がこの結婚の話を持ってきたのか。

「定時制はどうするの?」
「続けたければ、続けてもいいんじゃないの。」
「お金持ちみたいだから、高校卒業しなくとも
働かなくていいんだから・・・。」
「お母ちゃんと一緒に住めるの?」
「それは解らないよ。」

後からわかったことだけど、
お母ちゃんは、すでに、
別れたとばかり思っていた弟の
父親と会っていた。
まもなくしてお母ちゃんは
弟の父親と結婚した。

働かなくて良い。というのは、
16歳の私にとって、魅力的なオファーだ。
中学卒業と同時に昼間正社員で働きだした。
8時半から午後4時半(定時制高校へ行く為早めの退社)
週6日、食料品卸問屋の倉庫で商品の出荷作業をした。
夜は定時制に通う。

仕事はつまらなかった。社内は男ばかりで、
しょっちゅう、体を触られていた。
「いや、やめて。」なんて言えない雰囲気
を少女の私はもう読めていた。
それを言う時は辞職する時だと。
そして、毎日毎日つまらない仕事、でも体力をつかう、
人にも気を使う、そして、勤務時間が長い。

貧乏人はこんな生活を一生続けなくては
生きて行けないの?
16歳の少女はもう社会を見抜いてしまった。

給料は3万円前後。(1972年、昭和47年)
毎月、1万円をお母ちゃんに渡す。
1万円は月賦で買ったカラーテレビの支払い。
(価格12万円、12回払い)
そして、残りが私の小遣いに。
貯金もしたかった。
が、それまで、そんな「大金」
手にした事がなかったので、使いたい。
中学時代の友人にもおごりたい。
すぐなくなってしまうのが常。

そんな訳で。リッチな生活の為に
いやらしい中年男と結婚しても
いいかな、と、ホンの一瞬思った。

数日後、「どうする?会ってみる?」
お母ちゃんは、また、私に聞いた。
「んん、嫌。結婚なんてまだしない。」

16歳の娘が中年男と結婚する話は
それで終わった。
その時は本気で結婚させようと
思っていたお母ちゃんについて、
私は何を感じたのだろう。

今思うと、腹が立つ。本当に。
口減らしのため、郭に娘を売るのと、
同じだ。