あの夜以来、この道を忘れた事がない。
幾度も幾度も夢に出てくる。
それは、それは、長い、先が全く見えない。
どこへ続くのか。目的地はどこなのか。
ただ、ひたすら、まっすぐ、続く道。
下り坂の、不快な道。

13歳の晩秋。生まれて初めての風呂付きの借家に転居直後だった。
夜9時過ぎ、Tが帰宅。お母ちゃんは一緒でなかった。
「お母ちゃん、怒って、途中で車から降りて、駆け出して、いなくなってしまった。」
Tは私が悪い事でもしたかのような口調で彼女が一緒でない理由を告げた。
お母ちゃんが関係をもった男と口論して投げやりな行動をとるのは、これが初めてではなかった。
しかし、その夜は、なんとなく違っていた。
子どもの私は本能的に感じとった。
とうとう、私はおいてきぼりにあい、孤児になってしまう。
いつも、いつも、私はそれを恐れていた。

「お前なんか、私の子ではない。どこでも好きな所へいっちゃいな。」
「橋の下から拾ってきた子なんだから、川へお帰り。」
「お前なんか生まなければよかった。」
私の父の死後。
「やっぱり、私の兄弟に言われた通り、お前を置いて出てくればよかった。」
「孤児院へ行くかい?」
「お前がいるから、遠くへ行って仕事もできない。」
「いい人(男)がいても、結婚もできない。」
「お前が出て行かないのなら、私が出て行く。」
仕事、金、男の事でうまくいかなくなるたび、八つ当たりは私に来た。

私はTの車の助手席。夜の闇の中、この道路はひっそりと浮き出ていた。
車の往来はない。センターラインが、遠くまで見渡せる。人の気配はない。
涙が流れてきた。Tに気づかれたくない。ふけない涙が視界をふさいだ。
お母ちゃん、どこへ行ってしまったの。どこにいるの。
ついにやってきた、その時。私の人生は、これで終わりだ。
私は、本当にそう感じた。