
ケルンコンサートを聞く。一瞬に心はあの西船橋のアパート、西日差し込む窓際のテーブルに座っている。
アルバムリリースは1975年。英樹と私が巡り会ってしまったのが、1976年の夏。当時の彼のレコードコレクションはロックが主流だった。ローリングストーン、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、等々。ジャズ関連のレコードを集めだしたのは、私と知り合ってから。バイトで稼いだお金はレコードコレクションとステレオに消えた。彼がどこでこのケルンコンサートを手に入れたか、どうしても思い出せない。高田馬場駅前のムトウ。ムトウから数メートル先の中古レコード店タイム。お茶の水のディスクユニオン。それらのいずれかだろう。買って来た日。とっても嬉しそうにジャケットからレコードを取り出し、ターンテーブルに置いた。針をそっと落とす時の彼の表情が蘇る。ジッジジ、針のこすれる音。そして、ピアノ音が流れた。教会の鐘が風になびいているような、ピュアなピアノのシングル音のエコー。私の心は高鳴った。今までに聞いた事のない音楽。息をすることも忘れて、聞き入った。
それから、幾度も幾度も聞いたケルンコンサート。あの部屋のターンテーブルで。時には、面倒くさいサイフォンでコーヒーを入れて、当時は珍しかったチーズケーキなんぞも食べた。二人の時間、二人で暮らしたあの生活が、本当に楽しかった。このまま時間が止まってしまえ。いつもいつも思っていた。あれから35年。
今でも、彼はケルンコンサートを聞くことがあるのだろうか。レコードまだ持っているのだろうか。そして、何を思うのだろうか。