前回記事『銀河英雄伝説』登場人物評の続きです。

6位~15位まで一気にいきたいと思います。

 

 

<第6位>ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ

 

通称ヒルダ。銀英伝は女性に強烈なキャラがいない印象です。みんなステレオタイプの範囲内。ヒルダもその例外ではありません。田中作品に結構多いタイプの美人で気が強くて、でも一歩引いた位置で主人公をしっかりサポートする女性。

 

深層の令嬢で超絶高嶺の花(大貴族のお嬢様)なはずの女性ですが、ラインハルトの姉アンネローゼとの比較と美女というより少年のようなイメージが重なり、なぜか親しみやすい感じがしてしまうのが魅力でしょうか。

 

ヒルダの本当の価値は、本編最終巻10巻後の宇宙の最高権力者であるという点でしょう。実は真の最終勝利者。普通に考えれば、息子が成人するまでの最低15年から20年は摂政もしくは女帝として絶大な権勢を誇ったと想像できます。

 

銀英伝ファンとしては、アフターストーリーを妄想する上で重要な人物ですね。

 

 

<第7位>パウル・フォン・オーベルシュタイン

 

武人タイプの人材が多いラインハルト陣営において一際異彩を放つ策謀家タイプの人物。案の定、同僚たちに嫌悪されるも、ある意味いじめられっ子役を意図的に買って組織をまとめている印象があります。憎まれ役ってやつですね。

 

皇帝ラインハルトの下で軍務尚書(防衛大臣みたいな役職)を務める人物だけに軍官僚としては同盟のキャゼルヌに匹敵する人類トップクラスの能力でしょう。1人を犠牲にして10人を倒すような策を平然と提案し、しかもその1人の役割を自身が担う事も厭わない。冷徹かつ徹底した合理主義者。マキャベリストともいえるかな。

 

感情の存在を疑うほど無機質な印象の人物だが、自身の先天的な視覚障害(両目とも義眼)から劣悪遺伝子排除法なる悪法を施行した王朝や貴族社会をどうやら嫌悪しているらしい。

 

一方、老衰した愛犬の世話を死の間際に執事に指示したり、ラインハルトの身代わりになって死ぬなど、根はいいヤツなのではと想像させてくれます。冷徹な策謀家イメージと良い人エピソードのギャップが彼の魅力ですね。

 

 

<第8位>オリビエ・ポプラン

 

同盟軍の戦闘機パイロットの大エースにして、色恋沙汰の大エースでもあります。落した戦闘機と女性の数はどちらが多いか?という冗談を自身で吹聴するようなチャラ男。

 

余りに対照的な同僚のエース、イワン・コーネフとユリアンとの絡みはヤンとキャゼルヌの絡みに匹敵するヤン艦隊の風物詩ですね。アッテンボローやシェーンコップが絡むとこれまた面白いんだよなあ。

 

ポプランはふざけたヤロウですが妙に憎めない愛嬌がありますね。いつもニコニコ、戦争すら楽しんでいるような超前向きの楽観主義者ですが、ヤン・ウェンリーの死の直後、大量の酒と共に自室に籠ってしまうほど落ち込んだのが印象的でした。

 

銀英伝のキャラクターは基本イメージとは違うエピソードがある所がいいですね。

 

 

<第9位>ウォルフガング・ミッターマイヤー

 

疾風ウォルフの異名を持つ、ラインハルト陣営最高の艦隊司令官です。銀英伝キャラ全体でもヤン、ラインハルト、キルヒアイスに次ぐ実力者でしょう。

 

ロイエンタールは純粋な個の能力的にはミッターマイヤーを上回りますが、人望の差で総合的には若干ミッターマイヤーが上回る印象です。

 

ミッターマイヤーは正統派の善玉キャラクター。公明正大で勇敢で愛妻家で熱血漢。悪く言ってしまえば、面白みの少ない人物なのですが、この辺は周囲の人間との相対化で、不思議なことにミッターマイヤーの魅力が際立つんですよね。

 

親友ロイエンタールはクールな貴公子で漁色家。同僚のオーベルシュタインは冷徹な策謀家。作者の田中芳樹氏はイメージギャップやキャラ間の関係性でキャラクターを際立たせるのがホントうまい。

 

ミッターマイヤーは銀英伝のラストシーンを飾る人物なんだよな。ヒルダと生まれたばかりのラインハルトの息子アレクサンドル・ジークフリードをチョイスしないあたりが憎い。

 

ロイエンタールの息子にしてミッターマイヤーの養子であるフェリックスの成長後の物語を読者にイメージさせることに成功してますね。銀英伝の続編を作者が書くとすれば、フェリックスが主人公だろうなあ。

 

きっと皇太子アレクとフェリックスはラインハルトとキルヒアイスのような関係になるのでしょう。まあそれだと平和な未来しか想像できないので、逆に敵対関係になる路線で妄想するのもありかw

 

 

<第10位>オスカー・フォン・ロイエンタール

 

ミッタマイヤーの親友にして帝国の双璧の一角です。北方謙三氏の歴史小説に出てきそうなタイプの艦隊司令官。超有能なんだけど、かなり歪んだところがあります。

 

左右の目の色が違うことで、母親は不倫が発覚することを恐れ、ロイエンタールの目をナイフで潰そうとした過去が語られていましたね。それは未遂に終わるも親の愛情が全くない環境で育ったことはロイエンタールの心に深刻な影を落としている。

 

母親の影響で女性など全く信用していないのに、女性の愛情を求めるかのような行動を繰り返すところが歪んでいます。

 

おそらくは母親と父親への嫌悪から自身が貴族であるにも関わらず貴族社会を憎悪している。そして、平民の親友ミッターマイヤーとの付き合いを通じ、貴族社会への憎悪は理屈としても破壊すべき社会システムであると確信したのでしょう。それがラインハルトに協力する動機のひとつ。

 

動機は上記も含め3つあり、2つ目の動機は親友ミッタマイヤーを大貴族から救出してくれた見返り。最も大きい動機である3つ目は、ラインハルトは自分を超える傑物と心から認めたから。自分(ロイエンタール)は貴族社会を憎悪するも貴族社会を打倒しようとまでは考えなかった。

 

そこに自分の小ささとラインハルトの大きさを心から認めてしまった。貴族でありながら貴族を憎むという同類でありながら、目指している到達点が余りにも違う。

 

でも本質的にロイエンタールは猛禽類(人になつかないタイプ)であり、飼い慣らされる人間ではない。心の片隅にラインハルトを認めてしまった自分を許せない気持ちが存在する。

 

ロイエンタールはラインハルトと同類の人間であるがゆえにラインハルトの歪みも理解していた。怒りの炎を原動力に闘い続けてきた者は、倒すべき敵を焼き尽くした後、自分自身を焼き尽くすしかないと。剣に生きた者は剣に斃れるのが宿命と。

 

主君への深い敬愛と猛禽類の心が絡む歪んだ愛情。

 

倒すべき敵が消えさりかつての輝きを失いつつあるマインカイザー(わが皇帝)。ならば心から敬愛する主のために自分が敵として立ち塞がろう。仮に自分が勝つようならば、それまでの人物だったということ。ラインハルトが勝つならば自分は正しかった、自分の主にふさわしかったということ。

 

ロイエンタールは積極的に弁明すれば避けられた破局をあえて避けず、流れに身を任せました。結果的に、君側の奸を取り除くことを大義名分とするも、ラインハルトに対する謀反へと事態は発展する。

 

しかし、ラインハルトとの直接対決は実現せず、無二の親友ミッタマイヤーと戦うことになり敗死する。ミッターマイヤーはラインハルトへの忠誠が揺らぐことを恐れ。自らの手を汚すことを選んだのでした。

 

女性に対しても主君に対しても親友に対しても不器用極まりない愛情しか表現できないところがロイエンタールの魅力。

 

 

<第11位>ダスティ・アッテンボロー

 

ヤン艦隊の実質副司令官。ラインハルト配下の名将たちには一歩及ばないが近い実力を持つ有能な艦隊指揮官。立案する作戦がいちいちゲリラ戦ぽいので正統派指揮官の印象は皆無です。

 

人柄を端的に表すなら、学生運動のリーダーが何かの手違いで高級軍人になってしまったかのような人物。永遠の反抗期の少年って感じ。ジャーナリストが本来の志望で、権力とか権力者がとにかく嫌いそうです。

 

軍人のくせに左翼思想の人物といえるかな。「国家への奉仕」なんて言葉を聞くと心底嫌そうな顔するだろうなと想像できます。

 

根は正義感が物凄く強い熱血漢なのだが「伊達と酔狂でやっているんだと」ついつい不良少年ぽい言動をしてしまう。良く言えば、ハリウッドアクション映画のヒーロー的な性格の人物とも言える。

 

ヤン艦隊の面子で一人友達にするならアッテンボローが個人的には第一候補ですね。ちなみに上司にするならヤンでしょうね。気が楽。あ、でもヤンはムライみたいなお目付け役を採用するだろうからそんなに気が楽にならないかも。

 

そのムライには「飲酒の楽しみは禁酒を破ることにある」などと別れ際に言い、大きな悪は絶対許さないくせに、小さな悪は自ら喜んで実践しようとする、まあホント、偽悪主義の善人ですね。

 

本人いわく最強の決め台詞「それがどうした!」であらゆる口論をたった一言でケンカに変えてしまう大変迷惑な人物。

 

 

<第12位>アレクサンドル・ビュコック

 

自由惑星同盟軍最後の宇宙艦隊司令長官。同盟崩壊の危機的状況下とはいえ士官学校を出ていない一兵卒から統合作戦本部長に次ぐ同盟軍のナンバー2まで出世した苦労人。老害という言葉から対極に位置する老将。

 

「ヤン・ウェンリーも、あなたの友人にはなれるが、やはり臣下にはなれん。他人事だが保証してもよいくらいさ。

なぜなら、偉そうに言わせてもらえば、民主主義とは対等の友人を作る思想であって、主従をつくる思想ではないからだ。

わしは良い友人がほしいし、誰かにとって良い友人でありたいと思う。だが、良い主君も良い臣下も持ちたいとは思わない。」

 

このラインハルトに向けた最後のセリフがいいんだよなあ。キルヒアイスを失ったラインハルトの心の傷をえぐる言葉にもなっているし、人生哲学のような非常に深い言葉でもある。

 

ヤン艦隊の面子も敬意をこめて「ビュコックの爺さん」「同盟なんぞにはもったいない」と口を揃える。

 

 

<第13位>ワルター・フォン・シェーンコップ

 

同盟軍最強の白兵戦部隊である「薔薇の騎士(ローゼンリッター)」連隊の2代目?連隊長。個人的武勇ではおそらく作中最強でしょう。オフレッサーという化物もいましたが、機転や知力の差でシェーンコップが凌駕するのではと考えています。

 

ポプラン、ロイエンタールと共に銀英伝三大女好きキャラに名を連ねる一人で、ヤン艦隊の不良集団イメージをほぼ一人で築き上げている猛者。

 

もともとは帝国貴族で同盟に亡命してきたらしいが、貴族っぽい印象はほぼ皆無でなんか達観の境地に達しているかのような人物。色んな意味で経験豊富で男も女も惚れる男って感じのキャラですね。

 

隠し子(本人は隠してなどいないと主張するだろうが)カーテローゼ(カリン)の登場で少しは狼狽する様子を見せれば可愛げがあるのに全く悪びれない。

 

それどころか「父親としての責任を問いたいなら堂々と言えばよい」とカリンに皮肉を言ってしまえる余裕。年頃の女の子の複雑な心情などお構いなし。ポプランに対しても余裕たっぷりに「俺の娘だからといって甘やかさないでくれ」だもんなあ。

 

圧迫面接をごく自然体に行える人物なんでしょう。何しろ肉体的暴力は人類トップクラス。その威圧感だけでも相手は委縮する。そこにユーモアの衣を被った毒舌やキツめの言葉を相手に投げかけ、その反応を見て相手の器を一瞬にして見抜く。良く言えば物凄い人物鑑定眼の持ち主。

 

ラインハルトやロイエンタールほどではないにせよ、平和と言う言葉全然似あわない男なので、古の猛将みたいな死に様はシェーンコップに相応しい最後だった気がします。本人が冗談で言っていた、孫やひ孫に迷惑がられるヨボヨボの爺さんの姿など想像したくないですねw

 

 

<第14位>フレデリカ・グリーンヒル

 

ヤン・ウェンリーの副官にして妻。主席秘書官みたいな立場かな。決まったルールに基づく事務処理能力はキャゼルヌに匹敵し、記憶力に優れ士官学校をたしか次席卒業の才女です。ヤンのプライベートな世話係をユリアンとすると、フレデリカは公的な(仕事上の)世話係。

 

「ヤン提督最大の奇跡はグリーンヒル大尉のハートを射止めたことだ」とポプランにそう評されるのも納得の理想的な嫁さん候補になれる女性。まあ、飯マズを我慢すればですが・・・。

 

そしてユリアンと同じく熱狂的ヤン信者過激派でもあります。藤竜版銀英伝では腐女子風に描かれているのが微笑ましい。

 

14歳の頃に惑星エル・ファシル脱出作戦で民間人として若きヤンと出会う。その作戦準備中の多忙なヤンにコーヒーとサンドイッチをご馳走するという出会い以来、一途にヤンを想い続け、士官学校に入学し軍人の道を選択。父親が高級軍人だけど実は夢見る乙女的な動機で人生選択をした。

 

その想いと長年の努力は報われ、第13艦隊(ヤン艦隊)結成時のヤン司令官の副官として採用される。フレデリカの立場で考えるなら、この人事が決まった時は人生で最も幸福な瞬間の一つだっただろうなと妄想できます。

 

藤竜版のフレデリカはヤン提督のファンサイトを運営してますが、まさか運営者自身が副官になるなど大炎上しちゃったのではと心配になります。同盟首都ハイネセン陥落後は帝国の検閲でサイトは閉鎖されるのだろうか?ヤン提督のファンサイトがどうなるかは藤竜版のささやかな楽しみです。

 

フレデリカはごく単純な田中氏のキャラクターメイク理論に当てはまる99点とか98点を狙ったキャラですね。美人で有能で性格も良い。だけど料理が超絶下手くそという漫画世界の欠点を持つ女性。次席卒業で超絶記憶力で料理下手って・・・。味覚障害か?

 

家事の能力でいうと相関関係はこんな感じかな。

 

神オルタンス・キャゼルヌ>(超えられない壁)>達人ユリアン>(超えられない壁)

>ひよっ子フレデリカ>(超えられない壁)>人類最低ヤン

 

こんな感じでしょうか。

 

軍務では人類最高クラスのヤン夫妻ですが、家事では人類最低クラスですw

 

それにしてもヤン家とキャゼルヌ家の絡みはホント最高だなあ。第6巻くらいの雌伏期間がフレデリカの人生で一番幸福だったのかもしれません。

 

 

<第15位>カーテローゼ・クロイツェル

 

シェーンコップの娘にしてユリアンの恋人。通称カリン。ポプランの表現を借りるならシェーンコップが「種を蒔いて実らせるヘマ」の結果生まれた女の子。

 

自分(カリン)はシェーンコップの一夜のお遊びの結果生まれた子である事実と母親への愛情と葛藤で悩んでおり、その辺の話題はカリンにとって地雷原。当初はシェーンコップと良好な関係を築いているユリアンに嫉妬心にも似た複雑な感情を抱きます。

 

カリン主観では男として父親として最低最悪な人間と仲良く付き合っているユリアンがとにかく気に食わない。一方深層心理では父親の愛情を欲しているのに葛藤が原因で中々素直になれない。だから父親と良好な関係のユリアンを会話すると腹が立ってしまう。

 

カリンは第三者の視点でみればツンデレタイプのめちゃくちゃ可愛い女の子なんだよなあ。ユリアンの視点でみれば「何だこの女、なんで僕に絡むんだ」って感じでしょうけどね。

 

ユリアンは根が素直で真面目だからカリンがシェーンコップを非難すると、世話になっている手前、真剣にシェーンコップを擁護してしまう。それが火に油を注ぐ。一方、ポプランは「17年分の小遣いをせびってやれ」と独特の表現で父娘関係修復のサポートをする。

 

この辺は矛盾する感情が同居する女性心理を良く知るポプランの年の功って感じですかね。でも若者ゆえの素直じゃない女の子と素直すぎる男の子の恋愛は中々の萌えポイントです。

 

ヤンのユリアンに対する冗談「正直、キャゼルヌの娘とシェーンコップの娘、どちらが好みなんだ」とそれに対するフレデリカ冗談「いずれにせよヤン家には素敵な親戚が増えますね」はファンとしてたまらない会話です。

 

銀英伝はこういうわずかな会話からファンが色んな妄想できるところが素晴らしいんですよね。

 

 

<まとめ>

 

いやあ、思ったより色々書けましたね。でもそのせいか、帝国軍の名将たちが意外にもランクキング圏外でした。本来10位までのところを15位まで拡大したのに。

 

ファーレンハイト、ビッテンフェルト、ケスラー、ルッツ、ミュラー、ワーレンとかかなり魅力的なんだけどなあ。でも15位までと較べると親近感が一歩及ばずといった所ですね。それに個人的に同盟好きってのもあります。

 

ネット上で発表されている銀英伝の二次創作小説(SS)はとんでもない数がありますが、二次創作したくなる気持ち分かりますね。色々と妄想(失礼)をかき立てる魅力が銀英伝にはあります。

 

『銀河英雄伝説』は素人玄人問わず独自視点や解釈で作品化したくなる、もはや古典作品のような地位の作品だなあ、そう思いました。