初めて訪れたのは、料理の世界に入って、一年程たった今頃。
La Napoule はフランス、ニース近くの街の名である。

でも、僕が訪れたのはもちろんフランスではなく、
日本の神奈川県小田原にある小さなレストラン。
早川漁港というローカルな船着き場の前に店はあった。

小奇麗な4~5階程のマンションの一階にメニューボードを
出す事もなく、店はひっそりと呼吸していた。

名前はちょくちょく雑誌などから目にしていたのだが、
いかんせん神奈川の外れ、箱根に程近い立地に足を運ぶのには
それ相応の決意が必要だった。

たまたま得た2日間の休みを利用して、
友人と伊豆の温泉に行った帰り道、
せっかくの機会だからと立ち寄ることとなる。

実は今、そのレストランはない。
名を変え、東京青山に場を移し、
それこそ、東京を代表する店として名を馳せている。
客数と同数のスタッフを配し、
あの時代の料理、サービスとは比べ物にならない精度、
充実度を見せていることだと思う。

でも、自分の心の中に強く焼き付いたのは、当時の
レストランの姿。

ネット上で写真を探したのだが、見つけることができなかった。
開け放った窓から真っ白な空間に注ぎ込む柔らかな光、
爽やかに流れる潮風....

立席した時に覗いた厨房のサービス風景。

これが、本物か!!
混乱を極めていた自分の務めていたレストランのサービス風景とは
次元の異なる静けさ、秩序。

あの淡々とした流れの中から産み出された
瑞々しく、生命力溢れる料理の数々。

自分の料理人としての歴史はまだ浅い。

今やっとヨーロッパから帰国して小田原に彼が店を開いた時と同じ経験年数だ。

どこまで上ったのだろう?

まだ足下にも及んでいない。

表面的な皿の上の形ではなくて、
その下に流れる精神世界。

いや、精神世界が異なれば、
皿の上に現れる形も異なる。

ジレンマ、苛立ち、焦り....

La Napole、

追いかけても、今は幻
一生追いつく事はない。


サヴァラン


*ラナプール時代の至福のデザート「白桃のサヴァラン」を自分流に。
 去年よりも更に上へ。白桃の季節スタート