尾池和夫の記録(431)俳人協会 関西俳句講座「季語を食べる」テキスト
関西俳句講座「季語を食べる」
2025年9月25日(木曜日)14:30―
大阪市 エルおおさか
俳人協会名誉会員・氷室俳句会主宰 尾池和夫
(一)俳句の基本
小澤 實「季語と季題 本意と本情」 俳句文学館二〇二五年二月五日
季題は俳句を発想させる特定の季節の言葉
季語は俳句に用いられる特定の季節に関わる言葉
名の草かる、名の木枯る
季題にはあるが、決してそのままでは季語としては使わない語
本意がなければ俳句は成り立たない。
本情とは本意を作者の実景と対した際の実感で新たに捉えなおす。
秀句とは本意の上に作者による本情が確かに加味されたもの
本意に含まれていることを書くのが説明
本意に含まれていないことを書くのが表現
自分の生きている現場からいかに本情を見つけ出して加味していくか。
私の「三現則」論を思い出している。
尾池和夫の三現則 「現在の現象を現場で詠む」
(二)正岡子規
正岡子規(一八六七年一〇月一四日(慶応三年九月一七日)- 一九〇二(明治三五)年九月一九日)
一八九五(明治二八)年四月:日清戦争に記者として従軍、その帰路に喀血→子規
行かばわれ筆の花散る處まで
亡き人のむくろを隠せ春の草
病状が回復して東京に戻る途中、立ち寄った奈良(下宿、東大寺の鐘?)で、
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
同時に、
渋柿やあら壁つゞく奈良の町
渋柿や古寺多き奈良の町
柿落ちて 犬吠ゆる奈良の 横町かな
奈良の宿御所柿くへば 鹿が鳴く
全国果樹研究連合会によって、一〇月二六日は「柿の日」に制定された。
その後、見舞いの柿を食べ過ぎて医師に禁止され、
柿くはぬ病に柿をもらひけり
我好の柿をくはれぬ病哉
胃を病んで柿をくはれぬいさめ哉
側に柿くふ人を恨みけり
夏目漱石『三四郎』
「子規は果物がたいへん好きだった。かついくらでも食える男だった。ある時大きな樽柿を十六食ったことがある。それでなんともなかった。自分などはとても子規のまねはできない。
…三四郎は笑って聞いていた。」
(三)第六四回俳人協会賞 谷口智行『海山』
大根が一番うまし牡丹鍋 右城暮石
星仰ぐ皆猪食ひし息吐きて 茨木和生
大もめにもめ猪の肉分け合ふ 谷口智行
初電話天麩羅揚ぐる音聞こゆ
旧友の女こくこくマッコリ飲む
蛍とぶ夜川に米を研ぎゐたり
盆肴とて猪肉を解凍す
もんぺ干しゐたるとみれば鱓なる
贅とせりゐのししの舌切り取りて
ズブロッカにて残肴の田作食ぶ
血の道によろしち寒の鹿食はす
ゆりおこすやうに摘みたる蕗のたう
匙で海胆刮ぎ洗面器に浮かす
鰹来る暮石和生の見し沖に
白紙忌の海に麦藁蛸を釣る
アロハ着て醤油密造してゐたる
鯔と蛸ひと日をかけて釣りたるは
ブランデーかけ氷結のいちじく食ふ
身ほとりに海ある暮し菊膾
遺品なり猪肉詰めし冷蔵庫
鋳つぶせり撃ちたる猪の弾抜いて
串本へひみつのところてん買ひに
泡盛を持ち込みひとの家で酌む
西瓜畑のどかに十四歳のぼく
母病めば爛れ無花果捥ぎにゆく
このくらゐの日差がよろし桑いちご
白玉を食うてねむたきときねむる
ほのぼのと引きとめられて茄子買ふ
かんぱちを少しく焦がし新酒酌む
セロリ棒貸してごらんと齧らるる
(四)猪と鯨
「運河」二〇二五年八月号 特集暮石 「やはり猪」尾池和夫
大根が一番うまし牡丹鍋
右城暮石さんは一八九九年、高知県長岡郡本山町字古田小字暮石(くれいし)の出身です。一九九〇年、「運河」主宰を茨木和生さんに渡して、一九九二年四月、九二歳で高知県の生地に帰郷されました。私は本山の少し東、高知県香美郡在所村の第三小学校に入学しました。高知の中山間地で育ったときの一番の記憶が猪の鍋でした。祖父が猪の特徴を説明しながら丁寧に大根と煮込んでくれました。その大根がとても美味しい私の味の記憶となり、俳句では食べて味を詠むのが大切と思いつつ「季語を食べる」を出版しました。
猪、瓜坊、薬喰、紅葉鍋、牡丹鍋、猪鍋、山鯨の季語
縄文時代より、猪を日本人は食べてきた。猪は縄文時代早期から存在し、家畜化も稀にあったと考えられている。前期の富山市小竹貝塚・蜆ヶ森貝塚からは猪の骨が出土している。また、小竹貝塚からは瓜坊の土製品が、開ヶ丘狐谷Ⅲ遺跡(縄文時代中期)では猪の体全体を表現した縄文土器が出土している。縄文人は、猪を焼いて食べた。日本の急流の文化。
猪もともに吹るゝ野分かな 芭蕉
猪の露折りかけてをみなへし 蕪村
あの山の向うの山の猪猟師 宇多喜代子
猪鍋や猪を射とめし武勇伝 尾池和夫
炭ついでより猪撃の猪自慢
捕鯨、勇魚取、捕鯨船、鯨、勇魚、晒鯨(三夏)、皮鯨、塩鯨
日本では捕鯨と鯨食文化は長年にわたる大切な文化である。古代の捕鯨は、湾内に紛れ込んで動けなくなった鯨を捕っていたが、弥生時代以降、生活を安定させるため捕鯨へと移行した。船をこぎだして銛で突く「突き取り式捕鯨」が生まれ、江戸時代には和歌山県で日本最初の捕鯨船業組織「鯨組(くじらぐみ)」が創設された。土佐では山内一豊が尾張から人を呼んで室戸に「尾池組」ができた。
水無月や鯛はあれども塩鯨 芭蕉
十六夜や鯨来初めし熊野浦 蕪村
鯨煮る雪間の根深引き抜かれ 小林康治
鯨屋の話におよぶ水菜かな 尾池和夫
はひらませあがらませとて鯨汁
(五)第五九回「蛇笏賞」三村純也『高天(たかま)』公益財団法人角川文化振興財団
こぐらがる鱧をほどきて糶り始む
間引菜といふトリアージされしもの
仏前に転がしてある西瓜かな
海豚の鰭干しあり支度中とあり
立つはずもなき立春の卵割る
うどん打ち蛸をぶつ切り半夏生
食ふうちに笑ひ出したるきのこ鍋
鴨鍋や湖賊の話聞きながら
方丈の雪隠にまで鏡餅
賄ひの殻の割れゐる蜆汁
鴨を見てきて鴨なんば食ひにけり
初荷出し終へてふたたび小酒盛
大盃にぴたりと注がれ新走り
銘柄の酒選ることも年用意
古茶淹れて蟄居に似たる身なりけり
母の日の妻へワインを選びけり
「山茶花」八月号の「受贈誌主宰・代表の一句」(純也抄)では、
一番茶摘みたる畑のうねりかな 尾池和夫「氷室」
ももいろの子豚押し合ふ立夏かな 山尾玉藻「火星」
置屋バーてふを訪ひたり春の宵 森田純一郎「かつらぎ」
造船所跡の床几に鹿尾菜干す 谷口智行「運河」 鹿尾菜 ひぢき
新茶汲む唐子の跳ぬる伊万里焼 朝妻 力「雲の峰」
若布干す砂に雫の穴あまた 南 うみを「風土」
(六)草間時彦『食べもの俳句館』角川書店 一九九一年
日本の「食」を味わい尽くすグルメ歳時記
一月
屠蘇 雑煮 七色唐辛子 初厨 鯖の味噌煮 みぞれ酒 らあめん 白菜鍋 鍋蓋 鯛、おこぜ
海鼠腸 からすみ 鮎の臓 蒸鮨
屠蘇重し軽き朱金の酒杯に 日野草城
三ヶ日過ぎたる鯖の味噌煮かな 草間時彦
二月
雑炊 夜鷹蕎麦 葱 鮟鱇 主婦の座 牛鍋 鰈 ハンバーガー 年の豆 ばか、はしら、かき、
はまぐり ティーポット 肉じゃが とろゝ汁
牛鍋や妻子の後のわれ独り 石田波郷
年の豆嚙みつつアガサクリスティ 草間時彦
三月
菎蒻のさしみ 白酒 椿餅 嫁菜飯花うぐひ 汐干 桜鯛 あら煮 芹 菜種漬 豆腐屋
菎蒻のさしみもすこし梅の花 芭蕉
妻在らず盗むに似たる椿餅 石田波郷
四月
初諸子 鯡 セロリ 朝粥 蕗・そらまめ ゆで玉子 卵 草の餅 鰆 鱚
さゞ波や古き都の初諸子 内藤鳴雪
庭先に廻りてひとつ草の餅 草間時彦
五月
皿鉢 水割り 鮓 てんぷら蕎麦 酒のあと 新茶 めばる 魚やく 摘草 草摘 若布 夏蜜柑
初鰹 苺 初なすび 筍飯
主客豪酒春燈の下皿鉢あり 松本たかし
春すでにてんぷら蕎麦を待つ間かな 草間時彦
六月
泥鰌鍋 莫迦貝、新生姜 ビアホール 水羊羹 ひとよ酒 飛魚 麦烏賊
泥鰌鍋のれんも白に替りけり 大野林火
一杯屋下物(さかな)莫迦貝と新生姜 石塚友二
七月
冷奴 鮒ずし 朝餉 冷酒 水飯 土用鰻 鱧 鱧の皮 瓜盗人 葛 ざくら ゼリースープ
冷汁 又の飯 食前酒 戻り鰹 氷水
冷奴隣に灯先んじて 石田波郷
大粒の雨が来さうよ鱧の皮 草間時彦
汐すでに戻り鰹となりていし 草間時彦
玉三郎嫌ひが一人氷水 草間時彦
八月
伽羅蕗 種胡瓜 胡瓜もみ 新牛蒡 青柚 西瓜 ところてん 苦瓜 冷奴 豆腐驚く唐辛子 鰯
南瓜 夕がほ汁 鰈
風呂敷のうすくて西瓜まんまるし 右城暮石
苦瓜を嚙んで火山灰降る夜なりけり 草間時彦
九月
栗羊羹 膾 洗ひ鱸 秋刀魚 黒葡萄 月見団子 オ萩 南瓜煮 落鮎 松茸飯
いまもつて南瓜は嫌ひ敗戦日 佐藤比呂志
亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄 川端茅舎
十月
豆腐ぐし 雑煮椀 今年酒 菊の酒 米くるゝ友 鯉料理 菌山 焼むすび 芋煮会 飯を喰ふ
茶碗蒸 熟柿 栗 蕎麦まんぢゅう 鮭捕り 松茸飯
降りつのる雨月の佐久の鯉料理 本井 英
手土産の蕎麦まんぢゆうの秋日和 草間時彦
十一月
精進揚 初鮭 小蕪 柚子買 焼藷 空也蒸 きりたんぽ 干菜 カリフラワー 十夜粥
ずゐき干す
藷焼けてゐる藁の火の美しく 高浜虚子
ごまよごし時雨るゝ箸になじみけり 久保田万太郎
十二月
賑はしき匂ひ 煮凝 生姜湯 茶碗 酒 蕪蒸 オムレツ 大根焚 飯 櫃入 風呂吹 オタタ
山の薯 蕎麦 餠つき おせち作り スープ 晦日蕎麦
世に生きて器好みや蕪蒸 鈴鹿野風呂
スープ煮る腰高鍋の去年今年 草間時彦
食べもの俳句一覧
あとがき
「小食なので食べられない。その欲求不満が俳句になり、文章に・・・」
(七)草間時彦の句
蓮牛蒡噛めばたやすくしぐるるよ
壬生狂言太き饂飩を食うべ来て
きびなごの身の透く寒や旅の箸
牡丹鍋よごれし湯気をあげにけり
飛竜頭のなかのぎんなん冬ごもり
白妙の湯気の釜揚げうどんかな
葛切やすこし剰りし旅の刻
水割に始まる年酒宥されよ
月曜は銀座で飲む日おぼろかな
おほぶりのひでひら椀の三が日
顔見世や百合根ふつくらお弁当
どぜう屋に席を見付けし祭かな
牡蠣食べてわが世の残り時間かな
老の春なにか食べたくうろうろす
ぼけかけし夫婦に茄子のこむらさき
秋刀魚焼く死ぬのがこはい日なりけり
年よりが白湯を所望やお正月
立ち食ひの蕎麦の湯気より死者の声
(八)尾池和夫『季語を食べる』淡交社 二〇二四年
序文
この本の原稿を読んで貴重な助言を葉子から多くもらった。
たれとなく雨に気づきぬ蕪蒸 尾池葉子
この本を読んでくださった方が、実際に飲み食いしてみたいと思っていただくとうれしい。料理や栄養の専門家から見ると、至らない内容が多いと思う。高橋保世さんの写真が百聞は一見にしかずを実行するために威力を発揮している。彼女も料理は味わいながら撮影する。また、撮影した草は食べて味を確認する。
明日からは粗食といふや河豚の鍋 尾池和夫
雑食のサル目ヒト科冬近し 尾池和夫
奪ひ合ひ象大根を食べ尽くす 尾池和夫
Ⅰ 季語を食べる
春 梅 虎杖 韮 野蒜 蕨狩 アスパラガス 桜餅 浅蜊 菫 蓬 鱒
梅見酒をんなも酔うてしまひけり 大石悦子
野蒜つむ擬宝珠つむたゞ生きむため 加藤楸邨
雲まぶしアスパラガスの藪に花 矢島渚男
余震止むアスパラガスに雌と雄 尾池和夫
夏 苺 篠の子 楊梅 瓜 昆布 茄子 山法師の花 鮎 鰻 鮧 蟹 鯖 章魚
パパイヤイヤ 祭 マンゴー 仙人掌の花
篠の子のただ一鍬に掘られけり 藤田あけ烏
影すらも本土の見えず昆布干す 森田 峠
昆布干す橄欖岩の砕石に 尾池和夫
旅了る鯖のへしこをぶら下げて 飯島晴子
秋 南瓜 新大豆 防災の日 桃 太刀魚 柿 茸 金柑 秋刀魚 椎の実 新蕎麦
新豆腐 落花生 芋 枝豆 菊 鮭 虫
長考を要する南瓜ばかりなる 櫂未知子
ひたすらに桃たべてゐる巫女と稚児 飯田龍太
太刀魚の曲り曲りて長々し 岩田由美
干柿の種のあはれを舌の上 片山由美子
冬と新年 蒟蒻掘る 寒卵 牡蠣 切干 鮫 炭 大根 鰰 蜜柑 焼藷
喰積 餅搗
広島や市電に牡蠣の桶持ちて 星野立子
味噌たれてくる大根の厚みかな 辻 桃子
耳打ちはこの鰰の一尾の値 宇多喜代子
焼藷や古新聞に吾の顔 尾池和夫
Ⅱ 季語を飲む
牧開 雪解 春の水 甘酒 清水 焼酎 麦酒 ラムネ 高黍
新酒 ホットドリンクス
春の水ふきあげられてちりぢりに 夏井いつき
甘酒や美濃の山越なかなかに 小川軽舟
断層地形ジョッキで指してビアガーデン 尾池和夫
水割りの水にミモザの花雫 草間時彦
Ⅲ 健康と生命維持 薬膳×発酵×救荒食物
枸杞 蒜 山葵 黴 桑の実 蘇鉄の花 トマト 泥鰌鍋 夏桑 茉莉花
鬱金の花 石榴 曼珠沙華 茘枝 無花果 銀杏 団栗 唐辛子 アロエの花
薬喰 鯨 納豆 味噌搗 七種
船籍の旗鹹し花蘇鉄 正木ゆう子
さみどりの直き茎よし曼珠沙華 石田波郷
苦瓜を炒むる音のすぐ止みぬ 山尾玉藻
鯨汁のれんが割れて空青き 岸本尚毅
Ⅳ 稲と米の四季 地球の恵みを科学する
耕 霾 水喧嘩 虫送り 籾 新米 稲妻
霾や寺の瓦當の雲気文 尾池和夫
顔に日をあびて水喧嘩の相手 今瀬剛一
残り火を海へ投げたる虫送り 茨木和生
新米を年貢と運びくれし人 尾池和夫
あとがき 参考文献 参考URL 索引索
その他私の好きな食の句
美しき緑走れり夏料理 星野立子
ところてん煙のごとく沈みをり 日野草城
約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎
その他私の好きな酒の句
屠蘇、年酒、ビール、焼酎、冷酒、新酒、濁り酒、熱燗、鰭酒、卵酒、寝酒
玉子酒思ひ屈する男あり 松瀬青々
年酒酌むふるさと遠き二人かな 高野素十
焼酎のつめたき酔や枯れゆく松 西東三鬼
熱燗や討入りおりた者同士 川崎展宏
(九)尾池和夫の句
みちのくの地酒辛口春の雪
茨木和生さんに俳句がわかっていると言われた。
みちのくの地酒に戻り鰹かな
久礼の七月の水揚げが鰹のたたきでは一番美味しい。
高知育ちが土佐の言葉で詠む。
初鰹こぢやんとうまい土佐に来て
おんちやんのうるめじやないといかんきに
さつきまで木にをつたといふ李買ふ
妻を詠む、飲み食いを詠む。
冬の日や喪服の妻に茶をすすめ
甜瓜選ぶに妻は値を問はず
桃値切る妻の片言通じたる
木の芽和妻には妻の隠し味
苅分けて置く芽若布は妻のため
勝海舟の妻多きこと根深汁
面取をして里芋は妻の味
秋の鯵猫と分けあひ妻の留守
白菜を抱きてメモ読む妻若し
夜遊びの妻を待つ間の春炬燵
雛あられつまみて妻の帰り待つ
春の宵故郷の酒を妻と酌む
寒鰤を抱へ来たりし妻の母
悩みごと妻には言はず目刺焼く
長き名を唱へて妻は種を蒔く
ぜんまいの綿妻の手にあふれをり
かき氷妻のわがまま知り尽くし
柿の木に登りし妻の細きかな
柿を売る露店に妻のまだをりぬ
熱燗を喪服の妻にすすめけり
韮粥の炊きあがる頃妻起こす
妻も吾も土佐の人なり初鰹
枸橘や少しの酒に妻は酔ふ
母のこと語り辣韮漬ける妻
虎杖の妻の話に割込めず
日曜の妻起こさずに大豆煮る
白粥を妻と勤労感謝の日
わが穴場妻に譲りて蕨摘む
ごきげんの妻山盛りの杏の実
帰宅せる妻の土産の青山椒
弁当に柿加へよと妻の知恵
丹波路に妻の笑顔や柿安し
夜遊びの妻のみやげや葡萄篭
松茸に木の葉かぶせて妻を呼ぶ
出迎えの妻に差し出す柏餅
神棚に妻が供へる桜餅
桑の実の黒きを妻に指しにけり
ソフトクリーム妻となめあひ天高し
老眼鏡ずらして妻は栗を剥く
土佐を詠む、飲み食いを詠む。
穭田に赤牛放つ土佐なれば
一豊の雑煮切餅土佐なれば
正月の鱓を叩く土佐なれば うつぼ
土佐なれや穭は延び放題の餌
春の日や土佐文旦の種の数
虎杖と油揚煮て土佐の味
もんぱ海老の殻出汁にして土佐の味
コーヒーのあとは番茶よ土佐は冬
かまぼこ店二代目の手に土佐の鱛 えそ
秋鰹土佐藩屋敷このあたり
妻も吾も土佐の人なり初鰹
土佐つ子や鰻摑むにかぼちやの葉
七月や土佐の稲田は黄金なす
水澄むや芝天狗の棲む土佐国 しばてん
奈良漬の生姜は土佐へ里帰り
筍の刺身に土佐の鰹節
土佐よりの小夏まるごとほろ苦き
土佐よりの土産大なり鱪かな しいら
土佐に来て何はともあれ初鰹
土佐からの鯣あぶりて屠蘇祝ふ
(一〇)俳句と地球科学
河川と出汁
日本列島は変動帯で、高い山から出た川はすぐ海へ注ぐ。地質を溶かし込む間がないので、水は軟水系になる。そのような水は昆布や鰹節の出汁をとるのに向いている。獣肉も縄文時代から日本では食べているけれども、それは焼いて食べた。
安定大陸の大河はゆったりと流れてミネラルを溶かし込んで硬水となる。それは獣の肉を煮込んで灰汁を取り、美味しいブイヨンを得るのに向いている。
変動帯の文化と活断層の恩恵
京都盆地は活断層に囲まれている。活断層に沿って起こる上下の運動で、隆起した産地から沈降する盆地へ、浸食された土砂が流れて、盆地の地下には分厚い堆積層ができており、その中に豊富な地下水が蓄えられている。その水を使って茶の湯が生まれ、懐石料理と酒が発達した。それらをまとめて「変動帯の文化」と、私はよぶことにした。
活断層は数千年に一度、一〇秒ほど、大地震を起こして大揺れをもたらせるが、その他の時間は、私たちは活断層の恩恵を受けている。揺れるときに怪我をしないようにさえすれば、後は豊かな暮らしを楽しむことになる。
山は海の恋人
三陸の海で牡蠣の養殖を行う畠山重厚さんの言葉である。山をきれいに守っておくことによって、海が豊かになり、牡蠣が育つ。津波の時にも、漁師たちは津波の後は海が肥えると言い伝えてきた。津波で流されないように高台に住んで、美しい海を見ながら海の恵みをいただくというのが、日本の暮らしである。
今、三陸の海岸はコンクリートの壁で囲まれているが、気仙沼の町はそれを避けた。
NPO法人森は海の恋人の畠山信さんは、「私は気仙沼市において「森は海の恋人」運動を続けている漁業者であり,また,震災を生き延びた人間として,巨大防潮堤は被災地再生の妨げであると確信しています」という。
参考文献
井上弘美 季語になった京都千年の歳事 KADOKAWA 二〇一七年四月一二日
茨木和生 西の季語物語 角川書店 一九九六年
茨木和生 季語の現場 角川書店 二〇〇四年
岩槻邦男 日本の野生植物 シダ 新装改訂版 平凡社 一九九九年
岩槻秀明 街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本 秀和システム 二〇一四年六月二八日
宇多喜代子 古季語と遊ぶ 古い季語・珍しい季語の実作体験記 角川選書 四一四
二〇〇七年八月三一日
宇多喜代子 暦と暮らす 語り継ぎたい季語と知恵 NHK出版 二〇二〇年四月一五日
榎本好宏 季語成り立ち辞典 平凡社ライブラリー 二〇一四年六月一〇日
尾池和夫 四季の地球科学―日本列島の時空を歩く 岩波新書 二〇一二年七月二〇日
尾池和夫 変動帯の文化 国立大学法人化の前後に (京都大学総長メッセージ二〇〇三―二〇〇八)
京都大学学術出版会 二〇〇九年一一月一〇日
尾池和夫 季語の科学 淡交社 二〇二一年三月六日
尾池和夫 季語を食べる 淡交社 二〇二四年一月一九日
尾池和夫 活断層のリアル PHP新書 二〇二五年九月一七日
岡田恭子 食べる野草図鑑 季節の摘み菜レシピ一〇五 日東書院 二〇一三年四月一日
岡林一夫・中島 肇編 京都お天気歳時記 かもがわ選書2 一九八七年一二月一日
櫂未知子 季語の底力 生活人新書 〇六九 NHK出版 二〇〇三年
櫂未知子 季語、いただきます 講談社 二〇一二年
片山由美子 季語を知る 角川選書 二〇一九年六月二八日
角川書店編 角川俳句歳時記第五版 角川ソフィア文庫 二〇一八年二月二五日
上村 登 なんじゃもんじゃ 植物学名の話 北隆館 一九七三年一月三〇日
上村 登 花と恋して 牧野富太郎伝 高知新聞社 二〇二二年七月一六日 第二刷
姜 尚美 京都の中華 幻冬舎文庫 二〇一六年一二月六日
草間時彦 食べもの俳句館 角川選書 一九九一年一一月一日
杏仁美友 朝に効く薬膳 夜に効く薬膳 大泉書店 二〇一四年三月二二日
杏仁美友 更年期の漢方 つちや書店 二〇一九年一二月三〇日
小泉武夫 くさいはうまい 文春文庫 二〇〇七年七月七日
小泉武夫 食と日本人の知恵 岩波現代文庫 二〇〇二年一月一六日
佐藤洋一郎 (編集) 知っておきたい和食の文化 勉誠出版 二〇二二年一月三一日
新海均 季語うんちく事典 角川ソフィア文庫 二〇一九年九月二五日
杉浦日向子 大江戸美味(むま)草紙 新潮社 一九九八年一〇月一五日
杉浦日向子 杉浦日向子の食・道・楽 新潮文庫 二〇〇九年三月一日
杉浦日向子 ごくらくちんみ 新潮文庫 二〇〇六年七月一日
谷口智行 海山 邑書林 二〇二四年七月一六日
土井勝 酒の肴250種 家の光協会 一九八五年一一月一日
土井勝 お弁当と常備菜 家の光協会 一九八五年四月一日
夏井いつき 絶滅寸前季語辞典 ちくま文庫 二〇一〇年八月一〇日
夏井いつき 絶滅危急季語辞典 ちくま文庫 二〇一一年八月一〇日
林 将之 秋の樹木図鑑 紅葉・実・どんぐりで見分ける約四〇〇種 廣済堂出版
二〇一七年一〇月二〇日
福永真弓 サケをつくる人びと 水産増殖と資源再生 東京大学出版会 二〇一九年一二月五日
藤井一至 土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて 光文社新書 二〇一八年八月三〇日
前橋健二・浅利妙峰 旨みを醸し出す 麹のふしぎな料理力 (一社)東京農業大学出版会
二〇一二年七月一四日
牧野富太郎 牧野日本植物図鑑 北隆館 一九四〇年
松田久司監修・淡交社編集局編 カラダのために知っておきたい漢方と薬膳の基礎知識
淡交ムック 二〇二〇年三月三一日
水上勉 土を喰う日々―わが精進十二ヵ月― 新潮文庫 一九七二年八月二五日
三村純也 髙天 朔出版 二〇二四年一二月一日
目代邦康・笹岡美穂 地層のきほん 誠文堂新光社 二〇一八年五月一〇日
家森幸男監修 Dr.Yamoriの長寿食のススメ―カラダに美味しい世界の料理 淡交社
二〇〇二年六月一日
家森幸男 80代現役医師 夫婦の腎食術 文春新書 二〇二三年六月二〇日
参考ウェブサイト
厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル 例:紫陽花
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082116.html
厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル 食中毒
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html
農林水産省 うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html
農研機構
https://www.naro.go.jp/introduction/index.html
内閣府 食品安全総合情報システム
https://www.fsc.go.jp/fsciis/
養命酒 薬膳とは? いつもの食材でできる薬膳の基本
https://www.yomeishu.co.jp/health/3371/
中村学園大学 薬膳科学研究所
https://www.nakamura-u.ac.jp/institute/yakuzen/
The Asahi Shimbun
精進料理は日本伝統のヴィーガン料理? 禅僧が教えてくれる、その違いにある深い意味
https://globe.asahi.com/article/14466794
普茶料理 梵
https://www.fuchabon.co.jp/detail5/detail5.html
普茶料理|食す|黄檗山萬福寺
https://www.obakusan.or.jp/eat/
普茶料理】特別御膳『あおい』|お知らせ|黄檗山萬福寺
https://www.obakusan.or.jp/information/1942
仙台の箪笥料理と、京都の普茶料理。東西おもてなし料理の美食旅 - OnTrip JAL
https://ontrip.jal.co.jp/tohoku/17500895
物知り中医学|日本中医学院|本格中医学を国内で学ぶ
https://www.jbucm.com/monoshiri.html
毎日の暮らしに活かす薬膳・中医学 | 東京農業大学
https://www.nodai.ac.jp/general/learn/extension/course/d105/
薬膳 - Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E8%86%B3
薬膳科学研究所 | 研究所・付置施設 | 中村学園大学・中村学園大学短期大学部
https://www.nakamura-u.ac.jp/institute/yakuzen/
くすりの話 192 薬膳とは - 全日本民医連
https://www.min-iren.gr.jp/?p=28067
薬草園の紹介|薬学部・大学院薬学研究院|北海道大学
https://www.pharm.hokudai.ac.jp/garden.html
静岡県立大学薬草園
https://w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/~yakusou/Botany_home.htm
講座のご案内 | 一般社団法人日本薬膳学会
https://www.jsmd2013.jp/course/
本草薬膳学院、中国薬膳研究会が主催した「薬膳の旅」
https://honzou.jp/travel/