尾池和夫の記録(209) 太陽の光で自然を見る  エネルギーレビュー2020年8月                     京都芸術大学学長 尾池和夫

 氷室俳句会という結社の主宰をしていて、月刊『氷室』という俳句雑誌を編集する。今、8月号に掲載する俳句を選んでいる最中であるが、とにかく佳い句が少なくて辛い。
 俳句は、自分の感動を、17音に閉じ込めて、人に伝えるという文学である。その基本を私は「三現則」と呼ぶ。現在の現象を現場で詠むという意味である。大自然の中に出かけ、あるいは人びとの集まりに参加し、そこで新しい体験をすることが重要で、そのための行動を吟行と呼んで大切にする。
 それが、今は自粛の対象になってしまった。そうすると、毎月の投句に現れる俳句が、コロナや感染症をテーマにしたものが多くなってしまった。いかに吟行が重要か、いかに自然に触れ、人に触れることが大事かを、思い知らされることになった。句会に参加して議論することも、今できない。
 メール句会とか、ライン句会など、新しい方式ができて、それなりに威力を発揮している。そこで、言葉が先行し、五感で感じることが欠乏しているのに気づく。匂いを感じ、味をみて、触ることで対象を理解する。
 人の脳は、太陽の光ので自然を見て進化した。液晶の透過光では、娯楽の経験しか脳は持っていない。そもそもコロナというのは、日食のときに、隠れた太陽から大きく発せられる光のことである。久しぶりの日食で、また本当のコロナを、インターネット越しに、実感することができた機会に、太陽の光で自然を見ることの大切さをあらためて考えている。