尾池和夫の記録(191) 猿を詠んだ俳人たち
                                 尾池和夫
 芭蕉以来、現在に至るまで、俳句は多くの人々が作品を生みだし、多くの人々が鑑賞してきました。そこで猿がどのように詠まれたかということに私は興味を持っています。その興味の中で収集した猿を詠んだ句のことを紹介したいと思います。
 猿の句で時代的に最初の有名な句は芭蕉の次の句でしょう。
  初しぐれ猿も小蓑をほしげ也    芭蕉
 これは芭蕉46歳の句で、1689(元禄2)年のものです。『猿蓑』にある最初の句です。『猿蓑』は、向井去来と野沢凡兆が編集した蕉門の発句と連句集です。芭蕉は元禄4年5、6月に京都に滞在して『猿蓑』撰の監修をしました。書名になった上の句は自然の猿を見て詠んだものであろうと最近、私は思っています。山道を歩いているとき初時雨に会い、木の上にいる猿が蓑を着て旅に加わりたいというように見えたということだと思いました。「伊賀へ帰る山中にて」という詞書があるそうです。特に「小蓑」という表現が好きです。
 蕪村は、画家として詩人として活躍しました。蕪村の句に詠まれた猿などの動物には、やや想像の世界での絵画的なものがあります。
  秋のくれ仏に化る狸かな      蕪村
  猿どのの夜寒訪ゆく兎かな
 猿を詠んださまざまな俳人たちの句には自然の猿を現場で詠んだものよりも、猿回しの猿や伝説の猿酒や想像の猿の姿などが多く見られます。
  このむらの人は猿也冬木だち    蕪村
 これは人と猿を比べて人を猿に喩えています。
  猿引は猿の小袖をきぬた哉     芭蕉
  竹馬をよけて通るや猿まはし  高浜虚子
  猿曳の肩にまたたく猿なりし  原 石鼎
 また猿酒を詠んだ句もたくさんあります。
  猿酒や鬼の栖むなる大江山   青木月斗
 自然の猿をを詠んだ猿の句は多くありません。
  霜枯の一樹をたのみ見張猿   角川源義
 日本列島には北限の猿までいて、俳句の対象としてもっと観察する必要があると思います。例えば「猿団子」です。皆さんも猿団子をしっかり詠んで、猿団子の言葉そのものが冬の季語となるような名句を生み出してほしいと思います。
  どの猿も雪の山向き猿団子   尾池和夫(『瓢鮎図』)