尾池和夫の記録(96) 急性心筋梗塞(22) 健康管理 1999年7月14日~8月28日
                               尾池和夫

1999年7月29日(木)
 NHK生活ホットモーニング。生活習慣病とビタミンの役割について。わたしの知識のまとめのために要点を書く。
 LDLコレステロールが変成LDLコレステロールになって、動脈硬化を起こす。活性酸素がこの変成LDLコレステロールをつくる。活性酸素はストレス、紫外線、タバコの煙などで生まれる。抗酸化ビタミンが活性酸素の害を防ぐのに役立っている。ビタミンには油溶性の、A、D、E、Kなどと水溶性のB群、Cなどがある。このうち、E、Cと、Aになる前のβーカロチンが活性酸素を押さえる。油溶性のビタミンは細胞膜の中に入ってそこで作用し、水溶性のビタミンは細胞膜の外で作用する。

1999年8月7日(土)
 夜散歩の途中、石田の武田総合病院の前で白坂先生に会った。スマートにやせている。坪川先生が福井に帰ったということ、岐阜大学の清水先生と会った話などをした。
 京大広報の1999年7月号の保健コーナーに、京大の保健管理センター所長の川村孝さんが「働き盛りの突然死」を書いた。川村さんは、今年の2月にわたしも参加した会議で決まった教授で、心臓病が専門である。
 川村さんが調べた結果が簡単に紹介されている。それをさらに簡単に紹介すると以下のようになる。
 まず、突然死は20万人×7年間で264件発生した。1万人で1年に2人である。大手の事業所を調査したので男性が多い。比率で見ても男性が女性の2倍である。年間では4月、週間では週末が多い。定期健康診断のデータから見ると、収縮期血圧が160以上、拡張期血圧が100を超える、尿酸値が高い、HDLコレステロールが低い、などのどれかに該当する人に突然死が多い。尿蛋白や肝機能の異常も関係することが新しくわかった。心電図の所見も重要である。タバコは、1日の喫煙本数×年数が800を超えると、非喫煙者の3倍の確率になる。ときどき酒を少し飲む人は確率が半分以下になる。文章の最後に「検診結果を活用して健康を管理し、周りの人を悲しませないように」とある。
 前に述べたように、この「活用して健康を管理」するのは自分自身であるのは言うまでもない。が、それが私には完全にはできていなかったのが残念である。生活習慣に関する十分な知識を持ちながら、必ずしもすべてが実行できていなかったのがまずい。生活習慣病というのは実に格好が悪い。食事のことなどに気をつけ、十分の知識をいつも伝えてくれていた妻の名誉にまでかかわる事態であって、まことに申し訳ないと、あらためて思うのである。
 要するに心筋梗塞を経験したくない人は、危険因子を直ちに全部取り去ることを実行するのが大切なのである。まだ一つぐらいはいいだろう、と思うのが間違いのもとなのである。間に合わなかったとい
う実感を自分が経験して、それが一番のよくわかったことであった。

1999年8月10日(火)
 朝食を抜いて武田病院へ9時前に行ったが、受付で20分待たされてしまった。心エコーの測定の後で田巻先生の診察を受ける。看護婦さんがカルテの指示を見落としていたが、やはり血糖値を測ることになって、至急で測定した。三〇分くらいで値が出てくる。空腹時血糖値で一一六である。相変わらず低くならない。次回は食事二時間後の値を測って比べようということになった。
 心エコー測定をは、久しぶりであった。新しい検査室では初めての測定である。
「ぎりぎりですね。昨年の一〇月に測ったときと同じ五五ミリです」
「心エコーというのは何を測定するのですか」
 今頃になって基本的なことを質問する。
「心臓の内側の長径を測って、それが五五ミリです」
「はあ」
「測定者が前回とちがうので、だいたいの値と思って下さい。誤差がかなりあると思います」
「正常な人で、いくらぐらいですか」
「上限が五五ミリです。ぎりぎりです」
「この前測ったBNPの値が三三というのはどういう位置づけになりますか」
「心臓の機能の四段階で、一と二との間でしょうね。四というと寝ていても息が切れる」
 暑いときに診察を受けると、それだけで、どっと疲れてしまう。早めの昼食をゆっくり食べて身体を休めた。食後に葉子は書店に立ち寄って、糖尿病の人のための食品データが載った本を買った。あらためて食品に含まれる蔗糖の量を見直している。
 京都市の事業として昨年から地下構造の探査を始めたが、人工地震で反射波を記録して解析すると、京都盆地の基盤の形が見える。昨年の測定で京都盆地を南北に切った断面図が描かれた。京都盆地の地下構造が見えたのは、これが初めてである。測定する測線の位置などで形が変わるし、測定には誤差もある。心エコーの原理も、これと同じである。多少の誤差があっても、形が見えるというのは何よりも診断に役に立つことである。

1999年8月13日(金)
 国際石油株式会社の木村一三社長が、見舞いに漢方薬を送って来て下さった。冬虫夏草である。高価なものだが、最近は人工的に栽培というか養殖というべきか、とにかく生産できるようになって、手に入りやすいのだそうだ。化学薬品で治療していると、漢方薬であっても飲んでいいものかどうか迷うが、この冬虫夏草は影響がないと木村さんの説明に書いてある。ありがたい贈り物である。

1999年8月17日(火)
 トルコ北西部で大地震があった。以前から動くと思われていた北アナトリア断層である。かなりの死者が出ると思う。

1999年8月21日(土)
 地震で目が覚めた。5時33分頃、近畿地方を中心に広い範囲が揺れた。NHK社会部の取材があり、7時の全国放送でコメントが流れた。8時半のニュースでは、阿部さんが出た。トルコの地震の被害は大きくなり、死者は1万人を超えた。新しい建物も壊れている。海岸で沈下があり、ビルが海に沈んでいる写真が、朝日新聞の朝刊に出た。
 大阪へ行って、岡田さん、北田さん、小原さんと話し合って、CD-ROMの編集作業を進めることにした。話のついでに、私のこの心筋梗塞療養記を出版することになった。
 韓国焼肉の店、珍三カルビで食事をした。一年半前に同じ店に来たときには体重が71キロあった。今は61キロであるが、食べる量が、たしかに減っている。しかも肉をしっかり焼いて、脂をよく落として野菜と一緒に食べる。

1999年8月24日(火)
 両国駅の近くの江戸東京博物館、吉良邸の跡、勝海舟の生地跡などを見た。博物館は無料で入れた。700系のぞみに乗って京都駅に帰り、武田病院に寄って薬の処方をもらった。看護婦の中川さんに久しぶりで会った。風邪を引いているという。
「また九月の終わりか一〇月に入院します」
「今度は七階になってる」
「え、新館?」
「そう。看護婦も若い人たちになってるから、楽しみに」
 この言葉にはどういう反応をすればいいのか迷っているうちに、彼女は立ち去ってしまった。
 いつもの薬局で薬を受け取って帰宅する。このところ同じ処方で順調に処理されている。
 日本病院会などが人間ドックを受診した後の指導を行う指定医の制度を考えているというニュースがあった。いい考えである。一定期間以上健康保険を使うことのなかった人が人間ドックを受けて、この指定医の問診を受ける場合には、保険でその費用がまかなえる制度をぜひ考えてほしいと思う。「病気保険」といわずに「健康保険」というのだから当然健康を守るために使えるのがいい。
 山科駅前のラクトビルに武田病院も新しく健康診断をする施設を開店したので、葉子にもそこへ行くようにすすめてみたいと思っている。