祖母の誕生日
いつも心がふっと柔らかくなる
少し
切なくなる
おばあちゃんはいつも遠慮ばかりして
本当は寂しいのに口にしたりしないから

天気がいい日は
「お天道さま」
に手を合わせ
雨が降れば
木や草や庭の花を眺めやり
「シュンシュン言うてる」
と目を細め
本当は猫が怖いのに
「野良猫さんにお裾分け」

魚の骨や煮干しを小皿に入れて
いつも勝手口の脇へ置いていた

おばあちゃんはいつも
そんなだったから
わたしはおとなはみんな
おばあちゃんみたいなんだと思ってた

ひろおえん
と家では呼んでた
部屋の向こう側にある広い縁側?
小さな部屋?
庭に向かって大きな窓があり
窓をあけると広い縁側のようになる
だからきっと「広い縁」

その"ひろおえん"の下の犬走りに
出入りしやすいように踏み台代わりの岩が置いてある

祖母はうちへくるたびに
その踏み台代わりの岩の前に座って
「いつもありがとうございます、ありがとうございます」
言いながら水で磨いていた

いつも踏みつけにしてごめんなさい
いつも踏上り下りをしやすくしてくれてありがとう
そんな気持ちをこめて
タワシで磨き
口の中でお礼を繰り返す

洗濯物がよく乾いたら感謝をし
電車で誰かが席を譲ってくれたと大喜びし
「おかげさま」
「おかげさま」
何があっても感謝していた

イヤな思いをすることがあっても
気持ちを切り替えるためのきっかけをせっせと見つけ
誰のことも恨まないように
いやな気持ちをひきずらないように
ぐるりと回って「おかげさまで」にいきつくように
粟立つ心をあれやこれや
工夫しておさめる努力を惜しまなかった

祖母の話を聞くのが大好きだった
祖母と話している時間が大好きだった
話していると私にまで
少しは善の心がうつってくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた

自分のことはさておき
まず人のこと

おばあちゃんはいつもそうだったから
おとなはみんなそうなのかと思っていた

おばあちゃんは
私にたくさんのことを教えてくれた
話してくれた
見せてくれた
いっしょにいてくれた

おばあちゃんからの贈りもの
私は大切にもち続けてる
そんなのソンだよって言う人がいても
私は涼しい顔で持ち続ける
そんなのバカだねと言われても
私は笑って持ち続ける

おばあちゃん
お誕生日おめでとう

おばあちゃん
たくさんのギフトを
ありがとう