次に紹介するのは灘中学校・高等学校の井上志音先生。
バカロレア教育を踏まえた教科教育学が専門。
授業を通じて伸ばしたい能力として、生徒の物事の見方・視点を変えること、客観的・批判的にに本質を捉える力であるのがよく伝わってきます。
紹介されている本も、そのための議論の材料として、理論的ベースとして有用なものになっていると思いますので、娯楽として楽しい読み物ではないと思います。
井上先生の章の冒頭にもこのように書かれています。
「私の場合、生徒がつまずきがちなところや弱点を出発点に、6年間で伸ばしていきたい力をあらかじめ見据え、その実現を目指した授業をデザインしています。
力を伸ばすために教材を活用するという考え方で、コンテンツ(内容)ベースというよりはコンピテンシー(資質・能力)ベースです。」
書籍が伝えていること、問いかけていることに対して、自問自答したり、考えながら読み進められるタイプにはとても有用でしょう。
ただ、小中学制でそれができる子がどれくらいいるかはわかりませんが・・・。
今年の1月、入試直前でしたが、受験予定がない学校の国語の問題もかなり目を通しました。
なぜ、そんな時期にやっているのか。
目的は、次の2点です。
「受験勉強の合間に、質の高い「暇つぶし」ができそうな文章を探したい」
…普通の読書でも良いが、良くも悪くも興奮しすぎたり、先が気になって仕方がないものや頭の中でぐるぐる思い出すようなものは避けたい(リラックスも大事なので、無理に止めないけど)。休憩時間や移動時間に読めるものをストックしたい。そして、理科・社会の知識や素養を深められ、読解力も形成されるような文章があれば読ませてみたい。
「部分的にでも思考力がつく文章、問題を厳選してやらせてみたい (ただし時間があれば)」
…志望校も併願校も国語はほぼ大丈夫。その上で、ピンポイントで論理的思考力を鍛えられそうな質の高い文章、良問がないだろうか。
灘の国語の思考問題は、文章も短く、高難度ではないと思います。
しかし、とても質の高い文章を丁寧に読み取らせる、読解力が問われる良問だなあと思ってみていました。
当時(2025/1/19)のブログからの抜粋です。
灘
令和6年度「軍艦島にて」〜エネルギーが石炭から石油に移行したことで1970年に閉山
「軍艦島にて」は1枚に収まる短い文章ですが、問題は受験者の思考力を見るのに適した良質な設問で構成されていて、さすが灘だなと思いました。
登場人物の心情理解の変化、対比構造、比喩、意味抽出などの要素を捉えていることを確認するような問題です。
・「その日の晴天」が、主人公にとってどのような意味を持つか
・「無機的」な廃墟としての“今“の軍艦島、「有機的」な生活の場として存在していた“かつて“の軍艦島、対比的な構造として捉えることができているか (文中では有機的とは明示していない)
・ガイドの話、口調、を通じて、それが意味することは何かを問うことで、上述の対比構造の理解度や登場人物の心情理解など、文章にこめられた意味抽出ができているかを確認し、単純な抜粋だけではない、言い換え、抽象化などの表現力も問うている。
「それってどういうこと?」
娘が、よくわからない言葉を使って文章を書いている場合などによく私が使う質問です。ブラックボックスのまま、抜粋した言葉を使って文章を構成しても良いケースもあるのですが、自分が理解できる言葉に置き換えて構成した方が読み手にとってわかりやすい文章になったりします。それができるだけで、全ての教科の記述問題の得点がアップします。
そういう力をつけるためには、「〜はどのようなことを意味しますか?」という問題を連発してくれる灘の問題はとてもいいな、と思った次第です。
入試直前期なのに、こういう取り組みをしているのは出題範囲に関係なく有用だと考えているからです。
この時に感じた感覚を持って、井上先生の章を読み進めると、灘の国語教育の中でやろうとしていることがまさに入試でも問われているなあと思いました。
上記、1月のブログ抜粋からの太文字部分をなんとなく頭にいれて以下のブログ記事を読み進めていただければと思います!
では、最初の本です。
生徒たちの弱点を克服するために中学の授業でみんなが読んでいる本から。
青文字イタリックは「名門校の本棚」からの抜粋です。
「入学してきた頃は「書かれたことさえ読めればいい」と思っている生徒が少なくありません。正解は書かれたことの中にある、と思い込んでいる。だから、書かれていないこと、筆者があえて表現しなかったことには興味が湧かないんですね。」
「『笑う月』は阿部公房の短編小説集で、寓意に溢れた面白く読める小説が何編も収められています。」
「授業でよく扱うのは、その中の一編『鞄』」
職探し中の青年が言う。
「鞄の重さが、ぼくの行先を決めてしまうのです」
この鞄って、何なん?
「正しく読めば、解釈はただ一つと考えている子は、・・・こういった議論そのものに戸惑います。」
「唯一の正解に一直線で行きたがるのは、最近の生徒の特徴なのかもしれません。特に灘校は理数系がとても強い生徒が多い。・・・国語とはそもそも相容れない部分があるんですよね。」
「正しい読み自体が多様なんだよ。・・・ただ、自由な読みにもルールはあります。なぜそう思うのか、雰囲気や気分ではなく根拠を示せ、理由づけせよ、と。」
「書き手があえて言葉で表現しなかったことは何なのか」
「灘校では、入試で毎年のように詩を出題するのですが、これは書かれていないことも読み取ろうとする子に入ってきてほしいという、学校の願いの表れではないかと私個人は考えています。文字情報が少ない詩を味わうには・・・」
「次のテーマは、「知識を作り出す。」」
「日本の中高生は得てして知識というものを、変わることのない絶対的なものであると考えてしまいがちです。・・・国際バカロレア教育では、知識は授かるものではなく、みんなで作っていくものであると考えます。」
「君たちが信じ込んでいる当たり前と言うものは本当に当たり前なのか・・・」
「大切なのは、うのみにせずに、分析しながら考え、吟味してから判断すること、つまりクリティカルに物事を考えること。」
「・・・・メディアリテラシー教育とは、要はクリティカルシンキングの力を養うと言うことなのです。・・・本書では実践的かつ多面的にまとめられています。」
「・・この本では音楽を切り口に政治や経済、芸能など世の中の様々な事象がダイナミックに考察され、読むと常識的な価値観が覆されます。
・・・その中の一編、・・・「トロンボーンを吹く女子学生」をここでは紹介したいと思います。」
「トランペットやトロンボーンは男性の楽器で、ピアノやハープは女性の楽器という、ジェンダーと結びついた楽器のイメージがありますよね。・・・このイメージは、19世紀の良妻賢母イデオロギーの広がりを背景に形成されたものであると筆者は指摘します。・・・歴史的・社会的な影響を受けながら無自覚なうちに内面化されたものなのです。」
「であるとすれば、自分の当たり前っていったい何なんだ?」
「この「トロンボーンを吹く女子学生」を、クリティカルシンキングの力をつけるための授業の教材として使っていて、その授業は先ほどの『メディアリテラシー 吟味思考(クリティカルシンキング)を育む』のなかで、メディアリテラシー教育の実践例の一つとして、紹介されています。」
この本では、「「アメリカの質問作り」という教育手法が紹介され、生徒たち自身による「質問づくり」を授業の中でどうやって進めていくか、具体的な方法が丁寧に説明されています。」
「教師って固定的な知識をシャワーのように与える存在ではもはやありませんよね。」
「問いを立てる」をテーマに選んだ作品。
こちらは井上先生の著書。
このブログを読まれる方で灘受験する人はほとんどいないと思いますが(検索で見つける方はいるかも)、
一連の本は必読ではないかと思いましたよ!
中高生でここで取り上げられているようなコンピテンシー(資質・能力) がちゃんと身に付いたら素晴らしい。
遅くとも、大学生のうちには身につけたいもの。
ですが、学校で教わる機会や、書籍などで知る機会がなければ、気づくことも難しいでしょうね。