「カオノルド殺人事件」
譲れないもの。きっとだれしもが一つくらい
はあるだろう。それが行為であったり物であっ
たり、他の何かかもしれないけれど、きっとそ
れはその人にとって生きて行く上で重要な事で
あり、その人の欠陥でもある。
夜の大通りの街灯は、建物の隙間から裏路地
にところどころの光を漏らし暗闇をより一層引
き立たせ、足を踏み入れることを躊躇してしま
う不気味さを漂わせている。
唯一、遠くの波の音が街のバックグラウンド
としてうっすらと広がり、この夜の街にどこと
ない安心感を与えていた。
しかし、安心感は一瞬で一つの悲鳴にかき消
される。
波の音の上に突き刺すような鋭い高い悲鳴が
続く。悲鳴は断末魔となり、石畳と貴族の屋敷
にまで反響していく。そして数秒後には、昨晩
と変わらぬ街へと戻った。
ここは港街カオノルド――。
「おまち! マカジキのステーキいっちょうあ
がり!」
僕の前に差し出されてきたのは豪快な体格の
店主が作る、豪快なステーキだった。
この港街カオノルドは街中を水路がはしり、
海と街を繋いでいた。貿易だけでなく漁業も盛
んで新鮮な海産物を食べる事ができる。街の交
通の利便性は良く、東大陸では最も人と物の出
入りが激しい街となり、常に商人や職人、旅人
や冒険者で溢れ、さらにこの辺りは貴族の立派
な屋敷から社交場としてのオペラハウスまであ
る。
「そういやお兄さん、ここんとこよく顔だすけ
どこの街には何用で?」
店主は僕がこの料理を食べきり、「美味し
かった」と言うまで顔を離してはくれないよう
だ。
人が少ないお店ではないのだが、実際の本営
業は夜の飲み屋らしく、この昼過ぎは暇を持て
余しているように見えた。
「貿易関係の仕事で、持ってきた物はだいたい
良い値段で売り払えたので少し荷物を仕入れて
いこうかと――」
店主の視線はこちらから外れなかったので、
少し間を置いて「あと、このステーキ美味しい
ですね」と、続けると満足な笑みで厨房に戻っ
て行った。
実際のところ、このマカジキのステーキはな
かなかに美味しいし、高級魚と言われるマカジ
キがこの価格でランチとして食べられるのは西
大陸、東大陸含めてもそうは無いはずだ。
マカジキのステーキを綺麗に平らげると、厨
房から店主が顔をだし「なんだか最近物騒だか
らあんちゃんも気をつけろよ!」と、声をかけ
てくれた。ここ数日というもの、カオノルドで
は立て続けに若い女性を狙った通り魔殺人が起
こっていた。
このカオノルドという街は元々治安が良いわ
けでは無かったが、死体を刃物で切り刻み原形
を留めない残虐で猟奇的な連続通り魔殺人は、
街中の注目を集めるのにそう時間はかからな
かった。
店を出ると、既に空はオレンジ色に染まりか
けていた。けれどカオノルドの通りはまだ人が
行き交い、活気が溢れている。
もう一仕事しよう、そう自分に言い聞かせ、
種屋に貿易品の仕入れに向かう。
カオノルドに滞在してからここに来るのは数
度目だ、「セナさん、先日注文したもの用意で
きてますか?」
「……あら貿易商さん、いらっしゃい」どうや
ら覚えていたらしい。
セナはここカオノルドで、種の売買をしてい
る。扱う商品の種類も値段もサービスも抜群
で、女性ながら手腕を見せていた。
今時女性だからというのは古いのかもしれな
い。こんな事を言ってたら貴族のフェミニスト
から批判を受けてしまいかねない。今は女性で
も剣を持って戦う時代だというのに……商売で
成功していても可笑しくはないだろう。
「ごめんなさい貿易商さん、ちょっと色々あっ
て……まだ準備ができてないの」少し予想外の
返事に驚く。
数日のやり取りで彼女に非の打ち所はなかっ
た。しかし申し訳ないといったその表情は、先
日のものとは違い、どこか暗く影っている。
「構いません、ではまた明日寄り――」
「あっちで誰か死んだらしいぞ! 今衛兵が集
まってきてる!」
そう叫びながら一人の商人が走って行った。
男が走ってきた方向に目をやると、カオノルド
に常駐している衛兵が続々と集まりはじめてい
た。
セナは衛兵が集まって行く方向を見ると顔を
歪め、「え、まさか……」と小声で発したあと
目に涙を貯めながら飛び出した。
「セナさん!」
僕は後を追った。
現場と思われる部屋の外には野次馬が集まっ
ていて、部屋の中に死体が横たわっているのが
見えた。セナは近くにいた衛兵を振り切り、無
理矢理中に入ると、死体の脇で泣き崩れた。
「セナさん? どうしてこちらへ? それと
ユーはどなたでしょう?」
死体の近くにいた衛兵は僕に顔を向けたの
で、「貿易の仕入れでセナさんのお店へ取引を
しにきたのですが……」そう、この通りと言わ
んばかりに僕は肩をすくませ、セナを見た。衛
兵は「なるほど」と頷いた。
「失礼、俺はこのカオノルドの衛兵長ジョセ
フ、それでセナさん、貴女はこのガイシャのベ
リルさんとはどのような――ご関係で?」
セナは少し落ち着くと、悲しげにも凛とした
表情を作っている。
「ベリルの愛人です」
”私の名前はセナ。カオノルドで種屋を切り盛
りしている。女だからって馬鹿にしないで欲し
いわ、その辺の男より断然稼いでるのよ。
私には「譲れないもの」があるの。それはベ
リル、ベリルを愛しているの! たとえ結婚し
ていて奥さんがいてもいいの! 二番目でも私
を愛してくれればそれだけでいいの! なぜ死
んでしまったの愛しのベリル……”
ジョセフは青ざめた顔でセナの隣で崩れ「そ
んな……愛しのセナさんが、ガイシャの愛人だ
と……」と、ぶつぶつと呟いている。
「あの、それで殺人なんですか?」
僕はジョセフに尋ねると、ジョセフは立ち上
がった。
「……こりゃ自殺ですね。この果実酒の瓶に
入った毒を飲んで死んだみたいです。一昨日の
晩にガイシャの奥さんは例の連続通り魔殺人で
殺されてまして、それの後を追って自殺……間
違いないでしょう。この後もケツカッチンなん
で俺としましても、それで完パケといきたいの
ですが……」
少し口調のおかしいジョセフは、どうやら形
式的に終わらせたいようだ。衛兵というやつは
こういう事件や日常的な治安問題、敵国からの
防衛と政治的な問題、はたまた周辺のモンス
ターから市民を守る、という雑務からとんだ厄
介事まで幅広く対処しなければいけない、国に
仕える公務員だ。いちいち複雑にしたくないと
いう思惑は予想に容易い。
「ですが……実は犯人が自ら名乗り出てまして
――」
ふと、部屋を見回すと、隅に一人の若い男が
立っていた。
「あなた、あの『バナナフィニッシュ』のギタ
リストのカインさんよね?」セナはこの若い男
を知っていた。僕は流行みたいなものには疎
かったので、見た事も聴いた事もなかった。
「知らないの? バナナフィニッシュって最近
この辺りじゃ凄く有名な人気バンドなのよ。
元々オペラハウスは由緒正しい王宮クラシカル
音楽を楽しむ場所だったのだけれど、ここ近年
はポピュラーな若者向けの音楽のライブハウス
としても使われてるの。そしてバナナフィニッ
シュってバンドは毎週のようにそこでライブし
てるの」
セナは詳しいようだ。
その若い男、カインの表情はとにかく暗かっ
た。今にも死にそうな顔をしている。
「オレが殺したんだ」
カインは一言だけ、そう言った。
”オレの名前はカイン。このカオノルドを中心
に活動するマハデビ生まれの人気バンド、バナ
ナフィニッシュの作曲兼ギタリストだ。
オレには「譲れないもの」がある。それは自
殺願望だ。実際の所、音楽とやらには全くもっ
て興味がなかった。社長と仲間に乗せられ、尻
を叩かれながらここまで来てしまったのだ。
日々のオペラハウスでのライブにも疲れ、もう
曲も湧いてこないんだ。頼む、死なせてく
れ……、そして今回こそは死のうとオレはクラ
ゲの毒を雑貨屋に注文しておいたんだ……”
「つまりカインさんはクラゲの毒で自殺しよう
として、雑貨屋のエリドルに注文してたんです
ね」
僕はカインを刺激しない様にゆっくりと話し
た。
「愛犬が病気で苦しそうなので楽にしてやりた
いと、嘘をついて毒の注文をしたんだ。でもオ
レは怖じ気づいて取りに行けなかった。そのせ
いで……きっとオレが殺したんだ」
衛兵長のジョセフは「どうしたものやら」と
首をかしげた。
「雑貨屋エリドルって言えば雑貨屋なのに趣味
も仕事も畑を耕す事みたいな男だったな。なん
せ一日中、店じゃなくて畑にいるもんだから、
何か注文するときは前金で払っておいてアル
ファベットの順に並んだ棚から、後で勝手に
もっていくんだ、あそこの熟成果実酒まいうー
だぜ? そういえば、セナさん。昨日プレゼン
トした果実酒どうでした?」
「……まぁ」セナは素っ気ない返事をした。
「でも、魔法とか呪いでも人を殺すのは大変な
このご時世、毒を注文しただけで「オレが殺し
たんだ」って名乗りでられても」
全くその通りだ。そんなんで死んでいたら、
カオノルドは今頃死体だらけになっているだろ
う。
「ジョセフ衛兵長! 例の脱獄囚が繁華街の飲
食店にいるところを見つけたのでひっ捕らえま
した!」
入り口には二人の衛兵に連れられた白と黒の
囚人服を着た男が立っていた。
「オーステラの監獄島から脱獄したあいつ
か……」
ジョセフはうんざりといった表情を浮かべて
いた。次から次へと厄介な事が起こる街の衛兵
の激務に同情せざるをえない。
「あのぉ……」部下の衛兵は申し訳無さそうに
している。
「実はこの囚人が無賃で焼き肉店で飲食をして
まして、店からの請求が届いてるのですが……
いかがいたしましょう?」
ジョセフは頭を抱え、深くため息をつくと「い
くらなんだ?」と尋ねた。
「15シルバーです」
「ツェー・ゲー・シルバーね。領収書もらって
おけよ」
「つぇーげー?」
セナは繰り返す。
「えーっと」隣でうつむいていたカインが顔を
上げて言った。
「CDEFGAB(しーでぃーいえふじーえー
びー)って音階あるじゃないですか、王宮クラ
シカルだとツェーデーエーエフゲーアーハーっ
ていうん読み方になるんですよ。だから業界の
人ってそっから数字を並べた隠語にすることが
おおくて、15はツェー・ゲー、23はデー・
エーみたいにね。しょうもないでしょ、こうい
うどうでもいい事にカッコつけるのが仕事なん
だ」
「なるほど、業界用語ってやつだ」僕とセナは
頷いた。
”俺の名前はジョセフ、首都カオノルドの衛兵
である。俺には「譲れないもの」がある。それ
は業界用語を使うという事だ。
俺は所詮、国に仕えるだけの冴えない公務員
だ。しかもこの先これ以上の出世はないだろ
う。俺にとって業界とは憧れであり夢だ。あら
ゆる有名人やミュージシャンがピカピカとした
その華やかな世界で生きている。手の届かない
場所。せめてその雰囲気だけでも味わいたいの
だ。部下に向かってどこぞのプロデューサーの
ように、今日はシーメーの後チャンネーとルー
ビー飲みに夜の街に繰り出すからよろしくちゃ
ん! と豪語する。それだけで俺は満足なの
だ……”
ジョセフはカインに少し馬鹿にされた形に
なったことでバツが悪いらしく、不機嫌そうに
囚人に近づくと、しばらく顔を眺めた。
「ユーがオーステラの刑務所から脱獄した、
フェルだな? 分かった、こいつはとりあえず
拘置所にインサートしておけ」
その囚人フェルはジョセフをぐっと、睨みつ
ける。
「……ってねぇよ」
何かを言ったが聞き取れなかった。ジョセフも
「なんだ?」とフェルにさらに顔を近づけた。
「だから、俺様はコイツを殺しちゃいねぇんだ
よ!」
このフェルの発言には理解ができず、僕とセ
ナは顔を合わせた。ジョセフの表情は見えな
かったが、フェルの表情から察するに僕らと似
たような顔をしていたのだろう。
フェルは余計な事を言ってしまったと察した
のか、さっと視線を下に逸らした。
「ユーこのガイシャの事を知ってるんだな?」
”俺様の名前はフェル・ケール。西大陸ヌイア
ン族の剣士だ。東大陸と西大陸は現在戦争状態
だ。東大陸で捕縛されオーステラの監獄島に投
獄されていたが、命からがらなんとか脱獄をし
た。そして大好物の焼き肉を食べに繁華街に向
かった。焼き肉を食べるためならどんな危険に
も屈するつもりはない。巷ではヤタ肉のジンギ
スカンが主流のようだが、やはり焼き肉の王様
は牛であろう……。
俺様には「譲れないもの」があった。それは
焼き肉の前には必ず風呂に入るということだ。
剣士の世界で力とは全てであり、生と死を隔て
る絶対的な壁だ。焼き肉とは力の根源であり、
剣士にとってそれを食べるという行為は神聖な
のだ。焼き肉に失礼があってはいけない、汚れ
た体を清めるべく、この日も俺様は風呂に入っ
ていた……”
「フェルさん、つまりあなたはここの家のお風
呂に入っていたのですか?」
僕はフェルに尋ねるとフェルは眉間にしわを
よせ、決まりが悪そうな顔で視線を泳がしてい
た。
「いやそうだよ? たしかに俺様はこの部屋の
鍵をちょろっと開けて勝手にはいって風呂を拝
借したよ。なんてったって俺様は焼き肉を食べ
る前には絶対に風呂に入るって決めてるんだ。
けどさぁ? 俺様は殺してないから。風呂から
上がったらそいつは既に死んでたから急いで飛
び出したんだ。おい、そこのアマ信じてねぇだ
ろ? あん?」
「私、何も言ってないでしょ!」
セナはフェルに睨みつけられると小動物の様
に影に隠れた。
僕は部屋の中を一周し頭の中を整理していっ
た。
「フェルさん、あなたが部屋に来たときは誰も
いなかったんですね?」
「あぁ、俺様が来た時は鍵もかかってたしな。
無理矢理あけたけど。そしてそっちの風呂場を
見つけてすぐに、湯を沸かして入ったよ。それ
で、風呂から上がって部屋に戻ると男が死んで
たんだよ」
僕は死体の近くの机の上にあった飲みかけの
果実酒を手にとった。
「これって見覚えありませんか?」
フェルに毒の入った果実酒の瓶を見せた。
「あぁ、それ俺様が持ってきたんだよ。風呂上
がりに飲もうと思ってさ」
「やっぱりユーが殺したんじゃないか!」
ジョセフがフェルの胸元をつかみあげ怒鳴る
と、その脇でセナがわーわーと泣き始めた。
「ジョセフさん、ちょっと落ち着いてくださ
い。脱獄してきたフェルさんがどうやってこの
果実酒の瓶を手に入れたのでしょうか?」
フェルはジョセフの手を振り払った。
「監獄島からは手漕ぎ船で海岸沿いに来たんだ
けどよ、街の水路から入ってきて橋の下に止め
て暗くなるまで隠れてたってわけ、そしたらこ
の瓶が上から降ってきて、酒みたいだったから
風呂上がりにでも飲もうって持ってきたんだ」
「それで、この机に瓶を置いてから風呂に入っ
たわけですね?」
フェルは「そうだな」とジョセフを睨んだ。
「でもそんな毒の入った果実酒の瓶が橋の上か
ら降ってくるなんてことが……」
ジョセフが困惑しているのを横目に、僕は続
ける。
「この果実酒の瓶、セナさん見覚えありません
か?」
「……あ、そんな……この瓶、私が橋から投げ
捨てたものだわ。昨日ジョセフから貰ったんだ
けど、私にはベリルがいるから、すぐに橋から
捨てたの。しつこい男って嫌い、ってかジョセ
フ、あなたがベリルを殺したの? 最低」
ジョセフは口を大きく開け、落胆を隠せない
でいる。僕は彼にいろいろと同情しつつも話を
進める事にしようと思う。
「この果実酒の瓶はジョセフさんがセナさんに
昨日贈ったものですね?」
「……そうみたいです、でもなぜこれに毒が?
もしかしてエリドルがわざとこの果実酒にクラ
ゲの毒を入れたと?」
「いいえ、おそらく違います」僕は部屋をゆっ
くり歩き回りながら、話を続けた。
「簡単な話ですよ。おそらく雑貨屋のエリドル
さんのお店でカインさんの頼んだクラゲの毒と
取り違えたんですよ、カインさん、クラゲの毒
の入った瓶をエリドルの雑貨屋で注文しました
よね。エリドルは注文されたものは前金で払
い、品物は後でアルファベットの棚に取りに行
くと。どの棚と言われてましたか?」
「オレにはEの棚に置いてあるから取りにきて
くれと。まぁ怖じ気づいて取りに行けなかった
んだけどね」
「ジョセフさん、あなたは昨日、エリドルのお
店にセナさんへのプレゼントとして果実酒を買
いに行ったと思うのですが、どの棚でした
か?」
「えっと、俺はエーの棚って言われたんだが…
…」
ジョセフは困惑した顔をしている。
「もしかしてEの棚だったんじゃないです
か?」
「……あ」
「そうか、業界用語ってやつだね。ジョセフは
間違ったんだ、果実酒のA(エー)の棚と毒の
瓶のE(エー)の棚。発音が一緒だ。音楽やっ
てると、オレもよく間違って伝わっちゃって混
乱させてしまう事があったんだ」
ジョセフは先ほどの『プレゼントを捨てられ
た』時よりもさらに口を大きくあけたまま、何
も言わずにその場で静止している。
「カインがクラゲの毒の瓶を注文して、ジョセ
フがAとEの棚を間違えて果実酒は毒の入った
瓶と入れ替わり、そしてセナさんへプレゼント
されたわけです。けれどセナさんは橋の上から
瓶を投げ捨てました。そこを偶然にも脱獄して
潜んでいたフェルに瓶は拾われ、フェルの焼き
肉の前には風呂に入るという奇抜な行動のせい
で瓶はベリルの家まで届いたのです。
きっとベリルは家に帰ってくると、お風呂場が
使われ、机にエリドルの果実酒の瓶が置かれて
いるのを見て、愛人のセナさんが勝手に来たと
思い、その果実酒ではないクラゲの毒の瓶に口
をつけたのでしょう」
四人の目は点になっていた。
それぞれの「譲れないもの」が繋がりに繋が
って、とんだ偶然により殺人となってしまった
……いや、これは事故だったのだろう。もちろ
ん同じお店で毒と果実酒を売っている雑貨屋エ
リドルにも落ち度はあっただろう。
死んだベリルは、妻が連続通り魔に殺された
事に絶望し自殺を選んだわけではなかった。
愛は死につながり、華やかさに憧れるものと
華やかさに絶望しているものがいる。あんがい
世界は相反するモノ同士でバランスがとれてい
るのかもしれない。
「それでは、あとはお任せします」
僕は唖然としている四人を横目に、この真相
にたどり着いたことに満足感を覚えたまま部屋
をあとにした。
街はすっかり日も落ち、空いた小腹を満たし
に繁華街の方へ向かった。僕は焼肉屋に入りヤ
タの肉のジンギスカンを注文し、少し固いが
ジューシーなヤタ肉を頬張りながら、明日の貿
易品の仕入れはどうしよう、と考えた。
そしてそのまま帰路につき仮宿に着くと、机
の引き出しのなかから鋭く尖り銀色に煌めく短
剣を自分のコートの内側にしまい夜の街へ引き
返した。
大通りを抜け裏路地に入る、その頃にはもう
気持ちが高揚し足が速くなっていくのを自分で
もはっきりと感じていた。
裏路地にはいってすぐのあたりに、若い女性
が帰宅の途中なのか、足早に歩いている。
僕は残虐的快感を前に興奮に震える手を押さ
えつけ、コートの内側の短剣を握り直す。
そういえば今更だが、僕にもひとつ「譲れな
いもの」があった。
僕はコートの中で握りしめていた短剣を、女
性の目の前に突き出す。
「お嬢さん、少しいいですか?」
これが僕のこの世界の生き方だった。
