神話の彼女のように無知でいられたら
私はいつまでもあなたの側に居られたのかしら
愛する者を裏切る事があらかじめ決められた運命だと知っていながら
私はあなたに笑顔を向け、あなたを悼んでいた。
あなたは強くて、そして脆いのを誰より私が知っているというのに
あなたはどんな未来を見つめているの
「誰・・・ あなたは誰なの?」
暗闇の中、マオは目を覚ました。
目を開けても漆黒の闇、誰かの声はまだ続く
ゆっくりでいい・・・ 。
あなたの役割に、あなた自身が気付くまで
「役割・・・ ?」
マオは目を見開いて、声の主の姿を求めた。
その瞬間、目の前に光りの矢が降り注ぎ、見開いた目をマオは強く閉じた。
断片的な映像がフラッシュバックする。
小さな街
小さな部屋
単純な動作
低い空
この世界の誕生
この世界の終わり
「これは記憶? それとも未来・・・ ?」
映像は途切れ、漆黒の闇がまた訪れた。
さっきの言葉は一体誰への懺悔だろう
声の主は、一体誰なのだろう
真央を待っている時間はない。
マオは、ゆっくりと目を開けると、いつもの部屋に立っていた。
そして、グッピグ帳から“ノア”のプロフィールを呼び出し、部屋を選んだ。
闇に燃えし かがり火は
炎 今は 静まりて
眠れやすく 憩えよと
誘うごとく 消えゆけば
やすきみ手に 守られて
いざや 楽しき 夢を見ん
ノアはお気に入りの広場の夕焼けを眺め、鼻歌を歌っていた。
隣ではおさげの女の子が「変な歌ー」と、つまらなさそうに言う。
「お前はセンスがない」
女の子は、ニヤリと笑うノアに向かって、怒りアクションで応えるが、ノアは別の事を考えていた。
やっと来たか。
欲求ってのは、満たされない方がいい
意志ってのは、マゾヒズムの一種だ
「おい、久々に絵合わせしてやろう」
女の子はさもつまらなさそうに「えええええ、勝つまでやめないからやだ」と、言いつつ、「んじゃ、ノア先行くよ」と、絵合わせ広場に出かけて行った。
「まったく足りない。エルなら連続で30回は入るぞ」
ノアはつぶやき、絵合わせ広場へと向かったのだった。
マオは、閑散としたノアの部屋で、さっき見た映像を思い返していた。
この世界の誕生から終わり?
なんだろう・・・ 違和感として、ナニかが残る。
そう、そうだ。
あの映像には、ピグが一体も出て来ない
最初から終わりまで、一度も出て来ないのだ
書き割りのような世界・・・ けれど、なんだろう
不思議なほどにその世界は美しかった・・・ 。
モニターの前で、エルの操縦者はすべてを見ていた。
自分の意志で動き始めたマオに、期待をかけている自分に少しだけ驚きながら。
「悪趣味だ」
エルの操縦者は、自分自身につぶやき、ずっと伏せたままだった写真立てを手に取った。
「君が果たせなかった約束を・・・ 彼女が果たしてくれるのかもしれない」
エルの操縦者は、写真立ての女性に語りかけ、写真立てを力一杯叩き付けた。
血の出る指を気にも止めず、エルはパソコンに向き合った。
さて、マオよ。
君はこの世界の救世主となるのか。
それともこの私の想像を超える結末を観せてくれるのか。
エルの操縦者は、マオのグッピグ帳に“アダム”を追加し、
まるで祈るような表情で血にまみれた指を舐めたのだった。