オーナーに貸りた、江戸時代の古道具屋が舞台の小説。
山本兼一。覚書。
「ええもんひとつ」
・・・幕末の京都で、古道具屋を営む若夫婦の成長を軸に、
京商人の心意気を描く。
幕末の三条通りとはいえ、竜馬に桂小五郎、新撰組・・と、
有名人が次々でてくるのが、まるでマンガのようだった(笑)
登場する名品は、
野々村仁清の香炉、狩野永徳、李朝の官窯。
堀三島、志野茶碗・・
現在は国宝として美術館に所蔵されるようなものたち。
それが日常の売買の中に・・!
解説にある
「骨董は世間を生きて渡り歩き、美術館で死ぬ」という言葉が印象的だった。
人の手に抱かれて一番、価値を発揮する名品たち。
「骨董界はアナクロニズムの極北で、幕末と、その業態は変わっていない。
骨董屋は、骨董屋自身が骨董なのだ」
というのもおもしろかった。
「赤絵そうめん」
・・・上記の続編。
豪商のもつ万暦赤絵の売買を通し、続きもので描かれる。
何より、舞台になる豪商の別邸が、永観堂・南禅寺前と、
我が家のすぐ近く!
でてくる東山の景色なども、毎日見ているもので、とても楽しかった
「笑う髑髏」のラストで、主人公が笑ってるようなドクロの根付を手にし、
「死んでもこないに笑うてられるのは、よっぽど満足して生きたからや。
人間、こうありたいもんやで」
という言葉が良かった。
私も、そうありたいもの!
この山本兼一さんの作品が、
直木賞作家としてはあまりにも文体・内容とも軽妙だったので、
(胸の悪くなるような人はでてこず、読後感はさわやかだった)
受賞作品である下記も図書館で借り、読んでみた。
「利休にたずねよ」
・・・利休の美の根源に、ある女性が存在したというフィクション。
利休の切腹から、時をさかのぼっていく作り。
章ごとに一人称が変わり、
利休自身、秀吉、古田織部、家康、妻たち・・等が語っていく。
とっくに映画化された作品を今更読んでみた。
茶道という、奥の深い世界をテーマにしているだけに、
あらすじには賛否両論あるよう。
私は難しいことはわからないけど、
章ごとにそれぞれの人物が利休を見ることで、
利休の色々な面を映し出す・・という作りは、とてもおもしろく読めた。
古道具屋シリーズとちがい、力作感十分な筆で、とても集中して読めた。
色々な引出しを持たれていた山本兼一さん、
古道具屋シリーズも、最後まで書ききりたかっただろうな・・と思う。
ご冥福をお祈りいたします。