読書覚書。藤沢周平

 

「ただ一撃」

「紅の記憶」

「証拠人」

「恐妻の剣」

「密夫の顔」

「嚔(くしゃみ)」・・・大事な場面でくしゃみのでる剣客のはなし。

            最後のシーンは少しブラックユーモアに感じる。

 

 

「十四人目の男」

「桃の木の下で」・・・少女漫画みたいにかっこいい男がでてくる(笑)

 

「臍曲がり新左」・・・ユーモアがあり、読後感もすごくよかった。

 

「夜の城」・・・記憶喪失からはじまる、スピード感のあるサスペンス。

「冤罪」

「一顆の瓜」

「鱗雲」

「鬼気」

「果たし合い」

「乱心」

「雪明かり」・・・映画「隠し剣鬼の爪」の原作の一つ。

         「飛び越えようとすれば飛び越えられる」というテーマがよかった。

 

 

 

 

 

エッセイ集の中から。

 

「信長ぎらい」

藤沢周平が信長ぎらいになった理由の一つ、嗜虐的な殺戮。

 

軍団どうしの戦いではない。

一向一揆の男女(しかも投降した)2万人を城に押し込めて柵で囲み、

焼き殺した長島の虐殺、

 

裏切った荒木村重の侍女など500人をたった4軒の家へ押し込め焼いた虐殺など、

戦力的に無力な者たちへの殺戮である。

 

あえて殺した信長にも理屈はあったろうが、

もっと根本的なところに殺戮に対する好みがあったように思えてならない。

 

ヒットラーにしろ、ポルポトにしろ、

無力な者を殺す行為をささえる思想・使命感をもっていたところが厄介である。

権力者にこういう出方をされると、庶民はたまったものではない。

 

文芸的に信長に人気があるのは賑やかで良いことだが、

先の見通しが悪い現代において、

信長の先見性・行動力を求める空気があると聞くと、大いに困惑してしまう。

 

たとえ先行き不透明だろうと、カリスマ性がなかろうと、

民意を汲むことにつとめ、無力な者を虐げたりしない、

我々より少し賢い指導者のもとで暮らしたいものである。

 

安易に英雄を求めたりすると、とんでもないババを引き当てる可能性があるのである。

 

 

(解説より)

司馬遼太郎が信長を評価しているのとは、対照的である。

 

司馬遼太郎は大きな視野で歴史を眺めることで信長の「異常さ」に耐えられるのに対し、

藤沢周平はそれを受け入れがたかった。

 

この違いは、歴史の大きなうねりの中の人間を描く司馬遼太郎と、

人の日常を丁寧に描く藤沢周平の作風のちがいにもつながっている。

 

 

とてもおもしろかったエッセイ。

そして昔は司馬遼太郎が好きだった私も年をとり、

今は藤沢周平と同じ見方で、信長を見ているようである。

 

 

「サチコ」

親戚が未婚で産んだ赤ちゃん(サチコ)を育てることになった、

藤沢周平の母の思い出。

 

約束通り赤ちゃんの生活費が払われないことに怒りながら育てていた母だが、

1年程して、赤ちゃんは遠い村にもらわれていくことになる。

 

2時間歩いてその村へサチコの様子を見にいった母は、

サチコがやせ細っていたことに泣き、

何度も通い、最後はサチコをおぶって連れ帰ってくる。

 

その日からサチコは、15才で実母が引き取りにくるまで母が立派に育てたのである。

 

とても厳しかった母は、他人のために泣ける人であった

 

藤沢周平の小説で、淡泊に見えて時たま強い情を感じるのは、

母親の影響なのかもしれないなぁ、と思った。

 

 

「「美徳」の敬遠」

軍国少年だった自分を回想し、

上から価値観をうえつけることへの反発が書かれている。

 

そもそも、儒教を政治に役立てはじめたのは徳川家康である。

 

それまでは「君、君たらざれば、臣、臣たらず」と、下が上を見限ることのあった武士道を、

儒教的倫理観でしばり、

「君、君たらずとも、臣、臣たり」というものに変えてしまった。

 

優秀な政治家だった家康は、儒教の中に支配に役立つものが含まれていることを

必ず見抜いたにちがいない。

そして江戸時代がおわっても、

戦争中の特攻や玉砕精神へつながっていった。「武士道とは死ぬことと見つけたり」、と。

 

今でも地域によってはこれが根強く残っていて、

個人の解放や成熟を妨げているようにみえる。

 

小説で武士世界の中心にいた人々(跡取り)を主人公にするには、

この辺りについてもう少し自分なりに整理しないといけない。

 

そのため、「武士の美徳」から比較的はずれても許されそうな、

浪人や次男三男を主人公にすることが多いのである。

 

 

どの街で生き、何の仕事をし、どんなことに幸せを感じて生きるか・・

それは親が教えこむことではなく、本人が育つ上で探していくもの・・・・

というお話。

 

 

 

その他、

即身仏になるまで土中でカーンカーンと鉦をうつ『オンギョウサマ』の話や、

「天皇の映像」、

カラーTVを買う必要はないとぼやく「流行ぎらい」、

戦争がもとで亡くなった恩師の話etc、

 

昭和2年に生まれた藤沢周平のエッセイは、

平成育ちの私にはこわいような不思議の世界だった。

 

東北の食べ物やお酒もとってもおいしそう!!

 

小説にまけずおもしろかった。