【蛸(たこ)】
頭足綱八腕目の軟体動物の総称。卵円形の頭状のところが胴で、内臓が収まっており、口状の漏斗からは墨・水・排泄物などを出す。頭は目のあるところで、口を俗にからすとんびといい、その下に8本の腕をもつ。腕には吸盤があるが、イカと異なりいぼ状。すべて海産で、肉食性。主にヤマトの海に生息し、ダイアロス周辺ではその存在は確認されていない。食べるとおいしいらしいけど、食べた事ないから分からないなー。絵にするとこんな感じらしい→Ω
~権祖出版 食べ物なんでもかんでも辞典より~
「やっぱこれだよね、間違いないよね、よーし!!」
挿絵を見て確信したライチは、勢いよく本を閉じると、愛銃を担いでシレーナの部屋を飛び出した。その勢いのまま、真っ直ぐ埠頭へ向けて走る。
程なく到着。すぐにライチは、海面をじっと見つめた。
海面のうねりは絶え間なく寄せ続けるのに、同じ場所で形を崩し、波となって港へ打ち寄せる。
その飛沫の隙間をじっと、ライチは凝視する。
そして数分後。
「いた!!」
ライチの視線の先に、先程見たものと同じモノが現れた。
波に漂う、赤い卵円状。それはまさしく、辞典の挿絵に描いてあった、蛸の姿そのものだった。
「蛸って・・・美味しそうだよね、ね。よーし。」
ライチは肩から銃を下ろすと、ライトラウンドショットと火薬を込め、狙いを定める。
「・・・一発で、仕留めちゃうよー。」
慎重に照準を合わせ・・・トリガーを引いた。
パン!
ビスク港に乾いた音が響く。
・・・同時に、「ぎゃああ!!」という悲鳴が、海中から聞こえた。
「全く、この私を蛸と間違えるとは愚かにも程があるぞ。」
スキンヘッドに貼られた大きな絆創膏を撫でながら、パンデモスの男はブツブツ呟く。
海蛇の隠れ家入り口の波打ち際。男は海に浸かりながら、砂浜にあぐらをかく。
「ええっと・・・ごめんなさいー。」
ライチは一応謝るが、内心はこう思っていた。
「(・・・うわー、変態だ。)」
それもその筈、パンデモスの男は、服は赤ふんどし一丁のみ、手にはゴールドトライデントという格好。港を行く一般市民は勿論、旅慣れた冒険者達でさえ冷めた視線を2人に送る。
居心地の悪いライチ。
そんな事お構いなしに、赤ふん男はライチに話しかける。
「まあよい。久々に同志に会えたのだから、不問にしておこう。」
「え? 同志って何?」
思わずライチは聞き返す。
「何とは何だ。お前もシェル・レランなら私の事を知っておくべきだ。私の名はシーキング。シレーナ様から海王の称号を受け賜った、誉れ高い存在である。」
シーキングはその逞しい胸を偉そうに張りながら、そう言った。
「へ、へー・・・ えと、でもレストランじゃ会った事無いですよね、ね?」
そう問われると、シーキングは一層胸を張って、その質問に答えた。
「当たり前である。私はシレーナ様より、この海域の守護を任命されておるのだ。それ以来陸地には上がっておらぬ。」
「(・・・それって、厄介払いのような気が・・・)」
「ビスク海は私の楽園、私の国。ここに住む生き物は皆、私の民。」
「(ええっと・・・向こうで国民(ダイアロスマーリン)釣り上げちゃってる人がいるんだけど・・・)」
「そして例えるなら、この港は私の城だな。玉座や謁見の間は勿論の事、実は宝物庫までここにあるのだ。」
「(あ! あの人宝箱釣り上げた。いいなー)」
「っておい、聞いているのか?」
「え? あ? はい!」
「・・・全く、王が直々に会話してやっておるというのに・・・まあよい。」
シーキングは腕を組み、ライチを睥睨する。
「それよりも久々に地上のシェル・レランと遇えたのだ。そうだな、一つ依頼を受けて貰おうか。」
「え?依頼って・・・?」
ライチの言葉を聞こうともせず、シーキングは言葉を続ける。
「聞くところによると、最近シレーナ様が新しいステーキ料理を作成されたとの事。それは、かなり高価だがこの世の物とは思えぬ美味さらしい。そのような料理こそ、我が舌に相応しいと思うのだ。」
顔色の変わるライチを気にかけることなく、言葉は続く。
「私はその料理を所望したい。無論・・・。」
と、そこでライチは話を遮った。
「無理ムリ無理ムリ! シレーナさまはレシピを誰にも見せないの。盗み見ようとしてばれてトリュフ1000個取ってこさせられた人だって居るんだよ!!」
ブンブンと、首を力一杯横に振りながら、声を上げるライチ。
「だーかーらー。無理、無理デス。それじゃ僕はこれで、ね。」
くるっと振り返り、ダッシュで逃げようと足に力を込めるライチ。
その背中に、シーキングの言葉がかけられる。
「そうか。それは残念だ。料理を持ってこれれば我が宝を1つ譲ろうと思っていたのだが・・・。」
ライチの猫耳が、ぴくっと動いた。
(第43章 完 → 第44章に続く)