真っ昼間からベッドでゴロゴロと寝転びつつ、ライチは本を読んでいた。
 ライチの眼差しは何だかとっても真剣。
 「おおー、うわ、へー。」
 ぶつぶつと独り言を漏らしながら、パラパラとページをめくっていた。
 そしてページは無くなり、ライチはパタンと本を閉じる・・・とほぼ同時に、ベッドから勢いよく起きあがり。
 「うわー、格好良いな、ピストルはー! バーン! バーン!!」
 と、部屋の中でいきなり、目に見えない銃を持って、辺り構わず撃ち始めた。
 「とおっ! ・・・ゴロゴロ、バァン・・・あ。」
 部屋で思いっきり前転し、腕を突き出して、口で発射音を鳴らして・・・いつの間にか、目の前にシレーナが立っていた。
 「何をしているのですか、ライチ君?」
 「あ・・・えと、その・・・。」
 ライチは俯いて、顔を真っ赤にさせる。その様子を見て、シレーナはくすっと短く笑った。
 「ふふっ・・・もしかして、銃器スキルを上げようとしているのかしら?」
 「・・・じゅうき・・・そうだ!」
 その言葉を聞いて、ライチは思い出した。ダイアロス島にも、攻撃手段として銃を用いている冒険者が居ることを。
 「はい! 銃器スキルあげたいです! あげたい!」
 「あらあら、元気ですわね。では、ライチ君でも使えるような銃のレシピを教えて差し上げますわ。」
 
 シレーナのメモを左手に、つるはしを右手に。くっくを引き連れて、ライチが向かった場所はビスク西門を出てすぐの岩場。
 「ふふ、ここで銅を採るんだよ、くっく。シレーナさまのメモだと、銃を造るのにも弾を造るのにも銅が必要なんだってさ。さーて、やるぞ!」
 気合一閃、ライチはツルハシを岩へぶち当てる・・・が。
 ガツン
 小さな音を立てて、石の表面が欠けただけ。
 「あ、あれ?」
 それはライチのイメージとは大きくかけ離れていたようで、手に残る痺れもあいまってライチを複雑な表情にさせた。
 2,3度ツルハシを叩き落とすが、結果は一緒。手始めに、と思った銅の石でさえ、割れない。
 それもその筈。ライチは採掘の経験が無かった。つまりスキルゼロ。
 初めから上手く行くはずもなく。
 いたずらに、石の表面に傷を作り続けた・・・が、それでも時間をかけたおかげで、何とか一個、割ることが出来た。
 「はぁっ・・・はぁっ・・・やっと、銅鉱石の欠片が一個・・・あー、疲れた。」
 噴き出す汗を拭きつつ、そこら辺の岩にドンと腰を下ろし、バナナミルクを一気に飲み干す。
 そして一息。
 「ふー、採掘ってこんな大変なんだな。まだ欠片が一個だけか・・・がんばろーっと!!」
 勢いよく立ち上がると、手頃な銅の石に向かって、再びツルハシを振るい始めた。


 もともと物覚えは良いライチ。
 どんどんと、採掘のコツを覚え、スキルを上げていった。
 そして。
 「よーし、これぐらいでいいかな・・・っとと。アレ?」
 たくさんの銅鉱石と、鉄鉱石の欠片を3つ持って、ライチはビスクへ戻ろうとしたが。
 重くて、動けなかった。
 
 泣く泣く銅鉱石を数個捨て、それでも重い鞄を背負い、足を引きずるようにゆっくりと。
 ビスク西の、溶鉱炉へ着いた。
 「はぁ・・・はぁ・・・あー、疲れた。って今日こればっかり・・・。」
 金床に腰掛け、バナナミルクで一息。だが。
 「だけど銃が僕を待ってる! よーし!!」
 すぐに、勢いよく立ち上がった。そしてポケットから、シレーナのメモを取り出す。
 「えっと・・・次は銅鉱石の欠片を3つまとめて溶鉱炉で溶かして・・・ふむふむ・・・って、どうやってやればいいんだろ?」
 溶鉱炉の前でオロオロしていると、見かねた鍛冶屋のフェブが声をかけてきた。
 「おう坊主? もしかして溶鉱炉使うの初めてか?」
 「あ、はい。どうやればいいの?」
 「おう、じゃあ教えてやるよ。まずはうちでファイヤートングを買いな。これが無いと何も出来ないからな。」
 言われたとおり、15ゴールド払ってファイヤートングを買う。
 「よし、次はその長い柄が付いてる鉄の箱に、精錬したい鉱石を入れるんだ。大きいのは一つで良いが・・・坊主の持っているぐらいの欠片じゃ、3つは必要だな。」
 鉄の箱に胴鉱石の欠片を3つ並べて入れる。
 「よーし。じゃあそれを溶鉱炉に入れるんだ。後はトングで鉱石を転がしながら、頃合いを見計らって鉄の箱を出して、すぐ水に漬けて冷やせばインゴットが出来るぞ。そら、やってみな。」
 「はーい!」
 元気よく返事をすると、ライチは言われた通りに、鉄の箱を溶鉱炉に入れる。覗き窓から様子を見ると・・・胴鉱石がカレールーのように、ドロドロと溶けていった。
 「・・・美味しそうだな。」
 余計なことを考えてしまった。と、そこで。
 「おう、坊主! もういいぞ、早く出せ!」
 という言葉が飛んだもんだから、ライチは焦ってしまい、勢いよく鉄の箱を引っ張ってしまった。
 ひゅーーー。
 ポト
 「ぎゃあああ!!」
 あまりに勢いよく引っ張り出したため、ライチは柄を離してしまった。鉄箱は綺麗な弧を描きながら・・・フェブの頭に、落ちた。
 悲鳴を聞いて、テオ・サート広場中の人間が振り向いた。
 
 「ったく、気をつけろよ、坊主。」
 「はーい、すいませんでした。」
兜のおかげで、幸いにも大火傷は免れたフェブであった。
 
 その後は順調に進み。
 残りの銅鉱石は全てカッパーインゴットになった。最後に鉄鉱石の欠片を溶かし、アイアンインゴットを作成。
 再びフェブの指導を受けつつ、アイアンインゴットを鉄の棒に。鉄の棒をネジにする。
 そしてついに。
 「よーし坊主、材料は揃ったな。」
 「はい、揃いました!」
 カッパーインゴット2つ、ネジ2つ。そして、前にソーセージを作ったときに余った木の板材を持ってきて、金床の前に並べた。
 「よし、じゃあ俺の言うとおり、組み立てるんだ。」
 「はい!」
 フェブの指導の元、着々と作業は進み・・・そして。
 「出来たー!!」
 ライチは自力で、ドワーヴントライアルーモデルを作り出した。
 「よし、初めてにしては良かったぞ。ハイグレード品と言ってもいいな。後は弾か・・・坊主、アクセサリー屋で鉄ヤスリを大量に買ってきな。」
 「はい!」
 返事良く、ライチは駆けていった。
 その後ろ姿を見つつ、フェブはライチが持っていたメモを見た。
 「しかしこのメモを書いた奴はすっげーな。ど素人からでも銃が使えるよう、採掘や鍛冶の練度まで考えて指示してやがる。一体どんなメタルマスターなんだ?」
 
 その頃、シレーナは。
 「そういえばライチ君は、何の本を読んでいたのかしら?」
 気になって、ライチの部屋に入った。そしてベッドに置かれたままの本を取り、表紙を読んだ。
 『マタギの物語 ~ホワイトゴッド山地に生きる~』
 「・・・あの子、くっく君と一緒に行くつもりなのかしら・・・。」
 
 その頃、ビスク西のペット屋では。
 「あれ・・・なんだか、さむけがするな・・・。」
 季節外れの寒気に嫌な予感を浮かべるくっくであった・・・。
 (第31章 完)