ビスク東のぺっと屋に、くっくという大きな熊がいます。
くっくのかい主はライチです。ライチはビスク港にあるレストラン、シェル・レランのコックさんです。
くっくとライチは大の仲良し。ぼうけんの旅はいつもいっしょ。だけどくっくは町に入れないから、ライチが町に入るときは、ぺっと屋にあずけられるのです。
だけどくっくの事が大好きなライチ。あさひるばん、ごはんは欠かさず持ってきて、いっしょに遊んで帰っていきます。
くっくもライチが大好きで、ライチが来るのをいつも楽しみにまっています。
だけど、ある日。
あさ、いつまでまってもライチは来ません。
「あれ? どうしたんだろう?」
くっくが心配していたら、見たことのないおじいさんがくっくの前に来ました。
「君がくっくだね。私はカマロンというんだ。実は、ライチ君がびょうきになってしまってね、今日はこれないから、かわりにごはんを持ってきたよ。」
くっくはとてもおどろきました。
「ほんとうに? ごしゅじんさまは大丈夫なの?」
カマロンは言いました。
「大丈夫だよ。あしたにはげんきになるよ。」
くっくはそのことばを信じて、一日おとなしくまっていました。
しかし、次の日に来たのもカマロンでした。
「ごめんね。君のごしゅじんさまは、まだ良くならないんだ。早く良くなるように、医者も呼んでいるんだけどね。」
くっくはしんぱいしました。早く良くなって、早く遊ぼうよ。そう祈りながら、一日をすごしました。
しかし、その次の日も、その次の日も。
ライチは来てくれません。
もう、いてもたってもいられません。ついに、くっくはぺっと屋をとびだし、町に出てしまいました。
ライチの匂いを追って、くっくはレストラン、シェル・レランまでやって来ました。
そして、開いているまどをのぞいたら。
そのへやのベッドに、ライチが寝ていました。
「あ、ごしゅじんさま!」
くっくはこえをかけますが、ライチは気付きません。それどころか、とっても苦しそうなひょうじょうです。
それもそのはず。ライチはびょうきがなおらず、高ねつにうなされているのです。
そのへやに、女のひとが入ってきました。そしてまどのくっくに気付きました。
「あら? なぜこんなところに熊がいるのですか・・・もしかして、君はくっく君ですか?」
くっくは答えました。
「はい、ぼくはくっくです。」
「やはりそうでしたか。私はシレーナといいます。ライチ君のかんびょうをしているのですわよ。」
くっくはしんぱいそうに、聞きました。
「あの、ごしゅじんさまは、大丈夫ですか?」
シレーナは答えました。
「ええ、くすりさえ作れれば、すぐに良くなりますわよ。今はくすりのざいりょうがそろうのを待っているのですわ。」
すると、その部屋に、また別の人が入ってきました。
「シレーナさま。いま、れすくーる川からもどってきました。今日もだめでした。グリードルのすがたは、一匹も見えませんでした。」
釣りざおをもった男の人は、うなだれてしまいました。
「そうですか・・・困りましたわね。」
シレーナは、困ったかおをします。
「あの、どうしたのですか?」
くっくが聞いたら、シレーナは答えました。
「じつはですね、ライチ君のびょうきを治すくすりは、おいしいライスなのですけど、ライスをたくのにひつような「わき水」が無いのですわ。「わき水」はグリードルという魚のおなかにたまっているのですけど、そのグリードルがつかまらないのですわ。」
くっくはそれを聞いておどろきました。
「それじゃ、ごしゅじんさまのびょうきはなおらないの?」
シレーナはさらに困った顔になります。
「「わき水」さえ手に入れば、すぐによくなるのですけど・・・。」
すると、くっくが言いました。
「ぼくのすんでいた山に、グリードルがたくさんいる川があるから、ぼくがつかまえてきます!」
そう言うと、くっくは走っていきました。
しかし、その山では、おそろしいできごとがまちかまえていたのでした・・・。
(第28章 完 → 第29章へ続く)