「あぁ・・・いいねぇ。そう、まるで自分が自然と一体になっている感じで・・・あぁ、いいよ・・・おぅけぃ、完璧だ。」
 その合図を聞いて、ライチは手を止める。
 「ど・・・どうです?」
 不安げな顔で、ライチは聞く。
 その不安をうち消すような笑顔で、フォレールのギルドマスター・ガストは優しく答えた。
 「成功だよ、ライチ君。ほら、見てみな、サヤマの嬉しそうな顔を。チェリッシングも、もう完璧にこなせるようになったね。」
 「ホントですか? じゃ、じゃあ・・・?」
 「あぁ、別れとは切なく悲しいものだね。けど君は行くんだよね。とりあえず、これで調教の初歩は卒業だよ。」
 「・・・っやったー!!」
 飛び上がって喜ぶライチ。
 「やったー。やっとペットが飼えるー! 何飼おうかな、飼おうかな?」
 「おおっと、その前に忠告だよ、ライチ君。」
 ガストはライチの前に立つと、その右手をポンとライチの肩に乗せる。
 「ライチ君のスキルだと、ペットになってくれるのは、街の側に住んでいる弱い獣たちだけなんだ。しかも、一匹しか連れて歩けないよ。何を飼うかしっかり考えてから、迎えにいくんだよ。」


 アルビーズの森からヌブールの村に入り、アルターを通ってビスクへ。
 その間、ライチはずっと考えていた。
 「何を飼おうかな? スタンダードに犬とかいいし、猫もねずみも可愛いし、鳥もいいなー・・・。」
 港へ向かってテクテク、坂道の手すりにひょいと登り、トコトコ歩きながら。港では柵の上をまるで綱渡りのように、ヒョイヒョイ歩きながらも。
 まだ悩んでいた。
 「でもやっぱ、飼うなら一緒に戦える動物がいいなー。ライオンとか虎とか鹿とか・・・。」
 と、いつの間にか、ビスク港のレストラン、シェル・レランに着いていた。
 「あれ? いつの間にここ来てたんだ? ・・・ま、いいや。シレーナさまに報告してこよーっと。」
 トトトッと駆けてシレーナの部屋へ。そして、扉をノックしようとしたら・・・中から、声が聞こえた。
 「全く、どうして貴方達は、こういつもいつも厨房師装備をなくしてしまうのですか?」
 「申し訳在りません、シレーナ様。今回我々は辺境の間に飛ばされてしまいまして・・・。」
 「言い訳はいいですわ。それで、また厨房師装備が欲しいのですか?」
 「ええ・・・それで、シーフードリゾットを頂けたら・・・。」
 「残念ですが、今日から厨房師装備のクエストが変わりましたの。新クエストは、闘技場で私と拳を交えて、一本取る事ですわ。さあ、闘技場へ参りましょう。」
 「・・・し・・・シレーナ様、そそ・・・そんな。」
 「要するに、貴方達が強ければ門番なんかに負けないのですわよ。ビシビシと、鍛え直して差し上げますわ。」
 その後に聞こえた叫び声は、もう言葉になっていなかった。
 ライチは急いで、扉から離れる。
 「うわわわ、シレーナさま怒ってたな・・・そうだ!」
 その姿を想像し、ライチはピンと閃いた。


 ビスク東の門から出て、レスクールヒルズを北へ向かう。
 剥き出しの岩肌が段々と迫り、地面は段々と傾きはじめる。
 ガストから貰った、仲間に出来る動物たち一覧表。その中に、この山に住む獣がいた。
 そう、レスクール・ベアーである。
 「熊さーん、どこですかー? 僕のペットになってよー。」
 崖を登り岩を飛び、ライチは熊を捜す。
 「居ないなー。どこかいないかなー。」
 と、遠くをキョロキョロ見回しながら捜している・・・と。
 見つけた。遠くの尾根で、ノシノシと歩く黒い巨体を。
 「居た! よし、早速・・・って、あれ?」
 ライチはその方向に、勢いよく駆けだした・・・が、数歩で気付いた。
 足の下に、地面が無い事に。そしてライチは、万有引力の法則に従って、崖から落下した・・・。
 「うわーーーー!!」
 ゴィン!!
 そして地面に落ち、ライチは大ダメージを・・・受けなかった。
 地面にいた何かと激突。丁度クッション代わりとなった。
 勢い余って地面に転がるが、「いててて・・・」とすぐ口に出せるぐらい軽傷。すぐ、ライチは起きあがり、上を見た。
 そこには崖がある。そして、ライチが落ちたであろう場所も。
 「うわわわ・・・あんな所から落ちちゃったのか、よく無事だったな・・・。」
 と、横を見ると。
 大きな熊が、頭を押さえてうずくまっていた。
 「ガウガウガウ、ガウウウウ(何だ何だ?、痛たたた・・・)」
 ライチはその熊に駆け寄ると、心配そうな顔で声を掛ける。
 「あ、あの、大丈夫?」
 「ガ、ガウガウ(ああ、平気だぜ。)」
 「ごめんなさい! ちょっと急いでたもんで、足を踏み外しちゃって。」
 「ガウガウ、ガウウウガウ(いいってことよ、お互い無事だったんだから、それでいいじゃん)」
 「あ、ありがとうございます。それじゃ僕、急ぐからこれで!」
 そう言うと、ライチは落ちた崖に登り始めた。
 「ガウウウ(気を付けろよ、また落ちるんじゃねーぞ)」
 「だいじょうぶだよー♪」
 ライチは手を振りながら、崖をすいすいよじ登る。熊はその様子を見て、安堵の表情を浮かべ、森の中へ潜っていく。
 「ふんふんー、親切な熊だったなー。上にいた熊もあの熊ぐらい親切だったら、ペットにし甲斐もあるなー・・・って、あれ?」
 中段まで登って、ようやく気付いたようだ。
 「ああ! 今の熊をペットにすればいいんじゃん!! ちょっと待ってー!!」
 ライチは大急ぎで、崖を下り始めた。
 
 「はぁ、はぁ・・・よかった、近くにいて。」
 「ガウガウ、ガウウウ?(おいおい、どうしたんだ?)」
 森の中。のっしのっしと歩いていた熊に、ようやく追いつくライチ。スタミナ切れ寸前で、肩で息をしつつ、ポケットからバナナミルクを取り出して飲み干す。
 「ふぃー、楽になった・・・さてと。」
 ライチは熊の正面に立つと。
 大声で言った。
 「あの、僕、一緒に旅をしてくれるペットを捜してて、それで熊さん、一緒にきてくれませんか?」
 「ガウウウ? ガウガウガー!(もしかしてアニマル・フェイタライズか? さて、どうするべきか・・・。)」
 と、熊が悩んでいると。
 ライチはいつの間にか目の前まで来て、熊の顔を触る。
 そして・・・ガスト直伝の、地獄のアニマル・フェイタライズが始まった。
 「ガウーーー!!(ちょっと待て、待て、それは気持ちが悪い、うわーー!!)」
 
 レスクール・ベアーは仲間になりました。
  
 「ガウ、ガウ・・・(はぁ、はぁ、分かった、一緒に行く。)」
 「ホント? 良かった、バンザーイ!!」
 ライチは熊の周りで飛び跳ねる。
 「ガウウ(ったく、こいつの先が心配だな。オレがしっかりフォローしないとな。そうそう、オレの名前だけど、魚津万ベア九郎って・・・)」
 「そだ、名前決めないと・・・そうだ! 料理人になるなんだから、クックにしよう! よろしくね、クック!」
 「ガウウウ!(いや、オレの名前は魚津万ベア九郎だって・・・)」
 「クックー、クックー、僕の友達ー♪」
 「ガウ(いや、だから・・・)」
 (第22章 完)