ドワーフvsオーク
反乱エルガディン軍vs正規エルガディン軍
ギガースvs掘り士
バルドスvs金策者
等々、イルヴァーナ渓谷では、常日頃からまるでWarageのような、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。
そんな殺伐とした土地に、懲りもせず踏み入れる足が一つ。
そう、ライチである。
目的は勿論、前回殆ど果たせなかった、リバーマンテイル釣り。
流石のライチも反省したようで、今回は敵の出現場所を調べ上げ、地図に書き込んできた。勿論、鞄には逃走用のワインも入れてある。
「よーし、今度こそリバーマンテイルをたっくさん釣るぞー!!」
拳を突き上げて気合いを入れてから、目に映る全ての敵を大回りで避けつつ進んでいった。
その甲斐あって、一度も襲われることなく湖へ到着。前回と同じように、湖を泳いで渡り、対岸の岩山までたどり着いた。
そして、すぐに釣り糸を垂らした。
偶然なのか。
はたまた、魚を捕る才能がずば抜けているのか。
ライチはポンポンと、リバーマンテイルを釣り上げていった。
調査の甲斐あってか、時折やってくるレイクグリフォンや、夜になると現れるサイクス達を上手に避けながら、順調に、あくまで順調に釣りは続いていった。
そして順調は時として退屈を招くものでもある。
そして退屈が招くものは・・・油断。
穏やかな昼下がり。
弁当代わりに持ってきたローストスネークミートも全て食べ終え。
ついウトウトと、釣り竿を握りながら瞼を閉じたり開いたり。
と、その瞬間。その手が、思いっきり引っ張られた。
「・・・うわ! 何だ何だ?」
ライチは慌てて釣り竿を思いっきり握ってしまう。竿はたわみ、糸はピンと張る。
リバーマンテイルとは明らかに違う、大物がかかっていた。
そのあまりの引きに、ライチは思わず力一杯引いてしまった。そして。
プツン!
ほんの小さな音と共に、引きが一瞬で消える。
「うわ、わわわわ!!」
しかしライチが腕の力をすぐに緩められるわけはなく。ライチは仰向けにひっくり返ってしまった。
「・・・・・・イタタタ。あーあ、逃げられちゃった。」
針と浮きと重りが消えた糸の先を見ながら、ライチはがっかりと頭を垂れる。
「でも、今の何だったんだろう。すっごい手応えだったなー・・・あ!」
そこでライチは思い出した。
カマロンが呟いた言葉を。
「イルヴァーナ渓谷の湖には、トレジャーボックスが流れているという噂があります。何でも盗賊の宝物庫が土砂崩れで流れ、保管してあったトレジャーボックスが全て湖に落ちてしまったとか。まあ、噂の域は出ておりませんが。」
「もしかすると、今引っかかったものが、トレジャーボックスかもしれないな。この湖で釣れる魚はリバーマンテイルだけの筈だし。もし、もしトレジャーボックスが釣れたら・・・。」
ライチはピョンと跳び上がると、大急ぎで針と糸と浮きと餌を取り付け。
「トレジャーボックスが釣れたら、お金が手に入って、美味しい物が沢山食べられる!!」
そう叫びながら、さっきの大物を釣り逃した水面へ向けて、木の釣り竿を思いっきり振り降ろした。
・・・しかし一度逃がした獲物はそう簡単に捕まらず。
浮きは浮かびっぱなし。
「むー。絶対釣ってみせるんだから!!」
沈む太陽に、まるで青春を叫ぶ若者のように、声を張り上げて誓うライチであった。
陽と月が、そして月と陽が入れ替わる。
だがライチは、未だにその岩場に居た。
「ううう・・・釣れないよー。」
堪え性のないライチにとって、丸一日同じ場所に座るという行為だけでも奇跡に値するが。
それより先の奇跡は、未だ起きなかった。
針にかかるのはリバーマンテイルのみ。既に欠伸をしながらでも釣れるようになってしまった。
「うーん・・・餌が少ないな。」
小袋の中を見て、ライチは呟く。トレジャーボックスを釣るのに餌は必要無いだろうが、リバーマンテイルが釣れなくなったら面白みも無くなる。
餌が無くなったら帰ろう、ライチはそう決めた。
そして時間は過ぎ・・・。
ついに最後の一個が、針にかけられる。
この時点でライチは完全に諦めモード。浮きを見ることもなく、ぼおーっと流れる雲だけを目で追いかけている。
と、その瞬間。
竿が思いっきり引っ張られた。
しかし、ライチはまるでそれが分かっていたかのように、落ち着いて竿を握りなおす。
「やった! 秘技、ぼーっと作戦大成功! こういう時に引っかかるのがお約束だもんね。よーし、釣るぞ!!」
糸が切れないよう、慎重に竿を持ち上げる。糸は左右にふらふら揺れる。目を凝らすと・・・水底に、確かに木箱が見えた。
乱水流に乗って湖底を流れていたのだろう。釣り上げ方は勿論、普通の魚とは異なる。
ライチは、あーでもないこーでもないと、一生懸命釣り方を考えながら、ゆっくりと箱を水面へあげていった。
箱も釣り上げられまいと、その大きな体を左右に揺さぶる(水流に乗っているだけだが)
軋む釣り竿。ピンと張る糸。弾ける水飛沫。箱に取り巻く小さな白い泡。
そして。
ついに木箱は、その姿を大気中に表した。最後の力を込めて、それを地面まで持ち上げる。
「やっっったーー!!」
竿を放り投げて、喜びを爆発させるライチ。すぐさま、箱に駆け寄る。
そして、その蓋に手を当て、ゆっくり持ち上げる。
ギギッ・・・。
鍵はかかってなかったようで、蓋は簡単に開いた。
ライチは、中を覗き込む。
そこには。
何も入っていなかった・・・いや、正しくは紙切れが一枚だけ入っていた。
その紙切れにはただ一言、こんな言葉が書いてあった。
「はずれ」
怒りに任せて、箱を湖にぶん投げるライチの姿があった・・・。
(第18章 完)
反乱エルガディン軍vs正規エルガディン軍
ギガースvs掘り士
バルドスvs金策者
等々、イルヴァーナ渓谷では、常日頃からまるでWarageのような、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。
そんな殺伐とした土地に、懲りもせず踏み入れる足が一つ。
そう、ライチである。
目的は勿論、前回殆ど果たせなかった、リバーマンテイル釣り。
流石のライチも反省したようで、今回は敵の出現場所を調べ上げ、地図に書き込んできた。勿論、鞄には逃走用のワインも入れてある。
「よーし、今度こそリバーマンテイルをたっくさん釣るぞー!!」
拳を突き上げて気合いを入れてから、目に映る全ての敵を大回りで避けつつ進んでいった。
その甲斐あって、一度も襲われることなく湖へ到着。前回と同じように、湖を泳いで渡り、対岸の岩山までたどり着いた。
そして、すぐに釣り糸を垂らした。
偶然なのか。
はたまた、魚を捕る才能がずば抜けているのか。
ライチはポンポンと、リバーマンテイルを釣り上げていった。
調査の甲斐あってか、時折やってくるレイクグリフォンや、夜になると現れるサイクス達を上手に避けながら、順調に、あくまで順調に釣りは続いていった。
そして順調は時として退屈を招くものでもある。
そして退屈が招くものは・・・油断。
穏やかな昼下がり。
弁当代わりに持ってきたローストスネークミートも全て食べ終え。
ついウトウトと、釣り竿を握りながら瞼を閉じたり開いたり。
と、その瞬間。その手が、思いっきり引っ張られた。
「・・・うわ! 何だ何だ?」
ライチは慌てて釣り竿を思いっきり握ってしまう。竿はたわみ、糸はピンと張る。
リバーマンテイルとは明らかに違う、大物がかかっていた。
そのあまりの引きに、ライチは思わず力一杯引いてしまった。そして。
プツン!
ほんの小さな音と共に、引きが一瞬で消える。
「うわ、わわわわ!!」
しかしライチが腕の力をすぐに緩められるわけはなく。ライチは仰向けにひっくり返ってしまった。
「・・・・・・イタタタ。あーあ、逃げられちゃった。」
針と浮きと重りが消えた糸の先を見ながら、ライチはがっかりと頭を垂れる。
「でも、今の何だったんだろう。すっごい手応えだったなー・・・あ!」
そこでライチは思い出した。
カマロンが呟いた言葉を。
「イルヴァーナ渓谷の湖には、トレジャーボックスが流れているという噂があります。何でも盗賊の宝物庫が土砂崩れで流れ、保管してあったトレジャーボックスが全て湖に落ちてしまったとか。まあ、噂の域は出ておりませんが。」
「もしかすると、今引っかかったものが、トレジャーボックスかもしれないな。この湖で釣れる魚はリバーマンテイルだけの筈だし。もし、もしトレジャーボックスが釣れたら・・・。」
ライチはピョンと跳び上がると、大急ぎで針と糸と浮きと餌を取り付け。
「トレジャーボックスが釣れたら、お金が手に入って、美味しい物が沢山食べられる!!」
そう叫びながら、さっきの大物を釣り逃した水面へ向けて、木の釣り竿を思いっきり振り降ろした。
・・・しかし一度逃がした獲物はそう簡単に捕まらず。
浮きは浮かびっぱなし。
「むー。絶対釣ってみせるんだから!!」
沈む太陽に、まるで青春を叫ぶ若者のように、声を張り上げて誓うライチであった。
陽と月が、そして月と陽が入れ替わる。
だがライチは、未だにその岩場に居た。
「ううう・・・釣れないよー。」
堪え性のないライチにとって、丸一日同じ場所に座るという行為だけでも奇跡に値するが。
それより先の奇跡は、未だ起きなかった。
針にかかるのはリバーマンテイルのみ。既に欠伸をしながらでも釣れるようになってしまった。
「うーん・・・餌が少ないな。」
小袋の中を見て、ライチは呟く。トレジャーボックスを釣るのに餌は必要無いだろうが、リバーマンテイルが釣れなくなったら面白みも無くなる。
餌が無くなったら帰ろう、ライチはそう決めた。
そして時間は過ぎ・・・。
ついに最後の一個が、針にかけられる。
この時点でライチは完全に諦めモード。浮きを見ることもなく、ぼおーっと流れる雲だけを目で追いかけている。
と、その瞬間。
竿が思いっきり引っ張られた。
しかし、ライチはまるでそれが分かっていたかのように、落ち着いて竿を握りなおす。
「やった! 秘技、ぼーっと作戦大成功! こういう時に引っかかるのがお約束だもんね。よーし、釣るぞ!!」
糸が切れないよう、慎重に竿を持ち上げる。糸は左右にふらふら揺れる。目を凝らすと・・・水底に、確かに木箱が見えた。
乱水流に乗って湖底を流れていたのだろう。釣り上げ方は勿論、普通の魚とは異なる。
ライチは、あーでもないこーでもないと、一生懸命釣り方を考えながら、ゆっくりと箱を水面へあげていった。
箱も釣り上げられまいと、その大きな体を左右に揺さぶる(水流に乗っているだけだが)
軋む釣り竿。ピンと張る糸。弾ける水飛沫。箱に取り巻く小さな白い泡。
そして。
ついに木箱は、その姿を大気中に表した。最後の力を込めて、それを地面まで持ち上げる。
「やっっったーー!!」
竿を放り投げて、喜びを爆発させるライチ。すぐさま、箱に駆け寄る。
そして、その蓋に手を当て、ゆっくり持ち上げる。
ギギッ・・・。
鍵はかかってなかったようで、蓋は簡単に開いた。
ライチは、中を覗き込む。
そこには。
何も入っていなかった・・・いや、正しくは紙切れが一枚だけ入っていた。
その紙切れにはただ一言、こんな言葉が書いてあった。
「はずれ」
怒りに任せて、箱を湖にぶん投げるライチの姿があった・・・。
(第18章 完)