ビスク西、闘技場前。
そこは、ダイアロス島で一番の、強者が集う場所。
その理由は一つ。ダイアロス島一の戦闘系ギルド「武閃」の本部が置かれている為。
今日もまた、ギルドの斡旋する仕事を求めて、腕に覚えのある冒険者達が本部内を賑わしていた。
そんな中に、場違いな厨房師装備で身を包んだライチが、扉を開け入ってきた。トコトコと、冒険者達をかき分け、一直線にギルドマスター・オグマの座るカウンターまでやってくる。
「あの、すいませーん。護衛を頼みたいんですけど・・・。」
「何だ? 坊主は俺のファンか? 悪いが依頼は隣のカウンターで受け付けているから、そっちへ行ってくれ。」
「あ、あの。紹介状があるんです。それをオグマさんに渡せばいいって言われて・・・。」
ライチはぞうさんリュックの中から、封筒を取り出してオグマに渡す。
「誰だ、紹介状なんて書いた奴は。生半可な奴だったら承知しないぞ!」
そう言いながら、オグマは封筒を破って手紙を取り出し、目を通す。
すると。
それまで赤かった顔色が、まるでリトマス紙のように、いきなり青く染まった。
そして、手紙を大事そうに折り畳むと。
「えとな・・・坊主。明日の朝、とびっきりの護衛を用意しよう。」
「エスリン、今ビスクで一番腕の立つ傭兵団を至急来させろ!」
「ええーっ、ですけど、そんな方達は皆、仕事が決まっていますけど・・・。」
「どんな仕事でもキャンセルさせろ! こっちの仕事はサー・シレーナからの依頼だ! 超S級のクエストと考えろ!!」
「え? あ、はい! わ、分かりました(あのオグマさんがこんなに震えるなんて、一体どんな方からの依頼なのかしら・・・)」
翌日、朝。ライチは装備を調えて、再び武閃本部を訪れる。
扉を開けると、いきなり声をかけられた。
「お、貴方がライチさんですね。厨房師装備だから、すぐ分かりましたよ。」
「あ、お兄さんが護衛の人ですか?」
男は、にっこりと笑いながら受け答える。
「ええ。私と、ここに居る十人で貴方の護衛にあたらせて貰います。えと、自己紹介をしないといけませんね。まずは団長から・・・って、団長は?」
他の傭兵団員が一斉に辺りをキョロキョロと見回すと。
「ねえ、エスリン。こんなつまらない仕事さぼってさ、僕とデートしようよ、ね?」
「あ・・・あの・・・困ります・・・。」
カウンターに両手をついて、女性を口説いている赤髪のニューター。エスリンは顔を赤く染めて、うつむいている。
「ったく貴方って人は、どうしてそんなに節操ないんだ!!」
男の手裏剣が、赤髪のど真ん中に命中した。そして、ぐったりした赤髪のニューターを引きずってくる。
「はあ・・・はあ。お見苦しいところをお見せしました。さあ団長、依頼主に挨拶を。」
「ん? もしかして君が、例のシェル・レランからの依頼主?」
赤髪のニューターは一瞬で生き返ると、ライチと目線を合わせるように屈んで話し始める。
「え? えと・・・シレーナさまからの紹介だから、そうなのかな。」
「シレーナ様! シレーナ様といえば、シェル・レランの美人オーナーだよね?」
その言葉に、ライチは首をかしげる。
「えと、綺麗な事は綺麗ですけど・・・。」
「この仕事を完璧にこなせば、シレーナ様からお褒めの言葉を貰え、もしかするとご褒美を上げましょうって言われて寝室とか連れて行かれて・・・ふふふふ・・・よーし、野郎共、気合い入れていくぞ!!」
赤髪のニューターは、1人で盛り上がる。他の団員は、冷ややかな目。ライチは状況についていけず、ポカンとしている。
「おっと、自己紹介がまだだったね。僕らはリズム傭兵団、僕は団長のチロっていうんだ。宜しくな!」
噴水を潜り、再びやってきた地下水路入口。
リズム傭兵団とライチは、マップを中心に車座となる。突入前の、最後の打ち合わせ。
まとめ役は、副団長と名乗った黒髪のニューター。
「依頼内容の再確認をいたしますけど、モヤシとこんにゃく芋の自生区域調査、収穫中の護衛、及びマップ作成補助だけで宜しいのですね?」
「はい。お願いしますー。」
「了解しました。それでは、次に作戦ですけど。このマップは我々が調査した時に作成したものなのですけど、奥の方はまだ未調査となっております。ですが、モヤシの自生区域は発見したので、そこまではすぐに案内出来ます。」
副団長はイクシオンボーンを指し棒代わりに、説明を続ける。
「まずは大水路まで駆け抜けましょう。それからモヤシの自生する部屋へ行き、収穫。ここまではきっと簡単ですね。それからこんにゃく芋が自生している場所を探索しましょう・・・これで宜しいですか、団長。」
その時、団長は。
「ねえ、彼女。僕と一緒に夜の地下水路を探索しない?」
他パーティーのニューター女をナンパしていた。
次の瞬間、イクシオンボーンが、その側頭部に深々と突き刺さったのであった。
副団長の言う通り・・・にはいかず。モヤシが自生する部屋に到達した時、パーティーは既に肩で息をする状態に。
原因は勿論。
「うわー、広いなー。あっちってどーなってるのかなー?」
と言ってはウロチョロしたり。
「わ、変なゴーレムだ・・・って、こっちに来るよー、助けてー!」
と言ってはトレインさせたりと。
原因の根元は、何事もなかったかのようにモヤシを摘み始める。それを見ながら、団員の1人は呟いた。
「・・・はあ・・・このミッションが、超S級って言われる理由が・・・分かったぜ・・・。」
モヤシの収穫を終え、再び地下水路を歩く。
程なく、マップのUnknown部分に踏み込んだ。未知の領域、未知の敵。そんな中、副団長は冷静にペンを走らせ、団長と団員は敵を次々に屠りさる。
しかし・・・ライチだけは相変わらず。
「ねーねー、あっち行ってみようよ。何かずっと奥の方まで続いているみたいだよー!」
マイペースで、進みたい道を進み始めた。傭兵団は半ばあきれ顔で、その後をついていく。
トコトコと、細く長い通路を歩くパーティー。と、そこで副団長が気付いた。
「変ですね。この通路だけ、やけに長いですね。まるで最奥に続いているような・・・。」
しかし構わずライチは歩く。そして、曲がり角を見つけると、真っ先に曲がった。
と、次の瞬間。ライチはあまりの光景に、足を止めた。続けて傭兵団が、その光景を見つめる。
その先には、ゴーレムの大群。その中に、一際大きいゴーレムがゆっくりと首を回し、パーティーの方を向く。その顔を見て、副団長は呟いた。
「ラスレオ大聖堂の文献で見た事があります・・・あれは史上最強のゴーレム、ガイアです。そんな怪物がこんな所にいるなんて・・・どうします、団長?」
と、副団長がチロを向くと。チロはニヤリと笑って、こう言った。
「あんな獲物を前にして、おめおめ逃げられるか。野郎共、いっちょ・・・。」
「いや、逃げましょう。危険ですし。」
拳を振り上げるチロを無視して、ライチは冷静に言った。
「そうですね。あれをやるには準備不足でしょうし。団長は女性にあげるお宝目当てですし。任務はこんにゃく芋とモヤシを取るだけですしね。」
副団長がチロの後頭部にミートボムを叩きつけてから。パーティーは来た道を引き返した。
その後、パーティーはこんにゃく芋が自生する部屋を発見。滞りなく収穫を終える。そしてそのまま、地下水路を出たのであった。
地下水路の最奥で、膝をついて哀しむゴーレムが居た事など、知るはずもなく。
「タタカイトカ・・・シナイノカヨ・・・オレノデバンハ・・・コレダケカヨ。」
(第15章 完)
おまけ
翌日、団長はシェル・レランへ。
程なく、ビスク港に浮かんでいるところを団員に発見されたとか、されないとか・・・。
(おまけ 完)