右手にシェイカー。心にシレーナさま。唇にイチゴミルク。背中のぞうさんリュックに入ってるお金は11G。
 そんな姿で、ネオク・ラング醸造屋の椅子に座るライチ。机に上には沢山のイチゴミルクと、メモ代わりにもなるレシピ・バインダー。
 そこには、シェル・レランのシェフに聞いて回った成果が、汚い字で書かれている。
 もう一口、イチゴの味を楽しんでから、ライチはそれに目を通した。
 「えっと・・・イチゴミルクに関係あるのは・・・あった! えっと、イチゴミルクは原価売りか。うーん、じゃあ、原価で売ってみようーっと。」
 ライチは椅子から飛び降りると、木箱に綺麗にイチゴミルクの瓶を並べ始めた。
 そして、醸造屋の前で露店を開く。
 2時間後。
 「ありがとーございましたー!!」
 最後の客が立ち去るのを見届けてから、空になった木箱を持って飛び上がった。
 「やったー、売れたー!」
 木箱を抱えたまま、崖を駆け上がって醸造屋へ戻る。そして再び、レシピ・バインダーを広げた。
 「イチゴミルクはもう目を瞑っても作れるから・・・次は何かな。えっと・・・あ、これだ! 次はバナナミルクか。ええっと、バナナミルクは醸造の華、沢山作って沢山売れ、か。それなら沢山作って、沢山売ろうっと。」
 ぴょん、と飛び降りるように椅子から立ち、シェイカーを右手に持つ。レシピ・ノートに記した作り方に目を通し。
 ひたすら腕を振って・・・そして。
 テーブルの上に積み上がる、バナナミルクの山。それをせっせと木箱に詰め、崖を駆け下り、露店を開いた。
 3分後。
 「ありがとーございましたー!」
 山のようにあったバナナミルクは、あっという間に売り切れた。黄色い液体が詰まった瓶を見た冒険者達は、先を争うようにライチの露店へ走り、皆両手一杯に抱え金を払っていった。
 最後の客が立ち去るのを見届けてから、空になった木箱を持って飛び上がった。
 「やったー、すごい売れたー!!」
 木箱を抱えたまま、崖を駆け上がって醸造屋へ戻る。そして三度、レシピ・バインダーを広げた。
 「バナナミルクの次は何を作ればいいのかな・・・えっと・・・あ、あった! 次はワインがいいんだ。ワインはめいていが来るまで我慢しろ・・・か。えっと・・・どういう意味だろ? それと、ライチ君は飲んじゃ駄目、か・・・って、これはシレーナさまの字だ。何でだろう? まいいや、作ろー!」
 レシピ・ノートに記してきた製造法に目を通し、材料を揃え、作り始める。
 そして、机の上が占拠されるぐらいのワインが完成した。
 「ふー、疲れたー。さて、売りに行こうー!」
 ワイン入りの瓶を木箱に並べ、積み重ね、持ち上げ。崖を降りて露店を開く。
 そして・・・3時間後。
 「・・・売れなーい!」
 ライチは苛つくように、そう叫んだ。地面に尻だけでなく、背をつけて空を見上げてしまう。
 その視界の端に残る、山のようなワイン。
 これまでそれは、只の一本も売れていなかった。
 「めいていが来るまで我慢って・・・いつ来るんだ? 第一、めいていって何だろう?」
 ぶつぶつ愚痴るが、ワインは売れない。
 と、ふとライチはそのワインに視線を移し、紫色の液体をじっと眺めた。
 「こう見ると・・・やっぱ美味しそうだな。飲んでみようかな・・・いや、でもシレーナさまが・・・でも、どうせこんだけあるんだし、いいよね、いいよね?」
 誰に許可を求めるわけでもなくそう呟くと、ライチは身をピョンと飛び起こして、瓶の一本に手をかけた。
 そして栓を抜き、口を付ける。
 「・・・! こ、これは・・・美味しい!」
 そう思ったが最後、2度、3度と口を付け、ついに瓶を空にしてしまった。
 そして・・・。


 「お疲れさまでした。」
 ヴェルデに見送られながら、ネオク・ラング支店を出るシレーナ。
 「さて、視察も終わった事ですし・・・そうですわね、ライチ君の様子でも見に行きますか。」
 シレーナはネオク・ラングの広場を通り、醸造屋の前に行く。
 すると・・・その店の前に佇む、緑髪のエルモニーを見つけた。
 「あ、居ましたわね・・・って、ええ?」
 と、そのライチの周囲を見て、シレーナは驚いた。
 周りには、おびただしい数の空き瓶。そして近づいて分かる、強烈な酒の匂い。
 「もしかしてあの子・・・ワインを飲んだのですね。こら、ライチ君!!」
 シレーナの怒号で、振り向くライチ。しかしその目は据わっていて、焦点は定まっていない。
 「ふふ・・・。」
 ふらふらと揺れながら、薄く笑う。
 「もう、飲んでは駄目と書いておいたのに・・・こら!」
 ライチを捕まえようと、シレーナは手を伸ばす。
 が。
 ヒラリ、とその身をねじって、手を避けた。
 ボーンレス(酩酊スキル1 酔った状態で予測不可能な動きをして攻撃をかわす)
 そしてトトトッと千鳥足で、距離を取る。
 「あー、もう、こら、待ちなさい!!」
 「・・・ふふ・・・カユ・・・ウマ・・・。」
 シレーナは二度、三度と手を伸ばすが、その都度ライチはひらりひらりと華麗にかわし・・・。
 追いかけっこは、日が暮れるまで続いたのであった。


 翌日。
 「うわーん! 気持ち悪いよー! 頭痛いよー!」
 ベッドで泣き叫ぶライチ。
 「あれだけ飲んだら二日酔いになるのは当たり前です。少しは反省する事ですわね。」
 シレーナはそう言い放つと、冷えたミニウォーターボトルを置いて、部屋を出た。
 
 【ライチの現在のスキル】
 料理:35.4
 醸造:13.1→42.4
 呪文抵抗:0.5
 酩酊:0→10.4!
 (第11章 完→第12章へ続く)